コンサート旅行 2


 昨晩、マサチューセッツのチカピー市という所の中学校(生徒数1200人、非常に大きな建物ですぐに迷子になってしまった。)の900席の講堂で、ポーランドのオーケストラとショパンのコンチェルトを弾きました。今ニューヨークへ帰る電車を待っています。
 小さな町だったせいか、それともポープ(日本語では教皇様というのかな、ローマのバチカンで全世界のカトリックの一番上の人です)の在位25周年を祝してという名目のせいか、なんだかテレビカメラが入ってインタビューがあって、かなりイベント化してあるコンサートでした。
 ところが、ピアノはフルコンだったものの、メーソン・アンド・ハムリンという、私の割と好きでない種で、しかも主催者が「今朝、ちゃんと調律してもらった」と胸を張っているのが本当かと疑いたくなるほど狂っていて、それから本番で弾き始めるまで気がつかなかったのですが(不覚だ、、、)、ペダルを踏んでもちゃんと上まで上がりきらないダンパーが真ん中の音域で沢山あり、ペダルを踏ん張っても音がプツプツ切れてしまうのです。
 私は割とチャレンジ精神が旺盛で、逆境がきつければきついほど張り切ってしまう様なところがあるのですが、昨晩は弾きながら苦笑してしまう自分との戦いでした。体調が疲れ気味で最高でなかった事、ショパンのこのコンチェルトはもう何回も何回も弾いているし、最近の練習は他の曲を中心にしていた事、現地に着いた途端誰と勘違いしているのか(内田光子も五嶋みどりも英語にすると全部同じに聞こえやすい)私の事を大変有名な人と思っている様でコンサートの会場前からロピーにぎっしりの人からサインを頼まれたり、弾く前なのにCDが売れたりで、うあーとゲンナリしてしまったことなどで、演奏中ピアノと戦い、白けそうになる自分と戦い、悪戦苦闘といってもまあいいかな、という感じでした。
 ところが、それでかえって冷静に弾く事が出来たのか、オーケストラとのアンサンブルは最高にうまくいったのです。私はオケが和音やフォルテッシモで一瞬遅れると頭では分かっていても演奏中熱くなってしまうと待ちきれなくていつもオケの一瞬前に出てしまうのですが、昨晩はやっとそのタイミングがつかめてオケの息づかいに乗る事が出来て、それはとても嬉しかった。 この冷静に聴き、分析/学習する自分と、音楽に入り込んで自分を忘れるという事を両立させるのは可能なのだろうか。
 そんな訳でコンサートは私は割とシニカルに弾いてしまったのですが、コンサートの後お客様が「泣いてしまった」とか「今日、あなたはこの町をいつもより幸せな町にしてくれました」とか言って下さるのを聞いて反省しました。私が何回弾いた曲であろうと、いかなる悪条件下で演奏しているとしても、私にお客様が音楽に求めるものを奪う権利は無い。私にとって音楽は日常だけれども、大半の聴衆は非日常的な何かを求めて音楽会場まで来て下さっている。私はそれを分析しようとする権利はないし、それに対する価値判断をする権利も無い。私はただ与えられた条件の中で自分が出せる最高のものを出す努力を一生懸命するだけだ。
 コンサートの後、「自分もショパンのコンチェルトを勉強中だ」というアマチュアのピアニストの人が自己紹介してきたので、この人になら言っても良いだろうと、「ダンパーペダルが壊れていたでしょう?」と相槌を求めたら、「気がつかなかった」と夢が破れた様な顔を一瞬されてしまいました。日頃コンサートの結果をピアノのせいにしない、ピアノの文句は言わない、というのを自分の方針にしていたのに、その禁を犯してしまったのでそれももう絶対しません。確かにダンパーペダルも完全に壊れていたわけではなく、全くダンパーが上がらないのは1、2音で、そこはなるべく指で押え切ってカバーしたし、他のところは残響が普通のペダルよりとても少ないけれど、全く無い訳ではなかったし、そもそもステージ上できこえる音と客席で聞こえる音は違ったかもしれない。とにかく私にとって凄く悪質に見える事が、聴衆にとって同じ程度で悪質に見える/聞こえる事があったとしたら、それはピアニストの努力の欠如だ。
 私は「弾けて嬉しい、弾かせて下さって有り難い」という気持ちをもう一度確認しなくては。 ずっと風邪をこじらせて、スケジュールがごったになって、向上心と弾く機会がぶつかり合う様になっても自分がなれる限り最高のピアニストになりたいけれど、それは人間と音楽をより通じ合える様になりたいからで、有名になりたいとか、エゴを満たしたいからではない、という事を忘れてはいけない。
 このマサチューセッツの街へはニューヨークから電車で3時間半程なのですが、今ちょうど紅葉がピークで本当に気持ちが良い。白樺の葉が本当に黄金に見える。ゆったりと見渡していると顔の筋肉の緊張が緩む気がする。私は本当に旅が好きです。
 電車の中で窓の外を眺めていると、ピアニストでも、女性でも、27歳でも、日本人でも、東洋人でも、アメリカ人でも無い、ただの自分になれる気がする。


2 thoughts on “コンサート旅行

  • kinjotx

    1月のエントリーと比べると迷いが消えたというか吹っ切れたという感じ。自分が演奏時に熱くなるのと冷静に弾いた時とでは観客にはどちらがより大きな感動を与えることができるか?なんとなく一生かかっても答えがでない気がする。^_^

  • ピアニスト、makicha

    >kinjotxさん
    初コメント、ありがとうございます!そしていつも「いいね!」もありがとうございます。この距離感と言うか、Perspectiveと言うのがMaturityなのだ、と最近感じています。段々演奏が必死では無く、楽しみになって来ています。色々な方にまごころを込めて見守っていただいているからここまで到達することができています。大感謝。これからもずんずん進んでいきます。マキコ

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