ミスタッチの前


私は、「北斗の拳」と言う漫画は実際買って読んだ事は無いし、多分テレビのアニメ放送でたまたま一寸見たことがあるだけだと思うのですが、何故かしばしば練習の過程で私の脳みそが引き合いに出すのが、この「北斗の拳」です。
この漫画を知らない人の為にご説明申し上げれば、私の理解する限りでは、これはなんらかの格闘技を使って非現実的に筋肉もりもりの男の人たちが戦う(何のために戦っているかは私には不明)、と言う漫画です。
その中で私の練習に有効だったのは、
1)このお兄さん達の自分の技術向上のバロメーターは戦う相手の技が見えるかどうか、という事にあったこと。ともう一つ、
2)「お前は既に死んでいる…」と言う台詞です。
1)について申し上げれば、他の格闘技の漫画(例えば「明日のジョー」)でもそうなのですが、最初に対戦相手の技が「速過ぎる!技が見えない!くっつぉ!」と言う場面があって、その次に対戦に備えての練習の過程においてか、あるいは実戦のプレッシャーのなかで、自分の技術が向上してきて、やがて「わ、技が見える…」と言う自己確認と感動があって、そして一気に戦いに勝つというものです。
これはピアノ演奏にも当てはまる現実で、私の感覚から行くと、早い物が見えるようになる(あるいは聞こえるようになる)と言うよりは集中のレヴェル・アップによって時間が少しゆっくりになった感じがする、といった方が近い様な気がします。このピアノ演奏におけるスピードの比喩としての「北斗の拳」は私のここ数年来の実感で、日本のコンサートにおけるトークでもお話したことがあります。
一方2)「お前は既に死んでいる…」と言うのは本当にここ数週間の発見です。
北斗の拳では、「急所のつぼ」と言うのがあって、そこをつくと、相手の内臓が炸裂して死んでしまいます。しかし何故か、つぼをつかれてから死に到るまで、数秒の時間差があり、その間、対戦者は「??」と言う感じで立ちすくんでいます。その「??」の対戦者に北斗の拳のお兄さんは寛大にも「お前はつぼをつかれちゃったからもう一寸で死ぬんだよ」と教えてあげる訳です。
これがどうピアノに関係あるかといえば、私はある日突然、ミスタッチと言うのはただ単にその音をミスするのではなく、その原因は1音、2音あるいはもっと前にあることが多い、という事に気づいたのです。つまりミスタッチを実際する前に「お前は既にミスっている…」なのです。
ピアノの鍵盤にもつぼがあります。鍵盤の何所をどの角度で、どういうスピードと重みで押すかによってピアニストは音色をコントロールする訳ですから当然、最小の努力で最大の強音(あるいは最高の美音)を出すつぼと言うのがあるわけです。
このつぼを上手く押す為には、手の重心がしっかりしていなくてはならず、手の重心をしっかりする為には、腕の重心、さらに腕の重心をしっかりする為には体全体の重心がしっかりしていなくてはいけません。
重心が安定している時は、重力を上手く利用して、筋肉が楽に効率よく働き、軽々と動けます。しかし、重心が不安定だと、動く事がどんどん困難になってくるのです。そういう時に「お前は既にミスっている…」になってしまうのです。分かりましたか、真希子さん?(ハーイ!)チャンチャン。