ステファニー・ブライスとドーン・アップショー回想

タングルウッドの歌のプログラムはとても充実していて、世界的な歌手が沢山教えたり、演奏したりしに来てくれます。ステファニー・ブライス(Stephanie Blyth)は世界的なオペラ歌手、そしてドーン・アップシャ―(Dawn Upshaw)は現代曲など幅広いレパートリーをこなすで有名な歌手です。この二人の言った事で忘れたくない事を書きとめておこうと思いました。 昨日の公開レッスンでステファニー・ブライスはかなり厳しかった。 一人とてもひょうきんなソプラノが居ます。いつも場を湧かせてくれる、とても面白い子で、ちょっと太めだけどお茶目なキャラです。歌もとても上手で、それに演技力も抜群で、自分で可愛い振り付けをしてそれを演じきるので、見ていても面白い。ところが、ステファニー・ブライスは「自分の解釈の意図がはっきりしているのは素晴らしいけれど、心から歌えていない。表面的な演技に逃げるのは辞めなさい。見え透いたブリっこはすぐにばれますよ。」と、その子が泣くんじゃないか、と心配するほどしつこく何度も「自然に、誠実に、正直に」と、やらせ直させました。キャラクターを演じて、「泣いてください」「笑って下さい」とシグナルをはっきり出すと、聴衆としてはどう解釈したらいいのか、どう反応したら良いのか考えずに済むから、ある意味楽です。でもそれでは心に残る演技は出来ないんだ、と言う事をステファニー・ブライスは言いたかったんだと思います。安易なキャラを演じる事で逃げるな。その子はちょっと太っているから、多分ひょうきんになる事で、自分の容姿から注目を反らせようと言う無意識の意図が在ったと思います。現に、まっすぐ立って歌い始めたら、やはりその子の見た目が動いている時より視覚的には目立ちました。でも同時に、その子の声は声自体がとても、とても奇麗で、その奇麗さが初めてはっきり際立って聞こえた、と言う事も在ります。難しい、そして厳しいことだなあ、と思います。  もう一つ、ドーン・アップショーがこれは一週間くらい前に言った事で忘れたくなかった事。彼女は60、70年代に青春を過ごした世代なのですが、こんな事を言っていました。「私はクラシックには随分遅く入って来ました。私が最初に触れ、感動した音楽はビートルズや、ボブ・ディランと言った、はっきりとした社会的メッセージを持って、世界を変えようと言う意図をもった歌の数々でした。そう言う歌はメッセージをより効果的に伝えるために音楽に載せてあります。そう言う歌から、音楽一般、そして最終的にクラシックにたどり着いた今でも、私は歌に対する姿勢は同じです。どんな歌でも、この歌で世界を変えたい、と思って歌います。」楽器奏者の私には考えた事もない様な、音楽に対する考え方でしたが、彼女の真摯な気持ちはよく伝わって来ました。

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