クローデ・フランクのレッスン

年末年始にNYに帰ってきた際にも見て頂いたのだが、今回もクローデ・フランク氏にレッスンをして頂く幸いに恵まれている。 クローデ・フランク氏というのは、伝説的なピアニストである。http://ml.naxos.jp/artist/81795(日本語では「クロード・フランクだった。。。でも、今までいつもクローデと書いてきたので、このまま一貫して続けます。スペルはClaude Frank)。 兎に角、クローデ史はもう86歳と言うかなりのご高齢で、特に愛妻のリリアンを亡くされてから、少しずつ記憶に障害が見られるようになってしまった。私は始めてレッスンを受けさせて頂いてからもう4年くらいになるが、それでもお会いするたびに私のことを本当に覚えていらっしゃるのかおぼつかない。ところが凄いのが、彼は事実や出来事に対する記憶が曖昧でも、音楽に対する記憶はとてもしっかりしているのである。例えばおととしの夏お会いした時、彼は私の顔をまじまじと見て、こう言った。「私は、君を知っているね。確か君の演奏を聞いたことがあると思う」。私はとても嬉しくて、喜び勇んで言った。「はい!去年の夏に、ベートーヴェンのバガテル、作品127をお聴き頂きました」。ところが彼は不満げなのだ。「いや、バガテルではなかったはずだ。。。」。この年、私はドイツ作曲家の晩年の作品を集めて弾いていた。バガテルはベートーヴェンのピアノ作品の最後だ。でも、私の記憶違いだったか?もしかしたら聞いて頂いたのはブラームスの最後のピアノ作品、作品番号119だったかも。。。「もしかしたら、ブラームスの119をお聴き頂きましたっけ?」その途端、彼の顔がパッと晴れた!「そうだ!そうだよ。君のブラームスの119を聴いたんだった」。。。すごくないですか? クローデ史はとても明るい。音楽が好きで、好きで、たまらない!と言う感じである。私がゴールドベルグを持っていくと、まずリピート付きで全部聴かれて(1時間10分)、それからアリアからそれぞれの変奏曲全てを一つ一つレッスンつけて下さったりする。有に3時間かかる。こちらはくたくたである。それなのに、それが終わってから「それで?今日は他に何の曲を持ってきたの?」と言う。「申し訳ありませんが、もう疲れてしまって弾けません!」とは言わないが、丁寧にお礼を言って、お暇して、その後こちらはバタンキューである。 昨日のレッスンでは、ゴールドベルグは「言うこと無し!」と褒めて頂いたので、まだ暗譜のおぼつかない、モーツァルトの協奏曲KV488をお聴きいただいた。そしたら、とても細かい、とても素晴らしいレッスンをつけて下さったのである。「4小節、一フレーズを一息に、一つの流れで!」「連続16分音符のパッセージ、音の粒をそろえて良しとしないで、それぞれの音に意味を持たせて、ちゃんとフレーズに形をつけて!」オケパートを、「歌う」と言うより音程無しでしゃべる様にリズムと息で、伴奏つけてくれ、時々音楽が前倒しになりがちな私の音楽をしゃんと姿勢を立て直させてくれる。2楽章を弾き終えたら「Beautiful! Beautiful! Don’t expect it to always go that well – that was special! (美しい!すばらしい!いつもこんなに上手く行くと期待しちゃあ、ダメだよ。今のは本当に特別だったんだから)」と手を打たんばかりに手放しに喜んで褒めてくれる。一緒に歌って下さったからあんなに綺麗に弾けたんですけど。。。でも、本当に素敵な瞬間でした。 クローデ史は本当に音楽の天使のような人です。私もああいう人になれたら、と思います。

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