August 20, 2015

楽器は共演者

今日はみなとみらいホールに試弾に出向いた。 ホール側のご好意で、ピアノ庫にて今週土曜日に使用可能なピアノを弾かせて、 どの楽器を使うか最終判断をさせていただくのである。 1号と7号と呼ばれるピアノが二台、オプションとしてあった。 両方ともスタインウェイ、そして勿論、フルコンである。 私は去年は7号を使った。 深い音色、倍音の美しさに加え、 鍵盤の抵抗力がしっかりとあるため、微妙なコントロールが効く、と言うことが決め手だった。 去年の『ショパンToジャパン』はしっとりとした抒情的な曲が多く、 音色の複雑さ、細やかさが必要不可欠だった。 逆に一番は煌びやかすぎて、『ショパンToジャパン』の様なプログラムでは 軽薄に聞こえてしまう。 しかし今度のプログラムは南欧。 フラメンコの様なメリハリの効いたリズム、 ギターをかき鳴らす音を真似た、幅の広い和音や、 トレモロを真似た素早い連打音、 そして手の交差や早業が多く使われる派手な曲が多い。 7番で弾くと、これらがモソッとしてしまう。 1番だと、かっこよく決まる! どんなピアノでも、その状況に於いて最前を尽くす。 例えば土曜日、舞台に7番があったらば、私は7番で弾けるよう曲の解釈を融通する。 しかし、選択の余地がある時はやはり演目のキャラクターにあった楽器を選びたい。 自分がコントロール出来ることに関しては最前の努力を尽くす。 出来ないことに関しては、受け入れ、その中でどうしたら一番良い演奏ができるか工夫。 例えば音響はコントロールが出来ない。 ホールがどんな建築物を用いて建てられているか、どういう形か、大きさか。 さらにその日の気温や湿度(湿度が高いと音は響かない)。 お客さんの入り具合(人間の体が音を吸う)。 そういうものを全て耳で判断して、1音1音計算。 音響もまた、共演者である。

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ピアニストのジレンマ。

今年のリサイタル「南欧の愛と幻想」にはこの曲が入っている。 「ああ!この曲…」と思われる方も多いだろう、有名な曲だ。 アルベニスの「アストリアス」。 ギターの編曲が有名だが、アルベニスのオリジナルはピアノである。 スペインの民族音楽が素になっている。 このYouTubeを見てお分かりだろうが、この曲にははっきりとしたむずかしさがある。 跳躍である。 ここでピアニストのジレンマがあるのである。 ピアニストの楽譜立てと言うのは、 鍵盤の前に背筋を伸ばして座って、まっすぐ前方を見ると見える位置にある。 これが一番「良い」姿勢、体に負担がかからない姿勢、腕や手の動きが楽な姿勢である。 しかし、こうすると鍵盤が見えないのである。 これは、暗譜をする一つの理由になっている。 しかし、暗譜をしても、このような跳躍の場合はどうしたら良いのか。 鍵盤を見ないで、良い姿勢を保ち、触感と筋肉の動きだけで跳躍をする、 と言うのは一つの方法である。 しかしこのように遠くに跳躍をする場合、体の重心を全く動かさずに、と言うのはほぼ不可能。 そして、重心がずれると、指針がずれるので、触感と筋肉の記憶だけで跳躍を正確にするのは 非常に難しくなる。 しかし、鍵盤を見ようと首を下にすると、腕の動きが明らかに少し限られるのである。 特に私のように座高が高い人は不利である。 論理的には、鍵盤と楽譜立てからの距離が遠ければ遠いほど、両方見えることになる。 (楽譜立てに楽譜を置かないが、『楽譜立てを見る』姿勢を一番良い姿勢としての話し)。 だから、椅子をぐっと後ろに引けば、となる。 しかし、現実問題腕の長さは限られているし、 この曲のように高音鍵盤と低音鍵盤に同時に跳躍するとすると、 やはりある程度の近さに居ないと楽に届かない。 全てはバランスの問題なのだ。 が、そのバランスを毎日違った会場で、違った椅子で、違ったピアノで図るのが難しい。 最初のヴィデオはわざと、苦労して弾いている人のヴィデオを乗せましたが、 次に名人を、二人。 アリーシア・デラローチェはやはりすごい。 しかも、彼女の背の低さと手の小ささを考えると、信じられない! まあ、背が低いと自然と重心が低くなり、安定するという利点はあるが。 そして、次にこの人は、タイミングを絶妙に計ることで跳躍を簡単にしている。 う~ん、なるほど。とても参考になったぞ! みなとみらい、お楽しみに!

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