贅沢の効用

羽田から成田について入国審査の際、 「アメリカに戻ってくる前、どこに行ったのか(スペイン、イタリア、日本です)」 「職業はなんであるか(音楽家です)」 ここまでは普通。ここから 「音楽家と言うのはあんまり儲からない職業だと思っていたのだが」 と聞かれた。(個人的興味ですか?)と思いながら 「私は何とかやっています」と答えて、しばらくしてから ああ、あれはパスポートと同時提出した私の搭乗券がビジネスクラスだったから?と はた、と思い当たった。 確かに私は自分で飛行機の予約をするときは、兎に角安い物を探す。 そうすると、非常に面白い航路になったり (日本‐ヒューストンがドイツ経由だったことがある。なぜかそれが安かったのだ) 機内で配られる飲み水まで有料な航空会社だったり、色々経験した。 音楽家と言うのは、ギャラはギャラで旅費などの経費は自分持ちの事が多いから。 だから今回のビジネスクラスは特別だったのだ。 そしてビジネスクラスだった理由も特別だった。 私はちょっとある事件に巻き込まれてしまい、 ヒューストンにて身を隠すために引っ越ししたり、 警察に保護を何度も要請する羽目になったり ちょっと非常事態の生活を数か月帰国前に送っていた。 そういう私を見た素敵な、素敵なお友達が 「自分は出張が多くてマイルが溜まっているから」と 私には内緒でビジネスクラスのチケットをプレゼントしてくれたのだ。 自分のチケットがビジネスクラスと気が付いた時は本当にびっくりして、 その友人の好意と、ビジネスクラスに乗れる!と言うワクワクで 何があってもそのことを思い出すと顔がニコニコする、と言う状態で乗り切れた。 ビジネスクラスはやっぱり素晴らしい! ゆっくり眠れるし、フライト・アテンダントも非常にやさしいし、 それに何より自分のスペースが広々としていて、 となりの席の人がトイレに行くときも立たなくても余裕! お食事も特別。飲み物も特別。 音楽家と言うのはそういうモノかも知れないが、 個人的には貧乏でなくても「贅沢を知るのも芸の肥やし」と言う理由から 身分不相応かも知れない贅沢をさせていただいたりする。 経済的リスクを負っても自分でそういう「良い物」を追求する音楽家も、居る。 しかし私は結構、物欲が無い。 作曲家だって貧乏な人が多かったし、 お金使わなくても工夫次第で良い物はかなり経験できるし、 物の価値は自分で決めるものだと思うし、 人が見出さないところに価値を見つけるのも贅沢を経験するのと同じくらい楽しいし 節約をゲーム感覚で楽しんだりする。 今の金利主義、物欲主義、資本主義に基本的に反発を覚えるのも理由の一つだが、 でもそれよりももっと基本的なところで サヴァイヴァル精神が旺盛なのかも知れない。 子供のころ、インドのマザーテレサが始めた「死を待つ人々の家」と言う 極貧で行き倒れになった人々を、ただ看取る、人間らしく死ねるようお手伝いする、 と言う趣旨の施設でスタッフとして働いた神父の著書が愛読書の一つだった。 その日本人には想像を絶する極貧・不衛生状態で 施設のスタッフがご飯に混ざっているネズミの糞が多すぎて、 取り去るのをあきらめてすべて食べる、と言うところで (私にはできない)と思い、彼らを尊敬した。 また、犬養毅首相の孫娘で、のちに国連で働く犬養道子の留学時代の奮闘を描いた 「お嬢様放浪記」も大好きで 苦学の描写に「光熱費を節約するため、美術館や博物館で日中を過ごす」と言うところや 「買うものを食べるお金さえ次の仕送りまで無くなって、 […]

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