2017

練習を公開する、と言うこと。

学部生の頃、練習休みにふらふら歩いていたら、オーボエの先生の追悼式に迷い込んでしまった。その人の温かい人柄があふれるようなエピソードが昔の生徒や同僚によってシェアされた後、奥様がスピーチをなさった。 「とにかく一人でいることが嫌いな人でした。練習を聞くことを私に強制するんです。あんまり毎日付き合わされるのである日逃げ出そうとしたら、クローゼットに閉じ込めて外から鍵をかけ、その前で練習するんですよ!」 会場がどっと沸いた。奥様ご自身も笑っていられた。 100日練習ヴィデオ挑戦を始めてもう11日目。最近、録画の前後に良くその逸話を思い出す。 一人で何時間も練習していると、昼か夜か、どこの練習室か分からないような『入り込んだ』状態になってしまうことがある。実際私は一度、練習室でバッハの「半音階とフーガ」に完全に入り込んでしまい、最後の音を弾き終えてピアノから顔を上げたら、窓の外にエッフェル塔があって仰天したことがある。パリにいることをすっかり忘れていたのだ。まあ、時差とかいろいろな要素があったと思うし、こんな事はこんな私だって稀だけれど。あの時は本当にびっくりした。 「入り込む」のはまあ、気持ちが良い。でも効率の良い練習かと聞くと、良し悪し両方ある。集中はしている。でも音楽とか、弾くという行為に集中しているのであって、何をどのように良くしようというゴールには集中していない。本当に効率の良い練習をしようと思ったら、ある程度冷めて、ある程度計算をしながら弾かなければいけない。そのために第三者に聞いてもらう、見てもらう、と言うのはすごく効果的である。 「練習法を伝授できれば」などと言う、少しおごった気持ちで始めたこのプロジェクトだったが、今は自分が感謝の気持ちでいっぱいである。練習中の私の意識が明らかに向上しているのだ。収録中もそうじゃないときも、練習がより楽しく、効果的になっている。 英語ですが、ブラームスの作品79-1狂詩曲の練習風景です。

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大掃除と近藤麻理恵とブラームス

(このブログエントリーは12月16日(土)の10時半からFMブルー湘南76.5MHzで放送されたクラシック音楽番組「スカッとすかピア」でお届けした際の原稿を元にしています。) 私は自分が本を現在執筆中である関係からも最近ベストセラーを集中的に読んでいます。年末は大掃除がありますね。それにちなんで選んだ今週の一冊は今世界でシリーズ700万部突破の大ベストセラー、近藤麻理恵の「人生がときめく片付けの魔法」と、音楽に於ける音の経済性・整理についてお話したいと思います。 近藤麻理恵については何となく知ってはいましたが、本を読んでびっくり!この人の片付け哲学は神道に基づいていたのですね~。自分の部屋の中にあるものにはすべて「自分の役に立ってあげたい、自分のときめかせたい」と言う思いがある。その物一つ一つを丁寧に直視して、本当にときめかせてくれるものだけを残し、あとは過去にときめかせてくれた思い出に感謝しながら解き放ってあげる。そうすることによって自分の優先順位を明確にし、過去に片を付け、自分の人生を自分が選択したものに囲まれて、自分らしく生きる。 この本を読んで思った作曲家はブラームスです。彼、若い時はやたらと音が多いし、曲が長いんですよね。ブラームスのソナタ3番、作品5はブラームスが20歳の時の作品ですが、5楽章から成り、演奏時間は40分くらい!キーシンの演奏でお聞きいただきましょう。音の密度にご注目ください。 このブラームスが年を取ってくるとどんどん、音が厳選されていくんです。それぞれの曲も短くなりますし、音も必要最低限に絞られた曲が増えてくる。私の一番好きなのはこれです。作品119の1、インテルメッツォ。ブラームスの最後のピアノ作品です。60歳のブラームスをお聞きください。 私は若くて情熱あふれるブラームスも好きですが、この昇華しきったようなブラームスがものすごく好きです。   近藤麻理恵の「人生がときめく片付けの魔法」を読んで思ったのは、彼女の哲学は部屋の中に在るものだけでなく、日々食べるものの選択、言葉の選択、友達、時間をどのように過ごすかの選択、すべてにつながると思いました。さらにこの思想がもっともっと広がれば環境汚染問題も解決するのでは、なんてことも夢想してしまいました。残念ながらブラームスは年を重ねて音を厳選するようになると同時に、食事に楽しみを見出して体はどんどん太ってしまうのですが… 最近ブラームスがすごく好きです。28年前、渡米してジュリアードでの勉強を始めたばかりの頃生まれて初めてブラームスを勉強して、譜読みを初めてびっくりしました。日本のあの歌にすごく似ているメロディーが出てきたからです。皆さん、何の歌かお分かりになりますでしょうか? オープニングのメロディーを聞いて「サクラ!」と思った方は私だけではなかったと思います。『音楽は世界の共通語』と改めて思います。こちらもブラームスの晩年、作品116-2「間奏曲」です。 英語ですが、こちらは私がYouTubeでこの曲の練習風景を公開している動画です。 今日は近藤麻理恵の「人生がときめく片付けの魔法」の私の感想を、ブラームスのピアノ作品と共にお聞きいただきました。

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3歳の真希子の録音を聞きながら、メリークリスマス!

メリークリスマス! クリスマスはなぜか子供時代を思い出させてくれます。サンタさんとか、クリスマスツリーとか。 私は1歳半から6歳半まで父の転勤に伴い、香港で過ごしました。クリスマスイブになると、ブラスバンドがクリスマスキャロルを演奏して、それを家族でベランダに出て、聞きました。素敵な思いでです。ちなみに、バンドメンバーが演奏後、一部屋一部屋回って、寄付を集金していたのも覚えています。あの奏者たちはどういう人たちだったのだろう? 私は両親や駐在員コミュニティーの子供たちとは日本語、乳母とは広東語、そして幼稚園では広東語と英語、と言う環境で言葉をしゃべり始めました。始めは文章が色々な言葉のちゃんぽんで、お友達との意思疎通ができず、幼稚園でも一人遊びが多く、母を心配させたそうです。そのせいでしょうか?家に在ったアップライトを勝手に弾き始め、特に教えられた記憶があるわけでも無いのですが、即興演奏をしたり、童謡などを弾いたりしていました。そして、いつも歌を歌っていました。 今、私は自分がどうやって舞台恐怖症を克服したか、その過程を本にまとめています。その資料として、古い演奏録音をデジタル化しているのですが、3歳の頃、まだレッスンを始める前の録音を聞いて、考えるところ多し。 クリップをお聞きください。   私がすごいと思うのは、3歳の私がピアノを弾きながら歌っていて、どの鍵盤を押せばどの音が出るかと言うことを感覚的に知っているということです。クリップの最後に10度の跳躍をしているのですが、レからそのオクターブ上のファをちゃんと歌っている。別に自画自賛をしているわけではなくて、なんで、と言う疑問がまず一つ。私の両親やよくLP録音でクラシックを聴いていたし、私の母はピアノを弾いたり、コーラスで歌ったりしていた。その記憶?さらに、この自信と言うか、自分の感覚的な知識と言うのが信じられなくなって、舞台恐怖症に至るまでの自分に何があったのか?と言う疑問が二つ目。 書く、と言う作業は自分が潜在的にずっと考えていたことを形にしてくれている、昇華させてくれる作業だと、実感しています。どうぞ、応援してください。

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一皮剝けた!開眼!

最近、なんだか人生の折り返し点に在ることを非常に意識します。 そのせいもあるのですが、意識的に色々試しています。 毎日12分瞑想すると、心身ともに色々効果があるということで、やっています。 それからかなり真剣なストレッチもやっています。 更に朝起き第一で何も考えずに物をとに角3ページ書く、と言う修行もやっています。これは「武士道(Way of the Samurai)」をもじった「芸術道(Way of the Artists)」と言う本で「Free morning writing」と称され、推奨されています。これをやることで雑念に片を付け、さらに寝起きでまだ意識下にアクセスのある状態で自分の深層心理を知り、自分の潜在能力を最大限に引き出す、と言う効果がある、とされています。兎に角書き続ける。手を休めない。自分の書いたことに対して価値判断をしない。途中で消したり、訂正や校正も、しない。結構時間がかかる(英語で書いた方がずっと早い)のですが、効果を感じます。 最後に、この間のブログで紹介した「100日練習公開チャレンジ!」もやっています。これはどちらかと言うと、アマチュアや若いピアニストの役に立てば、と言うサーヴィス精神で始めたのですが、思わぬ効果が出ています。自分の練習がより意識的になり、更に人に説明しながら練習することで今まで気が付かなかった自分の欠点などが明確に見えるようになってきたのです。 そして、今日は、開眼!してしまいました。 私は一生懸命やることを良いことだと思って、ずっと一生懸命生きてきました。そして弾くときも一生懸命弾いた。でも、一生懸命になることで実感できなくなること、聞こえなくなる音楽がある、と言うことに今日ハッと気が付いてしまった。一生懸命になると言うことは、一生懸命になる対象、そして一生懸命になっている自分だけに集中をする、と言うことです。でも本当はすべてがつながっている。例えば、特に難しい跳躍があったとして、その跳躍に物凄く集中してしまい、その前後の音楽がおろそかになることがある。弾くことに一生懸命になって聞けなくなっている音楽がある。一生懸命に生きることで、感じられなくなる美しさや、人の思いやりがある。 力を抜くことで開く可能性がある。気が付く美しさがある。できるようになることがある。 瞑想が良かったのか、はたまたストレッチか… このブログで今の私の驚愕がどれだけ伝わったかわかりませんが、私は今、開眼!したのです。ほとんど生まれ変わった気持ちです。これからの人生が楽しみです。 英語ですが…今日のヴィデオです。

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100日練習ヴィデオ!に挑戦!

師走の忙しい時期となって参りました。 でも、ピアニストは練習に関しては♪月月火水木金金♪ と、言うことで、100日練習ヴィデオに挑戦を始めて今日で三日目です。 アメリカでは結構流行っていて、ヴァイオリニストのヒラリーハンもやってましたし、私のFacebook友達もやったりしています。毎日自分の練習を短いヴィデオにして流す、と言うものです。 100日休まずは大変!無理なく続けるために、お化粧も、盛装も、編集もすべて割愛。 スマフォで簡単にやります。 単純に自分の練習を映すだけでは無く、私は「最小の努力と時間で最大の効率を上げる練習法」をシェアします。英語でやっていますが、音楽は世界の共通語!よろしかったらご覧ください。3日目の今日は和音の中のそれぞれの音の音量をコントロールする練習、そしてペダルに関する考え方について、お話しをしています。 ショパンのAeolian Harp(練習曲作品25-1)を最後に弾いていますが、やはり音質が…私のアルバム、「Chopin to Japan」にも収録した作品です。よろしければこちらからご購入ください。

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