真希子の五輪書


〔1〕
難しいパッセージや大きくジャンプする前は
そのパッセージやジャンプと反対方向に
グッと踏み切る時間と気持ちの余裕を持つ
踏み切りは勢いにつながる
一瞬の余裕は
あせりと邪念を消し
冷静にコントロールしながら
弾ききることにつながる

〔2〕
「聴く」ということは
聞こえてくるものに対する
期待を膨らませると言うこと
その期待がはっきりすればするほど
期待が報われる割合も大きくなる
何にを聴きたいのか分からなければ
何も聞こえない

〔3〕
「集中」するということは
視点を何処に持ってくるかという事と
とても関係が有る
気が散っているときは
視点がさまよう
意識して
視点を注意したい方向に当てる
それが指先であれ、楽譜であれ
注目して見えてくるものを
全て意識する

〔4〕
頭に何かを叩き込みたいとき
五感を総動員する
視覚・聴覚・触覚はあたりまえ
味覚は
覚えたいことを全て言葉にして
つぶやきながら練習する
嗅覚は
息をすることを忘れないと言うこと
気をつめるとつい息をするのを忘れてしまう
息が詰まっているときは
大抵体も硬くなっているので
これは逆効果
特に難所の直前は
一瞬、息を吸い込むと
フッと力が抜ける

〔5〕
難しいと構えるとつい
余分な力が入る
難所に取り組む前は
何が難所を難しくしているか分析し
その一つ一つを解決してから
実際に弾いてみる

〔6〕
気を張るということは
胸を張り
眼を見張るということ

〔7〕
どんなに細かい作業をしているときでも
全体像を忘れない
何のために今の作業をやっているのかを忘れると
それがつまらなくなる
目標達成を楽しみにしながら
作業をするとはかどる

〔8〕
間違いを犯した時
条件反射的に
すぐやり直そうとしない
先ず、手を止めて
何を間違えたのか
どうして間違えたのか
言葉にしてみる
2回以上同じ間違いを繰り返すのは
間違いを練習しているのと同じ
絶対に避ける

〔9〕
自分のコントロール内にある物と無いものを
はっきり見分ける
コントロールできることに関しては
できる限りの事をする
出来ないことは忘れる
例えば
相対的評価は自分の発展においては
無意味

〔10〕
見えるものをすべて見
聞こえるものをすべて聞く
これを楽しんでやる
落ち込みからの脱出法

〔11〕
練習中、
何を何の為にやっているかということを
いつも意識する

〔12〕
苦労や苦痛から学べることは多い
でも、楽しみや快楽から学べることはもっと多い
そして、苦労と楽しみは
態度の違いだけである事が、とても多い

〔13〕
練習とは
いかに最小限の労力で
最大限の効果をあげるかという計画を
練る過程
繰り返しを重ねる事によって
自動的に指先だけで
曲をぱらぱら弾きこなすようにする過程ではない

〔14〕
集中が難しいのは
課題が難しすぎてビビッテいる時か
課題が簡単すぎてつまらなくなっている時

〔15〕
弾くのが難しいところは、
聴き手にとっても聞いて理解するまでに
時間がかかる所でもある場合が多い
そのつもりで
時間と気持ちの余裕を持って
難所をかみ砕いて
聴衆におくるつもりで弾く

〔16〕
肉体から自由になって弾きたい━━
その為に
頭の重みが背骨を通じて真直ぐ入るよう
背筋を伸ばす
又、体重と
体重によってできる勢いを
いかに利用するかで
肉体超越に一歩近づく

〔17〕
休憩を上手にとる事はとても大事
練習した事が
脳の中で熟していく

〔18〕
正しい距離で物事を見るのはとても大切
難しい所で反射的に頭を鍵盤に近づけ、
より注意深くなろうとするのは
逆効果
難しいところこそ、
姿勢を正して
冷静にこなす

〔19〕
鍵盤に
重みとともに
自分の気持ちを預けることに
快感を覚えよう

〔20〕
演奏における美しさというのは
独りよがりでない正直さによって
達成される

〔21〕
演奏家と言うのは、アルプスの山道案内人のような物だ。
彼は、山の全てをよく把握している。
登山者は彼がいなければ、アルプスを登ることが出来ない。
しかし、その案内人の知識、知恵と能力によって
登山者が山頂に達する時
登山者に感動をあたえるのはその雄大な景色である。
その時登山者は案内人の事を考えているべきではない。