天上の音楽

コロナ日記118:ゴルトベルグ変奏曲と「3」と「2」。

ゴルトベルグ変奏曲はアリア+30の変奏曲+アリアの復元、という構造です。30の変奏曲は10個のユニットから成っています。それぞれの10個が(多少例外はあるのですが)こういう繰り返しです。①様式(踊りから作曲様式)②ピアノ技巧(指さばきや手の交差)③カノン・輪唱。これはいわば①聴き手(感性)②弾きて(肉体性)③作曲家(知性)という風に分担しているとも言えます。

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人生の優先順位。

春先から公共図書館との契約でレクチャーシリーズを提供している。支部によっては電子ピアノだったり、グランドがあったり...臨機応変に電子ピアノの場合は説明の補助に音を出し、簡単な短い曲や曲の抜粋を弾く程度。グランドの時は講義内容に沿った曲を披露したりもする。お客様も一番少ない時は10名に満たない時もあったし、多い時には立ち見が壁に引っ付く状態で60名とか入る。非常に貧しい地域も、非常に豊かな地域もある。CDがバンバン売れる時もあるし、帰ってみるとインスタグラムのフォロワーがバッと増えている時もある。「自分は90歳を超しています」と自己紹介してくれる方もあられるし、昨日は2年生(8歳)の男の子がお父さんに連れられて来てくれた。 昨日の支部は運転して一時間弱。「天上の音楽:聞こえない音楽」と言う題目で電子ピアノとパワポでのプレゼン。 途中で音楽が人間の生態に及ぼす影響などの言及でセラピー効果なども説明中に、眼鏡を取って泣き出した年輩の女性が居た。本人がうずくまって顔を隠したので取り合えず見て見ぬふりをしたが、終了後彼女が最近弟さんを亡くされたこと、音楽の治癒効果に感極まってしまった事などをお話ししてくださった。「そうだったんですか…涙されているのは気が付きましたが…」と返したら、隣にいた彼女の友達が「私だって泣きましたよ!」と唇をとんがらかす感じで訴えてきた。なんだか幼女の様で愛らしくて、ちょっと笑ってしまった。嬉しかった。 昨日、目覚めがけに夢見心地に突然「余命が後一年だったら...」と思い始めた。そしたら思いがけないことに、ものすごい解放感を感じる自分が居たのである。今実は執筆中の本で「自分の事を書いたら名誉棄損で訴える」と言ってきている重要人物がいる。余命一年ならそんなことを心配せずに何でも書ける。しかも絶筆のPR効果でもっとたくさんの人に読んでもらえるのでは...と思ったのである。そして余命一年なら人生の優先順位が否応なしにはっきりしてくる。素晴らしい!色々な悩みが一挙に解決! 今朝は起き掛けの夢でスーツケース一杯の現金をもらった。ここでもまたお金の心配が無かったら執筆と好きな曲の練習に集中できる...と人生の優先順位の明確化に頭が行った。 明日は誕生日。人生の節目。色々考えています。

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遅ればせながら...6月3日にラジオ放送された原稿です。

横須賀ゆかりのピアニストグループ、『スカぴあ』の創始者メンバーとして2011年に活動を始めた。 日本での演奏活動をずっと共催してくださっていた「世界で活躍する音楽家を応援する会」が横須賀拠点と言うだけの、メンバーの中でも一人だけ横須賀出身で無い、しかも在外の、お味噌の様な存在の私。 でも色々一緒に仲間としてやってきた。 その活動の一部。 FMブルー湘南78.5MHzで毎週土曜日朝10時半から放映されているクラッシック音楽番組『スカッとスカぴあ』。6月3日に私の日本での演奏活動の宣伝も兼ねて、出演させていただきました。その時書き起こした原稿をここに今日は挙げさせていただきます。 ちなみにこの番組、世界中どこからでもインターネットを通じてお聴きいただけます。リアルタイムのみですが。私は今月、8月の土曜日4回も担当です。放送終わったら原稿アップして行きますが、お聴きいただければ一番うれしいです。このURLでお聴きいただけます。 http://www.jcbasimul.com/?radio=yokosukafm それでは、6月3日放送された原稿をコピペ! ヒューストンのスカぴあメンバー、平田真希子です。先月、沢山の方々の様々なご支援の基、お陰様で遂に博士課程を取得し、さて、これから何を?と言う近況報告からまず今日は始めさせていただきたいと思います。私は今、二つの大きな目標に向かって歩み始めました。一つは、世界平和につながるような音楽活動をしたい、と言う目標です。音楽は想像力を刺激します。遠い昔のヨーロッパのベートーヴェン、ショパンがどのような社会背景、どのような心理で曲を書いたのか、思いを馳せるとき、共感する、と言う私たちの能力が増長される、と思います。この想像力と共感への欲求が、私たちをお互い助け合う、相手の痛みや苦しみに手を差し伸べられる、人間らしさを強めてくれる、と言う信念の基、これから色々活動を展開して行きたい、と思っています。その皮切りに、私は今年の夏から米日財団が一番力を入れて運営しているUS-ジャパン・リーダーシッププログラムに参加いたします。日本から20人、アメリカから20人選ばれた様々な分野の代表たちが2年間にわたり一週間ずつ今年は日本、来年はシアトルで集まって、世界情勢や社会問題などについて協議し、文化交流を行い、友情を育んで将来の国際関係を改善して行くことを目的としたプログラムです。過去にはヴァイオリニストのみどりや、オリンピック選手の有森裕子さんなどもご参加なさったプログラムです。もう一つは、音楽の効用と言う物を科学的に立証するためのリサーチに、音楽家として携わって貢献したい、と言う事です。最近、脳神経科学の世界では、音楽家の脳と非音楽家の脳に違いがあることが注目されているそうです。また、医療現場に芸術を起用することで、医療効果が高まる、と言う事を受け、アメリカの国立保健機構では新しく「芸術と医療」と言う分野を設けました。私はこの5月から、ヒューストンにあるCenter for Performing Arts Medicineでコンサルタントと言う役書きをもらい、自分の脳のfMRIイメージを提供したり、どのような音楽が脳のどの部分にどのような影響を与えているか研究している方に、音楽の基礎知識を教えて差し上げたりしています。 そんな中、来週からまた、今年17年目になる日本での演奏活動を行わせていただくために、来日いたします。6月17日(土)に13時半開演で品川きゅりあんでさせていただく演奏会を中心に、様々な場所で7回演奏させていただきます。詳しくはMusicalmakiko.comをご覧ください。今年はいつもにも増して、思い入れが強い帰国です。選曲にも、私の修行や考察の結果を反映させてみました。題して「天上の音楽 vs. 地上の英雄」。前半が天上の音楽、ゴールドベルグ変奏曲です。なぜ、天上の音楽イコール地上の英雄かと言うと、ゴールドベルグ変奏曲が、古代ギリシャの「音楽は天上を体現している。惑星が天上で動き回る時に醸し出す、私たちには聞こえないその音が究極の音楽だ」と言う考えを受けて、バッハの数字学や宗教観を非常に投影させて書いた曲だからです。後半の「地上の英雄」では、思想・工業・社会革命などを経て、数字や宗教などと言ったものに絶対的な真実を求めるのをやめ、代わりに主観が大事になった時代、活躍したベートーヴェン、ショパン、そしてリストの特に英雄をテーマにした曲を集めて、歴史考察を試みます。 私の選曲からまず、オープニングだけ、味見的にお聴き頂きましょう。まず、「天上の音楽」、ゴールドベルグ変奏曲のアリアです。グレングールドの1955年の録音からお聴きください。https://www.youtube.com/watch?v=Ah392lnFHxM (0:51、前半の終わりまで) 対称性、バランス、等と言ったものが重視された、美しい曲ですよね。実はこのアリアの中には30の物凄い変奏を可能にする種が沢山潜んでいるのですが、そんな事はおくびにも出さず、あくまでも平穏に響く、広く愛される有名なアリアですよね。 次にベートーヴェンのソナタ第一番をお聴き頂きましょう。1794年の作品です。この時代にはすでに啓蒙主義が浸透し、個人の思想や感情と言ったものが重視されています。感情の方が知性よりもより道徳的である、とするセンチメンタリズムなどを受け、疾風怒濤と言う、美しさよりも劇的さを好む動きが、音楽や文学などに見られるようになって来ています。リヒテルの1976年の演奏です。https://www.youtube.com/watch?v=X4KGTrk9ah4 (0:55まで) 音域、強弱の幅、音の長短、静寂の音楽的使い方と言ったものがバッハのアリアよりもずっと劇的ですよね。後半では、ベートーヴェン、ショパン、リストと進むにつれ、この傾向がどんどん強くなっていくのがお聴きいただけると思います。これには美的感覚の変化だけでなく、工業革命を受け、ピアノの急激な品質改良がおこなわれた、と言う事も反映されています。さらに、資本主義的な経済になり、音楽や演奏会が商品化されて、演奏会場がどんどん大きくなり、一つの演奏会の聴衆の数がずっと増え、そのために音量も劇的要素も市場のニーズに応えて大きくなっていったのです。 その傾向を次にショパンとリストで比べてみましょう。まず、こちらも有名!ショパンの英雄ポロネーズです。キーシンの演奏です。https://www.youtube.com/watch?v=Ac1qWwc0pG0 (1:06まで) このオープニング、ドラマチックですよね。聴衆の期待をあおるような、(これから何が起こるんだ…!)とワクワクさせてくれるようなちょっとミステリアスで緊張感のあるオープニングです。 そしてさらにドラマチックなオープニングがこちら。リストのメフィスト・ワルツの一番です。この曲はドイツの悪魔伝説に基づいたレーナウの詩を基に作曲されています。リストの描写です。悪魔メフィストフェレスと、悪魔を呼んでしまった主人公ファウストがあるいていると村の宿場で結婚式が進行中。メフィストは音楽家からヴァイオリンを奪い取ると、魅惑的な音楽を奏で始める。ファウストは、メフィストの奏でる音楽をほれ薬にして村の美人を踊りへと誘い出す。」と言う事です。まず、オープニングの数秒だけ、お聴きください。https://www.youtube.com/watch?v=o59zEOq1uBY (最初の16秒のみ) こちらも劇的ですよね。これ、何を表現しているか、お分かりになりますか? https://www.youtube.com/watch?v=KfSH1ezevjM (0:02から0:16まで) メフィスト・ワルツのオープニングはメフィストが調弦をしているところから始まっているんですね。実ににくい演出ではありませんか?   このメフィスト・ワルツ一番はオーケストラ版とピアノ版がほぼ同時に作曲されました。ピアニストが英雄視され、崇拝された理由の一つには、この個人主義の時代に於いて、一人でオケと同じ音楽が演奏できる、と言う事もあったのです。では、メフィスト・ワルツ、今日はオケ・バージョンでお楽しみいただきましょう。ストコスキー指揮、ロンドン交響楽団の演奏です。https://www.youtube.com/watch?v=RUyAkl_x_i4 (時間が許す限り。) 今日の『スカッとスカぴあ』はヒューストンから平田真希子がお届けしました。来週から来日して6月17日品川きゅりあんで13時半開演の演奏会を中心に、3週間で7回演奏いたします。詳しくはホームページ、Musicalmakiko.comにてご覧になってください。日本での再会を楽しみにしています。

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