飛行機から見下ろす地上って美しいですよね。
マンハッタンに住んでいたころ、ハドソン川越しに振り返る度にいつも思いました。喧噪・経済格差・競争社会…そこに住んでいるとストレスまみれになる都市も、一定の間隔を置くとこんなにキラキラと美しく輝いて見える。
2025年は盛沢山で目まぐるしい。LAの火事。TikTok禁止法。第二トランプ政権が連発してくる大統領令。そんな中私はラスベガスで一人、物書き生活を送っています。2018年から書き溜めている手記。クラシック音楽の人種差別と女性蔑視の歴史と現状を私の研究と体験に基づいて検証することで、現代人の無関心と孤独化の根源を提示できるはず…そう信じて綴ってきました。その趣旨がある方の目に留まり、今回ご縁あって1月中旬から2月までラスベガスのWriting Downtown Residencyを授かったのです。豪華アパートに3週間暮らし、缶詰になって朝から晩まで書く―それで効果が上がるのかも分からないまま到着し、今日で16日目。こんなに没頭して書いたのは生まれて初めてです。目覚め掛けに忘れていた思い出が蘇ったり、新しい語り口を思いついたりして、飛び起きる毎朝。夜は疲れて目が閉じるまで、全てを忘れて書き続けました。
研究費の将来を危ぶむ友達や、怒る同僚、泣く知り合いの声が一日数回チェックするグループチャットを通じて聞こえてきます。罪悪感と共に目前の仕事に没頭できる幸せも感じ、自分に課された道を全うすることが結局自分にできる一番の貢献だと決意で身が引き締まります。
一定の距離を置くことで何でも美しく見えるように、敢えて時間の余裕を持つことで視点が新しくなったり、対処法が見えてくることもある。今私がそう思えるのは渦中にないからだけではない気がします。
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このブログは日刊サンに隔週で掲載中のコラム「ピアノの道」♯146〔2月2日付け)を基にしています。