何もよくわからない中、誘われるまま1月13日に到着したこのDowntown Writing Residency. 本当に没頭して、我を忘れて書きまくりました。結果、前の草稿に計4章付け足し、色々な詳細を付け加えてすでにあった章を膨らませ、英単語にして約10,000書き足しました。本の中でも自分の中でも色々な問いかけに答えが出せたような気持ちがしています。本当に、奇跡のような時間でした。
なぜここまで没頭できたのか。後学のために今の考えをまとめてみます。
無かったものが多かった。
1.役割がなかった。
私はいつも自分の価値を証明するという強迫観念に囚われていた、とここに来て思うようになりました。生産性・音楽・会話・お世辞…兎に角相手が自分に何を求めているかを把握し、その期待に応えることで周囲の社交の安泰を図り、安心していました。でも、Writing Residencyというのは、ただ単に時空を提供されるだけ。別にここで何をどれだけ書いたか見せる必要もない。毎日の動向を報告する義務もない。始めは不安に感じたのですが、その後急に本当に自分がしたいこと―執筆―のドツボにはまり込んだのです。陥ったと言ってもよいくらいです。本当に自分の過去と深層心理を泳いで探索するような毎日でした。社交や役割がある生活ではできない、寝ても覚めても別世界、という状態でした。時々ズームなどがあると、口がもつれてうまく喋れないくらい、浮世を離れていました。
2.WiFiが無かった。(デジタル・デトックスができた)
到着して仰天したのですが、ネット環境が最悪でした。(これでは仕事ができない!)と思ったのも束の間。(手記の執筆にネットって必要か…?)と急に気づいたのです。確かに事実確認などが必要な時はありますが、事実確認が必要な個所には「後で確認」とノートを書いておけば良いだけの話し。自分の過去の体験を綴るのに、なぜネットが無ければ書けないと思っていたのかが不思議になるほどでした。(多分「気分転換」と称してSNSなどを際限なく見ていたりしたと思います…)ネットが無く、ただワードを打ちこむだけの執筆でするようになったのは手書きのノート取りと日記。更に過去の手紙や日記などをじっくりと読み込むことでした。疲れるとソファに座ってぼ~っとしました。ネットがある時はすぐにSNSを見てそれでぼ~っとしているつもりでしたが、多分全然違ったのだと思います。
到着してすぐに「ネットが無い」と私がクレームを付けたせいもあり、一週間後に新しいWiFiが設置されましたが、最初の一週間の習慣をなるべくキープするようにしました。以下が自分に課したルールです。
- 朝起きてから一時間はネット無し(朝の柔軟体操・洗面・身支度・水・日記)
- いかなる時にも寝室にスマホやノートパソコンは持ち込まない。
- 休憩時間はコンピューターとスマホを切る。ボーっとする時間を作る。
- トイレにスマホを持ち込まない。
- 本を読む。(読書中はスマホは近くに置かない)
3.ピアノが無かった
私は今までピアノが無い場所に自分から選んで5日以上行ったことはありませんでした。ここでは一応ピアノはあり、週5日位は一日30分~1時間くらいの練習は可能だったのですが、130年以上経っている骨董品で押しても下がらない鍵盤があるピアノでした。でも、それが良かったと今では思います。10歳と20歳でそれぞれ1か月ずつ入院しましたが、その後もちゃんと弾けました。なぜ毎日弾かなければいけないと思っていたのか。そしてピアノが毎日あることで、どれだけ自分の意識や生活がピアノに支配されていたか…その気づきも今書いている手記に新しい視点をもたらしてくれました。
4.雑音が無かった。(静寂があった。)
ラスベガスはカジノやショーが有名な観光都市ですが、ロサンゼルスよりずっと小さいです。そのせいもあるのでしょうが、兎に角静かだった。ロサンゼルスでは交通音(遠くの高速道路や救急車・消防車やトラックやヘリコプター、など)から逃れるためにはものすごく山奥にハイキングに行かなくてはいけません。その時に初めて(ああ、今まで騒音に囲まれていたなあ)と気づくのです。でもラスベガスでは静寂が普通でした。野の君が2泊3日で遊びに来てくれた時びっくりして「だから集中できるんだね~」と言ったほどです。(このWriter’s Blockはカジノなどがあるストリップからは離れています。)
5.食欲が無かった。
ラスベガスの名物と言えば、カジノやショーと食べ放題です。食べ放題に限らずとも飲食店が沢山あります。私がラスベガスに来ることを知ると、沢山の人が色々な飲食店を紹介してくれました。しかしいつもは大の食いしん坊の私が、「3度の飯より…」状態になったのです。買ってきた野菜と豆と豆腐を適当に切って大量に煮込んで、お腹が空いたらふかしたサツマイモや切ったアボカドやバナナと一緒に食べる、という食生活を飽きずに繰り返しました。料理に時間を費やすのも、強い味に集中を妨げられるのも嫌でした。書くためのエネルギーがあれば良かったのです。食べ過ぎると集中の妨げになるので、満腹は空腹と同じくらいいやでした。それで2キロほど痩せました。
6.時計と予定が無かった。
このアパートには一つとても大きな壁時計があります。でもこの時計は3時40分を指したまま、止まっています。マイクロウェーブとオーブンにはデジタル時計がありますが、キッチンに来なければ見えません。そしてここに来てスマホを本当に見なくなったので、そして約束や予定が無かったので、時間が気にならなくなりました。朝起きても何時だかわからないし、気になりません。ベッドの中でストレッチをしているとどんどん何をどう書きたいのか、詳細から構築まで頭の中で出来上がっていきます。そして寝室がある3階から二階に降りてマイクロウェーブを見ると、大抵5時から6時の間なのです。夜も目がしばしばして脳が飽和状態になるまで書き続け、(生産性が下がってきた…そろそろ寝るべきかな~)と思うと、大抵21時時前後なのです。書き続けていると時間を忘れます。それでよかったのです。
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明後日、ロサンゼルスに戻ります。昨晩は(もう書かないし、書けない。新しい草稿に満足しているし、疲れた。これ以上書かない方がよい)と思って、今日からはずっとおろそかにしていた自分の他の責任を果たし始めようと思って寝ました。それなのに、今朝起き掛けにまた新しいアイディアが洪水のように意識を満たし、憑かれるようにまた1日書いてしまいました。でも、今日の14時ごろでそれも終わり。明日は久しぶりにズームがいくつか入っているし、オンライン授業も教えるし、現実がだんだん再開してきます。