このブログエントリーは日刊サンに隔週で連載中のコラム「ピアノの道」の62回目(8月1日発行)を元にしています。
オリンピック開会から一週間が過ぎました。メダルラッシュの嬉しいニュースが沢山ある一方、注目を集めていた体操女王のシモン・バイルス選手(24)が「心の健康(メンタル・ヘルス)の優先」を理由に棄権をしたことが大きな話題になりました。今回意外にも3回戦で敗退し惜しまれたテニスの大阪なおみ選手(23)も先月フレンチオープンで内向的な性格と報道陣の無神経な質問を理由に試合後のインタビューを断り、更にその後精神衛生を理由に棄権しています。目先の勝敗よりも自尊心と将来を優先させる、新しいスポーツマンシップに拍手喝采したいと思います。
国際舞台の大きさとメディアのプレッシャーは比べ物になりませんが、私も25歳の時欧州デビューの舞台で演奏中に恐怖心に圧倒され、立ち上がって指揮者に「もう弾けない」と訴えました。なだめすかされて演奏に戻り弾き切りましたが、その後、その演奏会にチケットを購入して聴きに来てくださった方々に申し訳ないという罪悪感にさいなまされました。特に演奏直前に目にした臨月の女性が忘れられませんでした。胎教どころか不安感を与えてしまった。あの後大丈夫だっただろうか。
でもある日思ったのです。私は自分のベストを尽くす為に毎日出来る限りの精進をしている。あの日はあれが私のベストだった。聴衆は、私の演奏に「入場料に値しない演奏で損をした。」と怒る選択肢もある。でも、頓挫をしながらも必死に最後まで弾き切った演奏に、共感して人生教訓を見出して下さる事もできる。一人一人のお客様が私の演奏をどう受け止められるかは、私の手の届かないところにある。私はあの日の経験を将来の糧にする事が、あの日のお客様と自分の為にできる最善だ。
弱さをきちんと受け止め、それを踏まえてそれでも前に進むことが、本当の強さだと思います。人間は不完全で罪深いけれど、反省をする客観性と希望を持ち続ける向上心が在ります。オリンピックの勝者の笑顔は素晴らしい。でも、オリンピックの舞台で様々な悔し涙を飲む沢山のアスリートの未来にも、大声でエールを送りたいと思います。
この記事の英訳はこちらでご覧いただけます。
精神的な理由で棄権は、賛否両論があると思います。
それは前例がないから。
人間がパフォーマンスしている限り
心があります。
ロボットじゃないから。
莫大な時間を費やして、この日に備えてきたけど
できなかった理由が、すごくわかる気がします。
また、楽しんで体操ができたらと願います。
大切なコメント、ありがとうございます。
皆が楽しんで本領を発揮するためには、お互いへの信頼と自分の感覚に従った判断に自信を持つという文化が必要ですよね。
みきさんのおっしゃることに全面的に賛成です。
真希子