美声日記6.17:時空を超える歌心

私が父の転勤に伴い渡米したのは1989年6月9日。天安門事件の一週間後でした。2か月後に合格したジュリアード音楽院で私は生まれて初めてブラームスの曲をもらいました。間奏曲イ短調、作品116‐2。譜読みを始めてびっくりしました。(あ、この曲…)サクラにそっくりの主題だったんです。

🎵さくらさくら🎵のメロディーは19世紀半ばの幕末にお琴の手ほどき曲として発祥し、作者も作曲年も不明な民謡として時代を超えて歌い継がれています。日本でなじみ深いのは勿論、プッチーニのオペラ「蝶々夫人」やポップスからゲームまでの様々な引用などから、世界中で日本と言えばこの曲と思われる一曲となりました。文化庁とPTA全国協議会が2006年に歌い継いでほしい100曲中42番に選んでいます。

しかし不思議なことに、ブラームスはサクラのメロディーを知り得なかったのです。サクラが最初に渡欧したのは、1888年から1894年まで明治幕府の元で音楽教師を務めたRudolf Dittrich(1861-1919)と言うオーストリア人が、帰還して日本の歌曲集を1894年と1895年に出版した時です。ブラームスの間奏曲が作曲されたのは1892年。やはり音楽は世界の共通語なのか…感動しながら練習していたら、同じ年の11月に今度はベルリンの壁が崩壊しました。

🎵ドドソソララソ~🎵も1740年ごろフランスで発祥した作曲者不明の民謡。こちらも「ABCの歌」や「きらきら星」を始め、色々な歌詞で世界の様々な国で歌われてきています。1740年と言えばアメリカの独立宣言(1776)やフランス革命(1789)の前ですが、「天は人の上に人を造らず」なんてわざわざ言わなくてもと世界中で300年同じ歌を歌ってきた、そして今日も歌っている子供たちに格差があるなんて思えるわけがありません。難民の子。移民の子。病気の子。いじめっ子、いじめられっ子。学校が好きな子、嫌いな子。東でも西でも右でも左でも、みんなに大きな声で歌ってもらいたいです。

人間みな兄弟。音楽万歳。

Leave a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *