今日は午後、ICUの術後の患者さんたちに音楽をライブ配信する機会に恵まれました。
音楽は手術前や手術後の患者さんのストレス解消効果や、苦痛緩和の効果が在ることが立証されています。また病院で音楽があると患者さんの平均入院日数や鎮痛剤の処方箋の数が減少する事も分かっています。
今は特にコロナの影響で面会が不可能か、非常に限定されています。家族に会えない患者さんも多い中、MUSICAREというプログラムが中心となり、アイパッドなどを利用して患者さんに音楽を届けるという試みがアメリカ各地で行われています。ただこれも、患者さんの所にアイパッドを届ける係の人やアイパッドを管理する人など人手が必要で、病院が人手や予算不足の今、問題が無い訳ではありません。貧困層のためのLA市立の病院では、このMUSICAREを始めようともう何か月も前から話し合いがありますが、いまだに実現していません。今日は私はヒューストンのメソディスト病院に演奏を配信しました。
最初のRさんは、準備万端という感じで、楽しみにして下さっていることがありありと分かる感じ。食らいついて聞いてくださいました。私が弾き始めると、目を閉じてまるでお風呂に入っているような顔になって聞き入ってくださっています。嬉しくなってしまいました。余程クラシックがお好きなのかと思い「次はショパンとバッハどちらを弾きましょうか?」というと、ショパンもバッハも聞いた事が無かったようで「?」という顔になり「なんでも弾いてくれたら嬉しいよ。」今までクラシックに触れる機会が無かった方がこういう形でクラシックをお好きになってくださるのなら、それも嬉しいなあ~と思いました。ご自分から話して下さったのですが、もう20か月以上入院生活なんだとか。「この音楽配信の企画は毎回本当に素晴らしい気晴らしになっているんだ。いつも楽しみにしているよ。君にもまた会えると良いなあ」と言われました。
次のEさんは、Rさんよりずっと重症な感じで、周りに機械が沢山置いてあり、喋るのもやっとという感じ。兎に角短い曲から始めようと思い、バッハの前奏曲ハ長調を聞きました。そしたら少しうなづきながら聴いてくださって、もっと聴きたいとおっしゃってくださったので、ショパンの夜想曲などを弾きました。速いパッセージもかみ砕くように遅めに弾き、盛り上がるところもささやく様にして、やさしくやさしく、赤ちゃんに弾くような気持ちで弾いてみました。息継ぎのために何度もつっかえながら「君は本当にうまいね。どういう経緯でこういうことをする事になったの?」と聞かれたので「今は演奏会もできないし、自分が培ってきたものを出来るだけ多くの人とシェアしたいと思うからです。」といったらうんうんとうなづいてくださいました。
その次の女性は喉に医療器具が入っており声が出ませんでした。係の方がアイパッドを持って近づくと手ぶりで「寒い」と訴え、毛布を足してもらっていました。(音楽を楽しめる状態じゃないかしら?)と思ったのですが、弾き始めると見違えるような笑顔になり、本当に別人のような顔になりました。そして声は出ないのですが、口の形で「Beautiful」「Lovely」「Thank you」と何度も私に言って下さるのです。私の方がお礼を言いたいくらい嬉しくなってしまいました。
最後の方は割と元気なご様子だったので、ドビュッシーの月の光など長めの有名処を弾きました。少し世間話などをしました。
こういう風に、明らかに直接的に人の力になっている実感ができる体験は、本当に勇気づけられます。私の方が感謝したいような貴重な体験でした。今日ご縁があった患者さんたち、そして病院のスタッフの方々、みんな今夜ゆっくり眠れますように。
お疲れ様です。
12年前、鼻の下のがんができ摘出手術をしました。
場合によっては鼻もとるとのことでした。
3度の手術をしました。
完全麻酔ですから目覚めないかも知れません。
なので、手術前、アイーダ「凱旋行進曲」を聴きました。
長い入院生活後、主治医や医療スタッフのお陰で人生が変わりました。
「二度とない人生だから」と誰かが言いましたが、その通りに生きています。
小川久男
貴重な体験談をありがとうございます。
将来の不透明性、そして限りある人生であることは、皆同じですね。
思いやりを持ち、自分に与えられた時間を大事に生きるための一つが音楽であり、ご縁なのかもしれませんね。
真希子