程度の差こそあれ、一つの大きなプロジェクトが終わると次のプロジェクトに頭や気持ちを切り替えるのに努力が必要なのは、みんな同じではないでしょうか。プロジェクトの完成に向けてどんどん緊張と高揚が募るので、終わった後に満足感と安心感と共にちょっぴり喪失感があるのは、人情ですよね。演奏旅行の時には、移動日が丁度よく入る事が多いです。でも今回の様な地元でのプロジェクトの場合は、気持ちの「移動日」を自分の為に設けます。
気持ち切り替えのための「移動日」の条件
- 仕事から離れる(プロジェクトが演奏の場合は1日~2日練習をお休みにする。執筆の場合も同じく!)
- 適当に体を動かす。
- 普段しない体験をする。
- 普段は自分に許さない食べ物を食べることを許す(ご褒美!)
今回の喪失感は、プロジェクトが終わったことだけではありません。本当に物凄い偶然で録音までの1週間の間LAに滞在していた作曲家エルンスト・トッホのお孫さん、物書きのローレンス・ウェシュラ―氏が録音終了の翌々日、LAを去ったこともあります。結局1週間で4回もお会いし、トッホの音楽人生についてだけでなく、文化芸術の社会的意義や、次世代の為に我々が出来ることなど、私がコロナ禍で悶々と考えてきたことが打てば響くように新しい見解や情報や共感が帰ってきて、たぐいまれなご縁と友情を感じた出会いだったのです。これからも対話を続けることをお互い約束してお別れしましたが、少し寂しい気持ちがします。だから、20冊ある彼の著書の最新の出版をこの3日間で読破しました!
自撮りなので、鏡文字で読みにくいですが、「And How Are You, Dr. Sacks?:A Biographical Memoir of Oliver Sacks」という、2019年に出版された本です。脳神経科学者オリバーサックスは音楽の不思議を脳神経科学の観点から探求する「音楽嗜好症:脳神経科医と音楽に憑かれた人々」を始め、脳神経科学を身近にする沢山の著書を残した物書きでもありました。のちにハリウッド映画にもなる「レナードの朝」は出版された1970年代は余り注目を浴びていなかったのですが、この本に着眼したまだ20代のウェシュラ―氏はオリバーサックスの伝記を書くべく取材を始め、深い友情を培います。なぜウェシュラ―氏の伝記はサックス氏の死後まで出版を待ったのか...?
初夏の週末。裏庭で読書をしていると鳥が鳴き、そよ風に花の匂いが漂ってきて、リゾート地に居るようです。これはもはや移動日ではない...ヴァカンスです!
さすが...!ウェシュラ―氏の文章力は大したものです。そして随分なファンのつもりでいたオリバーサックス氏には、私が想像もしていないかった複雑な子供時代や家庭背景があり、その上サックス氏自身のエキセントリックな人柄もあって、ぐいぐい読ませます。アッという驚きや共感と知的な刺激の嵐。オリバーサックス氏もウェシュラ―氏も、哲学や宗教学や文学や科学や、兎に角色々な知識人の名前や主張を常識の様に簡単に出してきますが、私にはその常識が無いので、一々調べたりして結構大変です。
空腹も忘れて読み進んでいると、何となく寂寥感と言うか虚脱感が襲ってきます。(ああ、これはやはりプロジェクトが終わった喪失感か?)(ウェシュラ―氏との再会は一体いつになるのだろう。)しょぼんとしていると、野の君がご飯に誘ってくれます。食べてみると、別に寂寥感でも虚脱感でもなく、単なる空腹だったことが判明します。野の君、ありがとう。
こんなに食べても本番後は数日は体重の下降が続きます。本当に不思議なものです。
普段はほとんどしない外食とハイキングに野の君と出かけた以外は、没頭して朝から晩まで読み進んだ本も、今日の午後読破!ウェシュラ―氏に簡単な読書感想と、滞在中の色々に対するお礼も書きました。
さ、明日から6月!PAMA(Performing Arts Medicine Association舞台芸術医療協会)での学会発表(オンライン)や、コンクールの審査員(オンライン)、そして執筆中の本の締め切りや、支援金・フェローシップの応募締め切り、などなど結構盛沢山。そして月末にはコロナになって初めて、実に15か月ぶりの生演奏もあります!
5月は2回の収録と、それ関連のイベントで盛沢山でした。感謝しながら5月にお別れを告げて、明日からまた前進あるのみ!
エルンスト・トッホ氏の作品68、6つの小品集「プロフィール」の五曲目です。懐かしい様な甘美な無邪気さが胸を打つのは一小節に5拍というあまり見ない拍子に負う所がある...解説付きです。ご覧ください。
お疲れ様です。
トッホさんのお孫さんとの出会いは運命です。
高度な知性の周波数がぴったり重なって。
凄すぎる人の一文に接することで、感動の一端が得られます。
これは、有難いことで感謝します。
小川久男
生きていると色々あるものですね。
真希子