朝5時半ごろ:うっすら目覚め。
(眠れ!眠れ~)と自分を叱咤激励したりなだめすかしたりしたけど、やはり無理。時差や、前夜の就寝が1時を回ったことも考慮すると不健康な早起きだが、「えいや!」っと熱いシャワーを浴び、ストレッチと荷造りをして、朝食にホテルロビーに向かう。
7時15分:バンドの2人と朝食合流。
さすが4つ星ホテル!注文したアボカドトーストが絶品!そしてオレンジジュースは搾りたて!かなり悶絶するうまさ。
8時:再びマイアミ国際空港にとんぼ返り。
荷物を預け、セキュリティーチェックを通過し、なんだかんだで10時過ぎの搭乗時間はすぐに来る。機内では読書と睡眠。仕事をするより今は体力温存の方が大切。
14時過ぎ:バルベードスのブリッジタウン空港に到着。
コロナの予防接種の証明、72時間以内のPRC検査陰性結果の提出と、何度も要求される。その度にバンドリーダーが「私たちは来る前にバルベードスの健康安全省からの要請で色々オンラインアプリでアップロードし、記入し...あれは何のためだったの?どうして自動じゃないの?どうしてここに来てまたあなたに私の陰性結果を提示する事が必要になるの?」と無実の係の人々に一々突っかかっている。ここまで一貫して誰に対しても攻撃的だと、何だか可哀想にすらなる。
15時半:空港手続き終了。
同じく客船で演奏予定のサックス奏者のトミー君と合流して、一緒に車で船に向かう。トミー君は客船を次から次へと渡り歩く流し演奏家。「もう5年もやってるの。」白人美形の爽やか君。「僕ね、今は住所が無いという意味ではホームレスなの。でもね、これでお金をためてLAにお家を買うの。」そのトミー君によると「これから乗る船はね、5つ星クルーズで豪華中の豪華な客船なの。だからお客さんも高級志向なの。」
16時半:船に乗り込むとまず唾でコロナ検査。
2ミリリットルの唾を試験官に入れるのはかなり大変。唾を吐きながらバンドリーダーは検査を見守る看護士に何度も「これは絶対に衛生的ではない。理解できない。こんな事させるならなぜPCR検査が必要なの?どうしてマスクをしなくちゃいけないの?」バンドリーダーに出会う人皆が気の毒になる。私はバンドリーダーに代わって、出来るだけ愛想よくしたり、謝ったりする。でもダメージはダメージだ。この人は毒をまき散らしながら生きている。そしてこの唾のコロナ検査結果が出るまでは部屋で待機と言われ、バンドリーダーは更に怒る。「私たちのお夕飯はどうなるの?ルームサービス?なんてことなの!?」
17時:コロナ禍でつい先日まで実現が疑われた乗船。そして待ちに待った入室。
入室!モダン! トイレ!綺麗! 海を見渡すバルコニー!
17時10分。早速ルームオーダー注文。
待ってる間に荷ほどき。部屋もトイレも、すっきりとモダンで素晴らしく効率の良いデザイン。私が20代後半から10年ほどたまに乗り込んだクルーズ会社よりも豪華さが数倍上。そしてルームオーダー到着!
焼き野菜のサンドウィッチ メニュー曰く「うどん」入りチキンスープ 果物盛り合わせとチキンスープ
食事を運んで来た人は皆男性。
重いからか?ラテン系のアクセントの人。東洋系の人。そして食事後に挨拶に来た私の部屋を担当してくれるセルゲイさんはロシア系かな?そう言えばコロナの唾検査を指導した看護士さんも東洋系だった。
20代後半にクルーズで客演演奏家の仕事をさせて頂いた時は、乗務員の労働条件や人権問題、さらにそこに縮小して垣間見られる貨幣価値のギャップから来るグローバルな不平等さなどに、考えさせられた。今回はそれに加えてクルーズ業界のエコ問題を視察したいと思っています。
自分の特権的立場を罪深くも感じながら、それでも海を突き進む豪華客船のベランダでこうしてブログを発信している音楽人生の成り行きが面白おかしくもある。まるで貧乏貴族だよ、わたしゃ。
…と、これで今日は幸せに就寝かと思いきや…
19時15分:「唾検査でコロナ陰性でした。これからは船内をご自由に歩いて頂いて結構です。」の電話がかかって数分後…
「さあ、これから夕食に行くわよ!」
と、バンドリーダーからの集合命令。「もうルームサービスで食べたので...」と言いかけると「私だって食べたわよ!だから何?これからレストランに行ってちゃんと食事をします!」
…まあ、私も船内探検はしたかったし、それにこの船のグルメ料理の前評判にそそられていたので、乗り掛かった舟!乗船時に言われた「18時以降は正装。」でヒールと少し装飾をして言われた場所に集合。急いでいて携帯を持って行かなかったので、写真は撮れなかったが確かに一級グルメだった。シーフードスープもシュリンプカクテルも一瞬我を忘れるほどの美味。さっきのサンドウィッチも普通以上に美味しかったが、あれは食べるべきでは無かった。
食事をしながら気が付いたのだが、要するにこのバンドリーダーはこの船内で一人で居るのが怖いのだ。携帯のシグナルが入らない。いつもと同じ方法で親しい人々と連絡が取れない。未知の世界に放り込まれた状態で、演奏家としてかっこつけなければいけない。「船が出してるツアーに皆で行くために、全部参加登録しておいたからね。明日は朝早いわよ。5時半に船のジムで一緒に運動して、7時半に一緒に朝食食べて、そして8時半に島のツアーに参加よ!分かった?」
…いやいやいや…
「こういう客船では、他の乗客との社交がどれくらい上手にできるのかというのもゲスト・アーティストの評価に成るんですよ。トリオでいっつもつるんでいたら、他の乗客との交流がしにくいですよ。」
「何!?あなたは私に全く知らない人に脈絡なく話しかけろって言うの?売春婦みたいに?」
私はトリオとべったりは嫌だ。ブログも書きたいし、他にも差し迫っているメール交信や締め切りや次のプロジェクト関連のする事リストもある。それに私はこの5つ星豪華客船の他の乗客と知り合いたい。
ただ、船のどこに行っても閑散としているのは気になる。今日唯一トリオと船のスタッフ以外で言葉を交わした夫婦によると、900人以上の乗客を乗せるデザインのこの船が今、コロナ禍で375人しか乗客を乗せていないのだそうだ。それでサステイナブルなのか?そして私はトリオを巻いて、他の乗客と知り合えるのか?
お疲れ様です。
波乱万丈の演奏旅行ですね。
まるでドラマを観ているようです。
豪華な客が少ない豪華客船に、秋風を感じます。
小川久男