タングルウッドではピアニストは優先的に練習室を予約できます。タングルウッドのキャンパスで2時間、寮で3時間予約が出来ることになっていますが、色々予期できない事態が起きて折角の練習室の予約もおじゃんになる事も在ります。そう言う事態を見込んで、毎朝クラスの前とか、出来る時にちょっとでも開いている練習室で練習しよう、と皆頑張ります。私は今日は朝一でキャンパスに着いて、クラス用の良いピアノが置いてある部屋に直行したら、何だか工事の人の作業道具が沢山置いて在ります。(ああ~、ここでは練習出来ないかなあ)とちょっぴり残念に思っていたら「もう作業は終わりましたから、どうぞ使って下さい」と工事の人に言われました。わ~い、と思って練習を始めたら、一番若いいかにもアルバイト学生の人が一人残って作業の後の掃除をしています。ほうきを使ってやっているのですが、私が弾いているので気を使ってソロ~り、ソロ~り、とまるで太極拳をやるようなゆっくりとした動きです。「只のウォーム・アップで準備体操の様なものですから、音を立てても大丈夫ですよ」と余程言おうかと思いましたが、その人が余りにも真剣に「太極拳掃除」に集中していて、むしろ言ってしまったらその人が傷つくような気もしたし、またその心遣いが私も嬉しくって、何も言わないで終わってしまいました。その人がいかにも「悪」そうな、無骨な感じのルックスの人だったので、余計にホロリとしました。だから、ウォーム・アップを早めに終えて、その人の為にシューマンの「子供の情景」を弾いてあげました。でも、余りにも太極拳掃除に集中して、聞こえなかったかな?
そんなことをしていたら、10時の歌の公開レッスンのギリギリの時間になってしまいました。私は今日は弾かないけれど、ピアニストは歌の公開レッスンは必修なのです。タングルウッドは遅刻に厳しいので、息せきって走って行きましたが、走りながら(もう絶対間に合わないなあ)、と思っていました。でも力を抜かずに全力疾走して行ったら、私が着いた正にその瞬間に先生が「皆さん、おはようございます。今日の講師を紹介します」と始めたのです。間にあった~。力を抜かなくて、良かった。
8月1日に私はAugsta Read Thomasと言う女流作曲家の書いたソロ・ピアノの曲「Traces」を弾きます。その為に色々な打ち合わせで、メールのやり取りをしていました。今日、彼女からインタビュー記事が送られてきました。彼女の作曲家としての人生に対する心構え、音楽に託す思い、とかそう言った事が書かれていました。「毎朝起きて、白紙に音楽を書きつけて行く。こんな事、気違いか、余程の楽天家で無ければできない。そして、私は敢えて楽天家である事を選ぶ人間です。私は音楽が好きでたまらないし、作曲をしない人生なんて考えられない。音楽に自分を託す」。私はとても共感して、触発されて、夜の練習は倍気合いが入ってしまいました。この人と一緒に曲を仕上げて行くのが楽しみです。