55歳以上の人だけの街 サン・シティー

 今、私は西海岸に近いアリゾナ州からニューヨークに戻る飛行機の中です。昨晩、アリゾナ州のサン・シティーというところで私の大学時代に室内楽の教授だったK.氏の伴奏をしました。
 K氏は大変多才な方で、ジャズ、クレズマー(東ヨーロッパのユダヤ人の伝統音楽、おめでたい時に演奏され、即興を沢山含む。リズムは123、123,12,123,123,12、スケールは中近東風)それにクラシックとこなし、今回のプログラムもこの3つのジャンルを交えて、私はブラームスのソナタ、ドビッシーのラプソディー、そしてカルーザックの小品を共演しました。打ち上げのときはジャズのパートを共演した人たちや、K氏のお父様でチャーリー・バーカーやビリー・ホリデーなど沢山の歴史的ジャズ奏者達の治療にあたった元精神科医に色々ジャズのエピソードを教えてもらい、私は今大変触発されています。
 それにしても昨晩コンサートをしたサン・シティーというところはとても変わったところでした。アリゾナ州の首都フェニックスから車で一時間弱と砂漠の中にあるのですが、住民はすべて55歳以上でなければならないのです。夫婦の片方が55歳であればその伴侶も住民になれるのですが、仮に55歳以上の方が亡くなった場合、55歳以下の伴侶はすぐに家を売って引き払わなければなりません。
 アリゾナは夏は40℃とか50℃とか、体温をはるかに超える非常に暑いところですが、冬が温暖で雨が少ないため退職した人たちが多く隠居してくるそうです。サン・シティーの他にもそういう「55歳以上に限る」という街が後2つあるということでした。話を聞いたときには暗いイメージを抱いてしまいましたが、一日だけにしろお邪魔してちょっと納得したかも、、、、
 勿論、街の外からその街に働きに来ている人も沢山いるのですが、サン・シティーの住民で働きたい人はサン・シティーで働くわけです。一番印象に残ったのはコンサート会場となった高級レストランで働いていた女性です。たぶん70歳は超えていたと思いますが、タキシードを着こなしてきびきびと本当に楽しそうに働いていました。この人が仮にサン・シティー以外の場所で同じような職を得ようとしても、年齢のために差別を受けて難しいだろうなと思いました。その他に気がついたのはコンサートの聴衆、特に女性が驚く位華やかにドレスアップしていたことです。頭のてっぺんから靴の先まで真紅の羽飾りだったり、キラキラ光るドレス、アクセサリーどっさり、、、、等々実に堂々と華やかさを楽しんでいらっしゃいました。
 日本を始めとする東洋とか、ちょっと話を聞いたところではアフリカ等でもお年寄りを敬う文化や習慣がまだ健在だと思いますが、アメリカではまずハリウッド映画界、テレビ、化粧品の宣伝等で年配者は美的感覚の対象からはずされ、次に資本主義では生産性の劣る人材となり、消費者としての価値も財産を沢山持たなければ落ちるし、、、ということでお年寄りが余生を楽しむというのが難しいのかもしれない。「年寄り」のレッテルを貼られて肩身の狭い思いをするよりは、同年代同士で楽しく、華やかに、賑やかに暮らしたいのかもしれない、と色々考えてしまいました。医学が発達して長生きが当たり前のようになりましたが、世代間の関係とか、どうやって始めから終わりまで充実した人生を送れるか、とか、その「充実」も個人的満足、幸せも勿論ですが,社会的貢献をどうできるか、等色々課題が残っているなあ、と思いました。
 一泊二日の短い旅行でしたが、色々見て、聞いて、感じて、音楽共同制作して、とても楽しかった。

2 thoughts on “55歳以上の人だけの街 サン・シティー”

  1. 最初にアメリカ本土に来た時は老人ホームと高齢者対策の政策調査という実に硬い仕事でした。それでSun Cityに来る機会があったんです。そのほかHoustonとDenverに寄って全日程2ヶ月の出張でした。

  2. >kinjotxさん
    へ~、奇遇ですね!私は色々な人に優しく迎えてもらってとっても楽しかったし、そういうコンセプトに感銘を受けました。コメント、ありがとうございます!
    マキコ

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