演奏道中記11.24:ピアノバン大冒険を経て

ピアノバンの一週間は高揚感が持続していました。

何しろまずバンを運転したことが無かった。しかも善意の友人から拝借したベンツのバンです!かすり傷もつけたくない!これを臆せず、サンフランシスコの中心部やゴールデンゲイトブリッジや高速に乗せてぶんぶん運転してまわる為には勇気をありったけふり絞らなければいけなかったのです。

そして凄く密な友情交歓がひっきりなしにありました。出発10日前には宿さえ決まっていなかった。それが私のFacebookのポストとブログにすごい反響で昔の学友や学会や協議会で会った知り合いが「家に泊まって!」「どういう支援が必要か言ってください!何でもします!」とゾクゾクと連絡をして来てくれて、沢山の人生模様と深く触れあい、倫理や美学や社会問題について意見をじっくり交換しあったり、その人の専門や仕事について見せて頂いたりと、本当に素晴らしい新しいコミュニティーに恵まれた結果となりました。その結果朝はコーヒー、夜はアルコールと、そして日中は普段はありえないような大盤振る舞いのご馳走やデザートで、もうお腹もハートも脳みそも一杯一杯になったのです。

そして火・水・木と三日続けて計6回、実に多様な聴衆に演奏をしました。主催者側は前例のない試みに「生徒たちが足を停めなくても気にしないでください」とか「クラシックに余り馴染みのない人たちだから静かに聞いて居なくても悪く思わないでね」とか気遣ってくれていました。正直、私も自分の投げかける演奏やメッセージがどう受け止められるか不安でした。でもそういう懸念がウソの様に、皆物凄く熱心に聞いてくれたのです。大学のキャンパスの近くで哲学の教授4人を相手にすごく専門的な19世紀美学の論議に巻き込まれながらスクリャービンやバッハを弾いたり、ホームレスの人々にドビュッシーやシューベルトを弾いたり、凄く寒い小雨を気にせずコンクリートの歩道にべったり座り込んだ何十人という大学生の熱心なまなざしに向けてショパンを弾いたり、満月の下で月光のソナタを弾いて拍手されたりしました。そういうことを思い出すと胸が熱くなり、夜は中々寝付かれませんでした。

木曜日の誕生日は本当に物凄い幸福感に満ち溢れていたのです。

意義を感じること・信念を感じている事を実践できているという充実感が全身にみなぎって朝目が覚めました。私を泊めてくれた友人も誕生日の帽子や飾りを持ちだして思いっきり祝ってくれ、もう笑いが止まりませんでした。その上野の君が私の誕生日だからと言って早起きして飛行機に乗ってサンフランシスコで合流してくれました。木曜日に会った二つのイベントに、ニコニコとして参加してくれ、ビデオや写真を一杯撮ってくれました。

それから土曜日の朝LAに向けて運転開始をするまでは本当にもう最高潮だったのです。

帰りの車の中では余韻に浸っていましたが、その頃から感じていた頭痛と筋肉痛と疲労が帰宅後全開

サンフランシスコ滞在中の一週間、全く運動という運動をしていなかった私だったのですが、なぜか全身筋肉痛。多分バンの運転中に体に力が入っていたからだと思います。頭痛は寝不足かな?飲みつけないアルコールをなんだかんだでほぼ毎晩飲んだせいかな?

疲労と、ピアノバンから垣間見た貧富のギャップや世の不正、そしてその重圧に耐えながらも私を笑顔で迎え抱擁してくれた人たちの事を思って感情的に圧倒されてしまい、病気の様な感じになってしまいました。(私がピアノバンを乗り回して、自己満足以外の何になると思っているんだ。偽善じゃないのか...)そんな負の感情をどうしても抑え込む事が出来なくなってしまったのです。

もうダメだ!

腹をくくって昨日は寝床に入り込み、8時間ぶっ続けで「イカゲーム」のシーズン①を最初から最後まで全部見ました。取り合えずその間は自分のネガティブ思考からは逃げ切れた。そして今日は段々普段の自分に戻ってきている実感があります。昨日の朝出したSOSに応えて色々な友達と電話でお話ししたのも良かった。サンフランシスコで哲学を教えていて、ピアノバンに自分の同僚を沢山引き連れて来てくれた私の尊敬する先輩が、私のネガティブ思考に対してハイデガーやガンディやモンティーパイソンを引用して一生懸命「あなたのやっている事は凄く価値がある!絶対続けるべき」と電話越しに唾が飛んでくるかと思うような勢いで説得してくれました。その熱意に元気が出ました。

1 thought on “演奏道中記11.24:ピアノバン大冒険を経て”

  1. お疲れ様です。

    これは、快挙でした。
    何よりも、無事に生還したこと。
    人に感動を与えたこと。
    そして、否定的なもう一人の自分に勝利したこと。

    こんな言葉を贈ります。
    「慮(はか)らずんばなんぞ獲(え)ん、為さずんばなんぞ成らん」

    小川久男

Leave a Comment

Your email address will not be published. Required fields are marked *