洒脱日記138:レオン・フライシャーの死去

アメリカの伝説的ピアニスト、レオン・フライシャーが今日8月2日(日)92歳で死去しました。

私はレオン・フライシャーとは何度かご縁がありました。学部と修士の時、公開レッスンで演奏させて頂いたこと。そして2009年2月7日に彼の指揮で、ラフマニノフのパガニーニの主題による狂詩曲というピアノ独奏とオーケストラのための曲を演奏させて頂きました。上の写真はその日の演奏直後の物です。

私との演奏の2年前、彼はケネディーセンター名誉賞を受賞しており、それも在って私が共演させて頂いた時は周りがみんなへりくだって彼を迎えている感じでした。彼は幼少時は神童で伝説的なピアノの巨匠シュナーベルの弟子でもあり、若い時から華々しいキャリアを築き上げていました。が、30代後半でディストニアにより右手がこわばって使えなくなります。左手のための曲を専門的に弾いたり、ピーバディー音楽院で教授になったり、指揮をしたりして音楽活動を続け、1990年ごろからボトックスの注入で何とか右手も使えるようになりました。演奏する直前に毎回注入するのだそうです。その度に痛いのだそうです。

私が共演させて頂いた数年後、特待生として参加させて頂いていたタングルウッド音楽祭で、レオン・フライシャーがモーツァルトの協奏曲を演奏しに来た事がありました。私は彼のピアニストとしての生演奏を聴くのはその時が初めてだったのですが、右手の薬指と小指は丸まってしまっていて、左手を交差して多くの右手のパッセージをカヴァーしていました。演奏後、観客は総立ちでしたが、私は複雑な心境でした。人々は何に拍手をしているのか?ハンディを乗り越えて弾ききった、フライシャーのヒューマンドラマに?彼の経歴に?名声に?楽屋に挨拶をしに行きましたが、彼の目は上の写真のように泳いでいました。

色々な人生、色々な苦悩、そして色々な音楽があるのだなあ、と思います。

今日、他にも亡くなった音楽家が沢山いる。みんな違って、みんないい。みんなの健闘に敬意を表し、そして冥福を祈りたいと思います。

今日は昨日に続いて「難所を楽しく練習するー実例版」のビデオを上げました。ご覧ください。

2 thoughts on “洒脱日記138:レオン・フライシャーの死去”

  1. 小川 久男

    お疲れ様です。

    人は死ぬために生きています。
    使命を全うして悔いなく宇宙へ還られました。
    天晴れな人生に憧れます。

    小川久男

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