気が付いたら次の旅まで後丁度一週間。今度は東海岸。ボストンで演奏会とアルバム収録をして、その後終末ケアに入った私のアメリカン・マザーとクリスマスを過ごす為にNY/NJに行きます。
今日は珍しく雨。ハリウッドがLAにあるのは、まだ太陽光で映画を撮っていた時間、一年を通じて日照時間が一番長かったのがLAだったから、とか。ピアノに向かうと眼中に入る8角形の窓の外には、毎年この時期愛らしく色づく木が在ります。今日は曇り空にその紅葉が一際映えます。モーツァルトを弾く手を休め、外に目をやると15分前よりも色の鮮やかさが増しているような...近年、気候変動の中でカリフォルニア州の干ばつが深刻化する中、雨を聴きながら練習していると、ただただ感謝。
ピアノに座ったままで8角形の窓から右に目をずらすと、暖炉が在ります。暖炉の上に座っているのは私が3歳の時から持っているお人形。私と誕生日が同じ妹が生まれる際、母の友人が「ママを取られるマキちゃんの為に」とプレゼントしてくれたお人形です。
お人形が抱えている「Happy Birthday」の紙コップと被っている赤いとんがり帽子、そしてその周りに掛かっているリボンは、サンフランシスコで3週間前に迎えた私の誕生日を祝って友人が準備してくれたもの。捨てるに忍びなくてこうして飾りました。
演奏旅行中の高揚感は物凄いものがあります。密な友情交歓、濃厚な会話、一期一会の意味深な出会い…全てが新鮮で、刺激的で、掛けがいが無い。でも、お家でこうして雨の音を聴きながら大好きな物や思い出に囲まれて練習していると、至福です。
学生時代が非常に長く、常に旅行が付き物の音楽を生業とする外国人として、私は「故郷」とか「ホーム」という物は人の感覚を鈍らせる、と刹那的に生きることを選んできました。でも今こうして野の君と一緒になって、二人で「マー君」と名付けたお家に住み始めて3年目に入り、(お家や近所が世界で一番美しい!)と思います。
最近撮った近所の写真たちです。
お疲れ様です。
まるで、ソナタ形式の音楽ですね。
提示部:「ピアノバン」
展開部:一期一会の真剣勝負
再現部:雨の今
成功の余韻をお楽しみください。
小川久男