Chiara Quartetは現在アメリカでもっとも注目されている弦楽四重の一つです。
(英語ですがHPはこちら:http://www.chiaraquartet.net/)
特に最近リリースした「Brahms by Heart」で注目度が急上昇し、
NYタイムズを始めとする多くのメディアに取り上げられました。
その理由の一つは四重奏には珍しく、暗譜で録音に挑んでCD作成をし、
最近の彼らの生演奏も多くは暗譜で行われるからです。
「注目を浴びるためのネタだ」と言う批判を跳ね飛ばし
「私達は9年間このブラームス四重奏・五重奏の録音を試みていたが、
その時のテークのどれにも納得がいかず、試行錯誤の結果
暗譜によって自分たちの満足の行く域に達することが出来たのだ」
と公表しています。
『何々を「by heart」でする』と英語で言った場合
これは「記憶して行う」と言う意味の諺と成りますが、
彼らは「私たちにとって本当にハートから演奏しようと思ったとき、
文字通りBy heartでやるのが一番と言う結論に達した」と言っています。
この四重奏の第一ヴァイオリン奏者、レベッカ・フィッシャーが
私の博士論文のテーマを知って、快くインタビューに応じてくださいました。
子育てしながら、演奏旅行をし、学校で教え、と言う生活は本当に忙しい物だと思いますが、
移動のための運転時間を理由して始めは「30分しか時間が取れないのですが…」
と断られていたのにも関わらず、最終的には45分くらいの熱弁となりました。
楽譜を使って演奏していた頃と今との練習法の変化、リハーサルの仕方の変化、
4人の奏者の中でも以下に暗譜の仕方が違うか、
過去や現在に置いて、暗譜での演奏・録音をやっている他のアンサンブル、
オーケストラが暗譜をする事の是非、などなど
実に広範囲にわたって話し合う本当に刺激を多く受けるインタビューでした。
特に四重奏の場合、楽譜立てはお互いの目線の間にはばかってしまう結果となり、
楽譜立てが無くなったことでお互い目線を交わすことが非常に多くなり、
さらに体ももっと自由に音楽に合わせて動くようになった、
兎に角演奏が全般的にもっと自由、楽になった、
とレベッカは繰り返し語っていました。
ただ暗譜での演奏には準備に数倍の時間がかかるため、
興業家本意、招待する側本位の、今の音楽市場に置いては
向こうが要請する曲目に応えられない場合が多くある。
今は暗譜が珍しくて、メディアに多くの注目を浴び良いが、
これからそう言う意味で売り込みが難しくなる可能性もある。
更に、他の四重奏や室内楽グループから
「我々も暗譜で、と言うプレッシャーがかかるからやめてくれ」と言われることもある。
とも言っていました。
しかし、彼らにとって暗譜をすると言う行為はあくまでよりよい演奏のため、
より真摯に音楽と向き合うための試行錯誤の結果であり、
売名行為や見せびらかしなどでは絶対無いことは強調されました。
この4人は音楽を分析的に考えてしまう傾向があり、
楽譜を取り除くことによって、知性よりも感覚、そして感性で演奏することに近づけた、
だけど楽譜を使ったほうがよりよい演奏ができる音楽家だって居るだろう。
暗譜はあくまで自分たちの試行錯誤の結果であり、
一般的な暗譜による演奏の是非を推奨するつもりは全く無い、
とも言っていました。
私の論文のリサーチがもっと進んだ数ヵ月後にまたお話しをする事を約束して、
電話を切りました。
とても、わくわくしました。