大体世の中一般にそういう傾向があると思うが、
音楽界でも、分業が進んでいる。
ピアニストはピアノを弾くだけ。作曲家は書くだけ。
オーケストラの音楽家はソロを弾かなくなり、
全く練習することを止める先生もいる。
つい最近あるピアノのクラスで、先生がブラームスの交響曲を弾いたところ、
ピアノ科の学生のほとんどが何の曲か知らなかった、
と言う場面に居合わせたことがある。
それではいけない、と言う動きも同時に在って
ここ、タングルウッドではピアニストは実に様々なこと、
普通にピアノ科の学生として学校にいる分には絶対しないようなことをさせられる。
まず、ここに来るために選ばれた11人と言うのがすでに変わっていて、
1人は元声楽家志望、もう一人は元作曲家志望、
それから元ハープシコード専科のピアニストも居る。
11人全員がソロ以外の演奏(アンサンブル、伴奏、コレぺティ)などの経験が多少はある。
そして、さらにこれから7週間、とにかくピアノと言う楽器のあらゆる使われ方を経験する。
その下準備と言うことなのか、今日は
合計6時間に渡る講義と実演のクラスがピアニストに必修として課せられた。
最初のクラスはボストン・シンフォニーでスタッフ・ピアニストとして20年目の
Mr. Corlissが総譜の読み方、総譜から弾かなければいけない時の準備の仕方、
リハーサル・ピアニスト(声楽家がオケやフル・アンサンブルとリハーサルする前に
ピアノ伴奏と指揮者と下稽古をつける時のピアニスト)の役割と、役の効率的な果たし方、
チェレスタ、オルガン、ハープシコードなど、オケの中の鍵盤奏者として弾けなければいけない
多様な鍵盤楽器のデモンストレーション、など。
そして次はアリア伴奏のクラス。
それぞれ課せられたアリアを準備してきて、
メトロポリタン・オペラのスタッフ・ピアニスト二人の前で次々弾かせられるのだが、
まず弾く前にそのアリアがどういうオペラのどういうシーンで、どういう役柄に歌われるのか
歌詞の内容まで説明させられる。
そして、伴奏パートを弾いていると、矢継ぎ早に
この旋律はオケ版ではどの楽器が弾く旋律か、
どこで歌手の呼吸を予期しなければいけないか
次々と聞かれ、即答できないとお説教される。
私は有名なモーツァルトのドン・ジョバンニの中でも有名なアリア、”bati, bati"
だったので、なんとかクリアできた(?)が、
皆ストラヴィンスキーとか、すごく歌手が揺らすのでつけるのが大変なプッチーニとか
すごく上手でびっくりした。
一人の子はピアノに編曲したものでなく、総譜から弾いたし、
もう一人の子はチャイコフスキーの”エフゲニー・オネーギン”の手紙のアリアを
ロシア語で歌いながらオケ・パートを弾ききった!
皆、あっぱれ。
ピアニストだけがいろいろなことをさせられるのでは無く、
ここでは作曲家が自分の曲を指揮したり、
弦楽器奏者たちもオペラ、オケ、室内楽、ソロ、協奏曲と色々弾かせられるし、
とにかく盛りだくさん。
分業化は確かに進んでおりますね。演奏だけではなく音楽的教養や作曲も出来ないと、演奏表現の幅も拡がらないと私は思います。昔のピアニストは当たり前に出来た事だったのですが……。
>一世(Issei)さん
コメント、ありがとうございます。返信が遅れてごめんなさい。
リヒテルも、コレぺティから始めた、と聞いたことがあります。今は作曲・ピアノ・指揮と活動をする、プレヴィンやJeffrey Kahaneなどがいますし、内田光子さんも、モーツァルトの協奏曲を演奏と指揮したそうです。私も、色々勉強して、視野を広げたいと思っています。