ライスの博士課程の必修は色々在りますが、演奏の義務も在ります。
3年間の在校中に5つの演奏をしなければ卒業出来ません。
#1 2つの独奏会
#2 室内楽のコンサート
#3 レクチャー・リサイタル(トピックを決め、それについて講義をし、関係ある曲の演奏をする)
#4 協奏曲の演奏。
#4以外は、全て休憩をはさむ普通の長さ(約2時間)のプログラムとなります。
私はタングルウッド音楽祭の前、日本で演奏したリサイタル・プログラムで2つの独奏会のうちの一つを最初に片付けよう、と長い事計画していました。そのリサイタルが来週末の土曜日、9月25日の夜8時から、ライス大学のDuncan Hallと言う所で行われます。入場料は無料ですし、とても響きの良い美しいホールですので、知り合いにヒューストン近郊在住で、ご興味がお在りになりそうな方がいらっしゃりましたら、是非ご招待ください。
今回のテーマは「生誕記念の作曲家たち」。1710年、1810年、1910年に生まれた作曲家たち、そして2010年に完成した”Traces"と言う現代曲を並べて、西洋音楽の発展上、100年間と言う時間の単位はどう言う物なのか体験出来るプログラムです。
ライスでは全てのリサイタルに「リサイタル・コミティー」と呼ばれる、教授3人からなる審査委員が付き、合格・不合格の診断をします。そして全てのリサイタルの1~2週間前に「プレビュー」と言う物が行われます。これは、この「リサイタル・コミティー」の前でプログラムを通して弾いて、リサイタルに向けてのコメントをもらうのです。教授がこのサービスの為に金銭的な支払いを受けているかどうか私は知りませんが、これだけでかなりの仕事量なのに、今回のリサイタルの為に作曲の教授、そしてピアノの教授2人が快くこの任務を引き受けてくれ、昨日は土曜日にも関わらず、午後に私のプレビューに参加してくれました。
演奏をするとやはり疲れます。宿題は今日はお休みにして、ジムに行き、ひと汗かいた後、友達とヒューストン交響楽団を聞きに行ってきました。ヒューストンのダウンタウンはとても文化的。劇場、音楽会場、美術館などが並んでいて、建築も面白い物が多いです。ヒューストン交響楽団はハンス・グラフと言う常任指揮者の指揮で昨日はストラヴィンスキーの「ナイティンゲール組曲」と言う初期の作品、ショスタコーヴィッチの交響曲1番、そしてブロンフマンのソロでチャイコフスキーのピアノ交響曲1番が演奏されました。ハンス・グラフの指揮はとても明瞭で、分かりやすく、見ていて勉強になります。ブロンフマンはいつも通り圧巻。ヒューストン交響楽団はたまに金管の音程やアンサンブルの技術的問題が感じられた物の、全体的に熱情的で、とても好感を持ちました。ただしホールは建築70年物だそうで、音響は少しさびしい感じがします。
今シーズンのヒューストン交響楽団の宣伝の目玉は新しいコンサート・マスターです。フランク・ホワングと言う中国出身の若い奏者ですが、私はニューヨーク時代、彼の事をソリストとして知っていました。ナウンバーグと言う大きなファウンデーションのコンクールに一位になったほか、大きなコンクールでいくつも賞をとり、一時期盛大に宣伝されたソリストです。最近、ニューヨーク・フィルハーモニックの主席チェロとか、こういうスターを主席に添える交響楽団が増えて来ていますが、同時にそれはオケの一員となる事で華々しい演奏旅行の生活より、収入や生活の安定を選ぶ音楽家が増えている、と言う時代の傾向の反映でもあります。フランクはヒューストン・交響楽団と11の時にデビューしたゆかりも在り、宣伝効果は抜群ですが、同業者としては「ブルータス、お前もか」と言う感もちょっと在ります。
それにしても木曜日のコンサートに引き続き、ヒューストンの聴衆のマナーには本当に圧倒されました。チャイコフスキーの協奏曲の一楽章は本当に派手で、タングルウッド音楽祭でも一楽章の後に大きな拍手が起こったのに、ここではシーンとしています。そして、3楽章が終わったら待ちかねたように瞬時のスタンディング・オヴェーション!凄くびっくりします。アメリカでは本当に珍しい事です。