美笑日記1.27:何のための練習か

急に大きな演奏の機会が到来した友人から電話が来た。夜。結構遅い。

「練習はどう?話している時間あるの?」

「うん、夜は氷水で手を冷やさないと眠れないの。こうしてる間は他に何も出来ないからちょっと付き合って。」

「そ…そっか。大変だね。」

「でも、学生の頃はもっと大変だった。朝起きると数時間、手が強張って動かないの。それが当たり前だったから...マキコもそうだったでしょ?」

氷水に手を漬けてからでないと眠れない…?

(バレーの映画とか根性もの漫画で見た事があるぞ…ピアノでもそんな事やるのか?)

朝起きると数時間、手が強張って動かない…?

(もしかして、リュウマチ…ではなくて!?)

『マキコもそうだったでしょ?』…てか?

イヤ、マキコはそうではありませんでした!

彼女の方がコンクール歴は華々しいが、同じ門下で似たような演目路線で来た同じ釜の飯を食った昔の学友。それなのに、今になって明らかになる、この違い...

(私って実はあんまり練習していなかった...?)

...にわかに罪悪感。

それでもマキコだって。

マキコだって学校に一番乗りで、警備員さんがビルを開ける瞬間に入って練習開始した(…朝もあった)!

マキコだって警備員さんに「もうビル閉めるから帰りなさい」と言われるまで練習した(…夜もあった)!

...でも正直に良く考えてみると。

確かに学部生の頃、ビルが開く朝6時に一番乗りで登校して練習室に陣取った。でも、コートを脱いだ次の瞬間にノートを開いて、朝焼けについて詩を書いたりしていたぞ!書き上げて練習を始めても、インスピレーションが降りてくると書いた詩を校正し、もう少し練習しては一文字変え、またちょっと練習してはさっきの一文字を元に戻し、そんな事をやっていた記憶があるぞ。そうこうしている内に8時になる。8時はカフェテリアが開く時間!お腹グーグー鳴らしながらおばちゃんに毎朝ベーグルを熱々にトーストしてもらって、バターをたっぷり塗ったやつを物思いに耽りながら一人でゆっくり咀嚼していた。日記付けながら食べた日もあった。読書しながら食べた日もあった。いや~、あのベーグルは毎朝、実に実に美味しかった~。(そして、50セントでした。)

そして人は...というよりマキコは、何十年経っても変わらない。次の10日間で、ヴァイオリンとの新曲披露と、二泊三日の出張と、一時間の独奏会と、数々のズーム会議や授業を抱えている私は、あと40分しかない練習時間を割いて、なぜかこのブログを書いている。学部生の頃、詩を書いたのと同じ。書かずにはおられない。

でも、こうやって書いていて、全く後悔はない。

私は演奏技術よりも音楽性や音楽観を、そして効率性や収入や一般的な社会評価よりも、自分の内面を人とシェアするやり方をずっとずっと摸索して来たのだと、振り返って改めて思い知る。

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