「我を忘れる瞬間を探し求める。」「意味深い思い出を沢山創る。」
私の目標です。
限りある命の自覚がある我々は、時間の有限さに集中し過ぎてはいないでしょうか。本当に注目するべきなのは毎秒・毎分・毎時間・毎日・毎人生に秘められる無限の可能性なのではないでしょうか。「時間の芸術」とされる音楽を生業とする私が言えることの一つは、「聴きいる」という行為で音楽に身を任せると、曲の始まる前と後の自分が違う人間の様な気がするときがある、と言うことです。和音の発音から消え入りまでじっと聴いていると、新しい次元を垣間見るような気持ちがする時があります。一曲を弾き終えると長旅から帰宅したような安堵感と達成感を覚えるときもあります。旅も同じく。どんなに短い旅でも、旅の前と後の自分は五感や世界観が変わっています。
11月19日から四泊五日でミズーリ州に行ってきました。理由は二つ。11月18日の私の誕生祝いと、野の君の研究チームがゴードン・ベル賞ファイナリストに選ばれたので、セント・ルイスで開かれたSC(Supercomputing Conference: 高性能計算機)学会での授賞式に参加をするためです。
St. Louisでレンタカーをピックアップしてまずホテルに向かいます。私は20代にアメリカ中を演奏旅行し、毎晩違う安ホテルを転々としましたが、ここまで場末感の漂うホテルは生まれて初めてです。カーペットやソファが擦り切れている。エレヴェーターのボタンが取れているて、キーキーと音を立てて遅い。 …これはこれで凄い体験。野の君と二人で多いに楽しみます。研究費削減で、今回は予算を切り詰めてで旅行を計画したのですが、でもこんなホテルがアメリカにあったとは…そして学会会場の近くのインド料理屋で野の君の研究チームとのお夕飯の為に車を転がすと、打ち捨てられたビルや空き家がそこら中にお化け屋敷状態…えええ??St. Louisってこんなところだったの?St. Louis交響楽団は色々な賞を取るアメリカでも評判が高いオケなので、それだけで私は何となくSt. Louisのイメージが良かったのですが。でも、インド料理屋さんは本格的。いかにも移民の家族が頑張ってやっている感。そして野の君の同僚がみんな私にハッピーバースデーと言ってくれます。嬉しい。
翌日は学会の見学です。私は全くの専門外ですが、非常に興味深かったことをいくつか箇条書きします。
- 今年のSCの参加登録者は約1万7千人弱。去年の史上最高の1万8千人強をやや下回るけれども、出展数は過去最多新記録の559。自然科学などの学会が参加者の激減や予算削減などで縮小をしているのに比べ、この分野は企業投資が多いこともあり、勢いづいている。
- 白人が多い。特に白人男性。ドイツ語やフランス語やイギリス訛りの英語が聴こえる。東アジア人が次に多い:中国語・日本語・韓国語。
- 日本からの出展がものすごく多い!三菱などの企業はかなり大きなスペース。大学や研究機関も東大・理研・東北大学・JAXAなど。頑張れ、ニッポン!ユーロよりも多いのでは。
- 最近はこういう学会で出展者が配るグッズは激減しているのに対し、この学会ではエコバッグやボールペン(高価で名前やロゴのデザイン入り)やTシャツやキャンディやら、やたらと無料のお土産を配っている。いかにもPR予算がある感じ。
- Art of HPC (High Performance Computing)という特別催し物があって私はそれをとても楽しみにしていたのだけれど、ちょっと悲しい。展示物を作った人たちの渾身の作品が、適当に壁紙の様にただ置かれているだけ。立ち止まる人も少ない。私は最新科学を一般社会に浸透させるための通訳というか橋渡しに、視覚芸術や音楽や物語というのは必須だと思っているけれど、この展示の担当の人は明らかにそこを軽視している。
- 特に企業のプレゼンターは金髪の美人系の中年女性か、白人男性が多い。これは現アメリカ政権の嗜好を反映しているのか?
- かなりの割合で出展者がN大抵の企業や商品がNvidiaかGoogleとの共同研究をアピールしている。丁度Nvidiaの過去最高決算が大きなニュースになっていたこともあり、印象深かった。
授賞式が終わってから野の君と車を転がすこと2時間半。途中で食料品を買い込みます。向かった先はマーク・トウェイン国立森林。二泊三日のグランピング。グランピングとは、「グラマラス(魅力的)」と「キャンピング(キャンプ)」を組み合わせた造語で、テント設営や食材準備といった手間を省き、ホテル並みの快適な設備とサービスを楽しみながら、自然を体験できる新しいキャンプスタイル。



雨の天気予報が心配の上、道中は霧の中、舗装が無くなって砂利道を不安な気持ちで運転。到着したら案の定の雨、だったのですが…
テントの中を雨が優しく叩く音を聴きながら二人で何年ぶりかという深い熟睡。9時間後に物凄くすっきりと目覚めました。なんという平安。人口の光がない。WiFiは歩いて5分ほどのトイレと洗面所とシャワーがあるところに行かないとない。頭の中の忙しさがすうっと消えて無くなっていき、知らないうちに習性になっていた肩の力が抜けていきます。本当にリラックス。これはすごい!
翌日は天気予報が外れて雨がやみ、朝から二人でわしわしとそこら中を探検しました。途中からまさかの晴天にも恵まれ、歩いた距離は24キロ!歩数にして約3万歩!


お腹ペコペコで帰ってきて、備え付けのホットプレートとマイクロウェーブで工夫して作るお食事が美味!空腹は本当に最高のスパイスです!そして日が落ちたらキャンプファイヤー。シャンペンを呑みました。普段はアルコールは苦手なのですが、何だかとっても美味しく感じました。

翌日は朝ごはんと荷造りを終えて、出発です。1時間半ほど運転。黒い肉牛が草を食む広大な牧場が広がる。時々馬やロバもいる。道路に交通事故に遭った小動物や鹿の死体がかなりの頻度で観られる。お隣に行くのにも車が必要。「プレハブが多いねえ」「建てるお金がないというより、ここまで来る建築会社が少ないんじゃない?」話しながら進むと、「GUNS」と大きな看板で掲げる銃専門店や、トランプのサインが見える。ミズーリ州は2024年の大統領選では58.49%がトランプに投票している。ここまで田舎になると、同調圧力に抗うのは命がけになるのは、想像に難くない。
メラメック洞窟に来る。98%が白人の地域。でも鍾乳洞を観に来ている観光客はインド人一家・スペイン語を喋る…南アメリカ出身(かな?)一家、我々東洋人カップルなど多様。ガイドのティムさんは白人優勢主義者なんだろうか?でも、毎日こうして世界中から集まる多様なお客さんと接していても人種差別観というのは保てるものだろうか?私の質問に笑顔で答えてくれる。壮大な自然を目前にしたら、肌の色や喋る言葉や文化や政治的立ち位置の違いなんてちっぽけなもの…と思いたいけれど、どうなのだろう。

今回の旅も、忘れがたいもになりました。感謝。


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