演奏道中記カリブ海編:10.26

朝7時起床。快眠からの快感な目覚め。王様の様なフカフカベッドで柔らかすぎるかと思ったが、気持ちよかった。ゆっくりストレッチ、ヨーガ、逆立ち、瞑想、入浴。精神統一。外は曇りだが、心は段々晴れてくる。

10時。佐々木麻衣子さんと幸せなブランチ。音楽とは?自分らが妥協してはいけない物とは?音楽でお金を稼ぐという事はどういう事か?二人でお互いを勇気づける。

12時。リハーサル開始。段々分かって来た。曲想は単純。兎に角これでもかと言うほどに、音楽の表現を超マックスに大真面目に大げさにする。テンポを揺らす。クライマックスに向けて笑うしかないほど巻く。和声進行によっては便秘かと思うほどタメル。チェロはいつも遅め。バイオリンはいつも速め。そしてピアノはひたすらつける。バンドリーダーの毒舌が今日は下火。それでも時々ヴァイオリンを弾く手を停め、腕を組んで蛇の様な薄目で私が自分のパートを弾く手をじっと観察して、鼻を鳴らしたりする。そのプレッシャーも修行と思う。「あなた、演奏しながら笑える?無理よね。良いわ。ピアニストの背中をお客さんに向けて、手だけを見てもらうようにしましょう。あなたには無理よ。」と言われる。(顔芸なしで良ければ、その方が楽かもしれない)と思う。が、乗り掛かった舟。マキコは弾きながら意味なくニカニカ笑えるか。そしてそれをお客は喜ぶのか。興味深い。やってやろうじゃないの!

バンドリーダーの罵詈雑言が圧倒するリハーサルで、チェリストと私の関係が微妙になる。私は今週一週間のピアニスト代役ピアニスト。今のチェリストは少なくともコロナ禍ずっとこのトリオで弾いてきたレギュラー。たまに火の粉が私ではなくチェリストに向けられると、ホッとしてしまう自分を発見。そして火の粉が自分にかかり始めると、それまでは時々私をかばってくれたチェリストが「私たちの普段のテンポとは違う」などと、私にクレームをつけてくる。これは独裁者や虐待的なボスの下で起こりやすい人間関係のひずみ。過去に経験や心理学や社会学の知識で、今は客観的に理解できる。空恐ろしい。

でもそんな中、昨日は終わらないかと思ったリハーサルが今日は2時間半ですんなり終わった。”Not bad”は褒め言葉と思おう。

3時半。空港に向けて出発。コロナ以降初めて見るガラガラの空港。チェックインもセキュリティーもこれ以上あり得ないほどスムーズ。3人で、バンドリーダーのクーポンを利用してすごく美味しいエビのタコスを食べる。ちょっと和気あいあい。バンドリーダーがやたらと褒めてくる。飛行機の便名とかを言ったりすると「あなた、凄い記憶ね!あなたって出来る女なのね。」…でもリハーサル中「この前のリハーサルでも同じことを言ったのだけれど、一体どうなってるの?」と言われた後なので、皮肉として聞かないように努力を要する。

6時半。飛行機ではなぜかアップグレード。幸先が良い。バンドリーダーの隣の席で気づまりかと思ったが、お互いのスペースを気持ちよく尊重し合って、読書と執筆が捗る。

10時半。マイアミに着陸。ホテルに着いたら11時を回っている。そしてホテルの予約が見つからず、ロビーで待機する事1時間。実は旅行会社の手違いか、ホテル側の落ち度かがはっきりしないのだが、そこはお構いなしに、バンドリーダーが口から火を噴く勢いでホテルのカウンターで文句を言い続ける。「アンビリバボー!無能を絵に描いたようね!私は普段はツアーの旅程は全て自分で組むの。飛行機もホテルも予約して、旅行して、演奏する。私が本業じゃなくてもできる簡単な作業をただ確認してプロセスする仕事が、あなたはどうしてできないの?」バンドリーダーは、世界全体に対して怒っている。しかし、ホテルに怒りが向けられている時は、私とチェリストはバンドリーダーの庇護下と見られ、やたらと気遣ってくる。

明日はバルベードス行き。朝8時に空港に向けて出発。楽しみにしていた今晩の4つ星ホテルは、わずか9時間の滞在。そして交渉終了して、やっと部屋に入ってからはわずか8時間。うううう...

今晩の四つ星ホテル。ロビーで一時間半待ったので、明日は朝食ビュッフェが無料!

1 thought on “演奏道中記カリブ海編:10.26”

  1. お疲れ様です。

    旅の夜風と思いきや、豪勢なホテルで安心しました。
    ソリストが集まれば、バトルロワイヤル。
    筋書きのない演奏旅行が七変化の端緒となりますように。

    小川久男

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