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  • 書評:世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?

    山口周著「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか?—経営における『アート』と『サイエンス』」(2017) 光文社出版。 私自身が、音楽を使ったチームビルディングやリーダーシップのワークショップをデザインする段階で市場調査を行っています。その時から確かに、近年、企業がアートやアーティストに指針を求めている、と言うことは感じていました。この本が増刷を重ね(2019年一月の段階で16刷目)、数々の賞(HRアワード2018最優秀賞、ビジネス書大賞2018準大賞、など)を受賞していると言う現象そのものも、興味深い。これは私が打ち出した企業向け音楽ワークショップに対する反響にも反映されていると思います。 なぜ、今、経営にアートや美学が求められるのか?この本は80パーセントをこの問いの解析に費やし、残りの20パーセントで、ではエリートはどのように美意識を鍛えられるのか、と言う提言や例を挙げています。 まず、本書のタイトルにあるキーワードを著者がどのように定義しているか、まとめていきましょう。 『エリート』とは、大きな権力を持ち、他者の人生を左右する影響力を持っている人たち(P. 143)です。システムに最適化しているので、様々な便益を与えてくれているシステムを、その便益にかどわかされずに相対化して批判し、修正する力を持っています(P. 183-4)。しかし、達成動機(P. 140)が高いので、生産性や収益などの数字のみを追っていると、コンプライアンス違反などの犯罪のリスクがあります。『美意識』はエリートを犯罪から守り、さらにその影響力を有効活用して、理想的な社会への実現を向けて現状の改善を促す力があります(P. 237)。 『エリート』の影響力を企業などのシステム、さらに社会改善のために役立てるーこの大きな理想を実現するために必要となるのが「人生を評価する自分なりのモノサシ(P. 143) 」、『美意識』です。 本書で著者は「真・善・美」と言うフレーズをよく『美意識』の同義語として用いています。スタイル・エスプリ・教養とも呼べる、要するに「目の前でまかり通っている評価や判断基準を『相対化できる知性』」です。(P. 150-151) そして脳神経学者、アントニオ・ダマシオ博士の「ソマティック・マーカー仮説」を参照し、高度の意思決定の能力は、直観的・感性的なものであり、絵画や音楽を「美しいと感じる」のと同じようなものだ、とします。 副題にある、経営における『アート』と『サイエンス』とは何でしょう? 経営学者ヘンリー・ミンツバークによると、理想的な経営は『アート』と『サイエンス』と『クラフト』のバランスによって達成されます(P.52)。 『サイエンス』は「分析」「論理」「理性」などと言った「言葉にできるもの」です。(P. 14) MBAで学ぶのが『サイエンス』です。 『サイエンス』には3つ問題があります。最大の問題は、サイエンスだけに頼る経営は、人間味に欠けることです。次に、客観的な数字は誰が見ても同じです。MBAの増加で、同じデータ解析の技術が蔓延し、「正解」の希少価値が無くなります。極論で言えば、人工知能に情報解析を任せればよい、と言うことになります。同じ市場・現状を競争企業が一斉に同じ方法でサイエンスすると、どんぐりの背比べになり、コンプライアンス違反しか競争を勝ち抜く方法が無くなってしまう。さらに、現在はVUCA(Volatile, Uncertain, Complex, Ambiguous)で、不透明度の高い時代です。(P. 108-109) VUCAの時代の厳密な因果関係の整理は、要素の変化が絶え間ない世界では無意味なのです。(P. 110) 『クラフト』は「経験」や「伝統」で培われたノーハウです。ここでもVUCAが問題になります。イノベーションを受け入れにくいのです。(P. 53-54) 『アート』は 組織の創造性を後押しし、社会の展望を直観し、ステークホルダーをワクワクさせるようなヴィジョンを生み出します(P. 53) 。 しかし、『アート』にはアカウンタビリティがありません。説明がつかないことが多いのです。サイエンスやクラフトと議論をすると負けてしまいます。さらに、『アート』だけの経営はナルシシズム、「アートのためのアート」に走る危険性があります。そういう弱点のために今まで軽視されがちだったアート。それが現在見直されるべき理由は、アートは「熱いロマン(P. 61)」であり、「ワクワク」だからです。今日、世界中の市場が「自己実現的消費」に向かい、消費と言う行為が自己表現とみなされる中、ブランドに求められるのは、ストーリー性でありファッション(P. 100)、つまり『アート』の要素なのです。東芝はノートパソコンを世界で最初に開発した会社(P. 120)です。しかし、ノートパソコンのデザインと機能はパクられて市場は乗っ取られてしまいました。素晴らしいイノベーションこそ、すぐにリヴァースエンジニアリングでコピーされてしまいます。他者にコピーできないのが、世界観とストーリー性です。アップルが売っているのはイノベーションではなく、世界観とストーリー性、そしてアップル商品の消費者が誇れるイメージとファッションである、と言うのが著者の主張です。(P. 118) 戦後の日本企業では『サイエンス』と『クラフト』が重視され、『アート』は軽視・無視される傾向が強まって来ていました。それでもやって来れたのは戦後から90年代まで、日本は欧米のお尻をまっしぐらに追いかけていればよかったからです。「ヴィジョン」は無くても、「もっと安く、もっと早く」でぐんぐん成長して来ました(P. 90-91)。しかし今、そしてこれから、日本企業は何を指針に進化していけば良いのでしょうか?  この本で提示されているのは、ミンツバーク博士の『アート』が主導し、『サイエンス』と『クラフト』が脇を固める、と言う構図です。(P. 65) Planをアート型人材が描き、Doをクラフト型人材が行い、Checkをサイエンス型人材が行う、と言うモデル(P. 66) 。その為にエリートに『美意識」が必要になる。ブランドイメージやプロダクトデザインを、本物のアーティストに発注するとしても、社運を賭けるアーティストを誰にするのか決めるだけの『美意識』が無くてはいけません。 さて、ここまでは私は著者の論点や、挙げられている例の豊富さ、そしてまとめ方の説得力に小気味よさを感じながら読んでいました。しかし、最終章「どう美意識を鍛えるか」と言う所で、疑問を感じてしまったのです。下心を持って哲学を学んだり、絵画鑑賞をしたり、文学に触れたりして、本当に『美意識』は培えるのか?著者が挙げる「美意識を鍛える手段」の中に音楽を含む舞台芸術が全く無かったから不信感が芽生えたのでは、と言われれば、正直そう言う所もあるかも知れませんが、それだけではありません。 まず、『美意識』は説明ができないもの、サイエンス型人材やクラフト型人材、そして『エリート』ではない凡人には分かり得ないもの、としてしまうと、『美意識』を持ったとされる人の独裁を許容してしまう恐れがある。『美意識』を培うものが特権階級にしかアクセスが無い教育(オックスフォードやケンブリッジなどの教育が挙げられています)や、教養だ、としてしまうと、なおさらです。いくらCheckをサイエンス型人材にやらせても、サイエンスを解釈するのが人間である以上、データを独裁美意識に有利に使う危険性は多いにあると思います。 私は、本物の『真・善・美』や『熱いロマン』や『ワクワク』、つまり著者が言う所の『美意識』は、伝染する、ものだと思っています。それこそダマシオ博士が打ち出す「ソマティック・マーカー」で、教育レヴェルや立場に関係なく、お腹に共鳴するものです。伝染が部署関係なく全ての社員に蔓延して、株主や消費者にも感染する時、その会社のサービスやプロダクトやイメージはいろいろな意味で成功しているのだ、と思います。成功と言うのは儲けだけでない、実感できる意義、幸福感、誇り、などです。そして、それがそのまま『美意識』、ストーリーと世界観では無いでしょうか? そもそも「絶対的な美」と言うのが在りえない以上、一部エリートが持つ「より優れた美的感覚」と言うのは無いのでしょうか?『美意識』と言うのは『蔓延力』、共感を促す力、集団意識へのアクセスではないでしょうか? もう一つこの本に問題を感じるところは「欧米に比べて日本は(日本企業は)劣っている・改革が必要である。」と言う論調です。日本の文化や国民性や現状を論じる時、ルース・ベネディクトの「菊と刀」(1946)を始め、主に欧米人の評価を持って語っています。「偏差値は高いが美意識は低い」と言う論点を強調するために引き合いに出されるオウム真理教に関しては宮内勝典氏の「善悪の彼岸」を参照されていますが、これだって(なぜ日本考察の例がオウム?)と言う感じです。さらに、「日本人は空気に流されやすい。過去の過ちに対する過剰反応が日本企業をサイエンス過多の経営に走らせる」と言う時に引き合いに出されるのは終戦直前の戦艦大和です(P.94-98)。 本当に日本は欧米に劣り、改革が必要なのでしょうか?日本はその非常にユニークな歴史・条件・国民性のため、欧米がお手本にならない、と言うことはあり得るでしょうか?私は歴史上、様々な困難に打ち勝って豊かな文化と歴史を築き上げた日本人について学ぶ度に、その創意工夫や、根強さ、そしてこだわりと言ったものに、触発されます。日本の企業経営やCEOは、確かにグローバル化を目指す中で、他国に学ばなければいけない点はあるでしょう。しかし、論点として、「日本は間違っている、あるいは劣っている」ので改革を目指せと主張するのと「日本のこんな良い点をこういう風に開発・進化させれば、日本のすばらしさはもっとグローバルに広がる」と言う風に主張を展開するのでは、後者の方がより効果的だと思います。(マツダや、無印良品、ユニクロなども、成功例として出てきます。が、GoogleやAppleなどの欧米社と比べて、扱いやページ数が違うのです。) 『美意識』に必要なのは、教養よりも、自信と誇りだと、私は音楽家としての経験を持って言います。もちろん、この自信と誇りは知識と経験に基づいていますが、いくら知識と経験を積んでも、自信と誇りが無ければ『美意識』は打ち出せません。そして残念ながら、日本には自信と誇りの邪魔をするコンプレックスがあります。このコンプレックスには、白人優勢の世界の中で有色人種だと言う事実、さらに極貧の農作国家であった歴史、そして黒船や敗戦のトラウマ、その上ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラムの後遺症、など、色々な要因があると思います。日本企業が「サイエンス」と「クラフト」に肩入れしてしまうのは、「美意識」をないがしろにしているからではなく、「美意識」をはっきりと打ち出す自信と誇りを抑圧させる背景があるからではないでしょうか。ここを直視しないで、『美意識』が無いのでルノワールやカラバッジオを鑑賞しろ、プラトンやドストエフスキーを読め、と言われても...「はい、そうですか」と従う人はほとんどいないと思いますし、(なぜヨーロッパの絵画?)(なぜギリシャ哲学?)(なぜロシア文学?)となります。日本人のコンプレックスにさらに追い打ちをかけているだけではありませんか?「日本はフランスと並んで、おそらく世界最高水準の競争力(美意識)を持っている(P.112)」と、山口さん、書いてるじゃない?(最初のチーフ・クリエイティブ・オフィサーとして千利休を挙げられています(P. 72~)し、美意識を鍛えるために詩を読む、と言う所には谷川俊太郎さんの「朝のリレー」が出てきます(P. 244)。が、例外的です。) この本で、私は沢山のアイディアや視点に開眼しました。この本を丸ごと批判するつもりはありません。が、美意識を鍛えるためのあるシステムを提示されたので、著者が警告を発している「システムを無批判に受け入れる」と言う悪を冒さぬため、日本人としての誇りを高く持つ在米30年目の日本人、そして一人のアーティストとして、最後に評論いたしました。

  • 音楽の効用を職場で活用!音楽ワークショップの提案。

    (この記事の英訳はこちらでお読みいただけます。) 音楽を使ったワークショップでより生産的な環境づくりと人間関係を!期待できる成果は以下です。 共通のゴールに向けたグループ内での積極的な協力体制と連帯感。 コミュニケーションに於ける聴覚の重要性への認識。 言葉や文化の壁を越えた意思疎通をする方法の取得。 自分の個性に在ったリーダーシップスタイルの考察。 これまでの参加者の声はこちらでお読みいただけます。 音楽には血圧を下げ、呼吸や心拍と言った自立神経機能を整え、ストレス軽減の効果が在るとの研究結果が出ています。音楽活動は言語能力の向上し、思考を柔軟化します。また音楽に合わせて一緒に体を動かしたり、声を合わせて歌うことで得られる一体感は、「愛情ホルモン」「幸せホルモン」と言った俗称で知られるオキシトシンの分泌を促し、仲間との結束を強めます。 これは音楽博士号を持つ国際的ピアニスト、平田真希子が提供する音楽ワークショップです。1.「聞く→聴く」、2.「音楽体感→体験」、3.「チームで作曲」と、段階を踏まえて打ち解けながら、表現力の幅を広げ、チームの結束を強めます。 1.「聞く→聴く」 音を無意識に処理する状態の「聞く」から、積極的に音を解釈する「聴く」に意識を向けて頂きます。ご自身の知覚の変化を意識し、自分自身の発信する表現の多様化を考え、コミュニケーションスキルズ向上への意欲を燃やしていただくことからこのワークショップは始まります。 2.音楽:「体感→体験」 リズム:音楽の拍は人間の心拍や歩行が基本になっています。音楽に合わせた手拍子から始め、足踏みに進み、最後はダンス!? チームとの結束感を高めるための音楽の利用法をご紹介します。 メロディー:メロディーと言うのはごく自然な人間の自己表現欲を体系化したものではないでしょうか?メロディーを考察することで、ご自身が会話・プレゼン・スピーチで使う声の抑揚を見直していただきます。言葉ではなく、声の調子を意識することで何を発見していただけるでしょうか。意思伝達の発信と受信をより効果的に! ハーモニー:協和音では音波がお互い助長し合い、不協和音ではぶつかり合います。一見、協和音が「良く」不協和音が「悪い」ように見えますが、音楽には両方必要です。不協和音を解決して協和音にしようとする方向性が音楽を活性化するのです。声を合わせて「ハモって」頂き、「愛情ホルモン」を分泌し一体感を楽しんでいただきながら、不協和音や意見の相違を、チームやプロジェクトをより強く突き動かす「刺激」「動力」として考察していただきます。 指揮:多数の人に同時に手を打っていただく、あるいは発声していただく合図を出すとき、必要なのは正しい姿勢・目線・明確な意思伝達と目的意識...全てリーダーシップに必要な要素です。一人ずつ指揮を体験していただき、観察や意見交換を通じて、より効果的なリーダーシップ、またプロジェクト成功に最適なリーダーとチームメンバーの関係性などを考察します。 3.作曲 2で踏まえていただいた音楽の3大要素(リズム・メロディー・ハーモニー)を応用して、4~5人のチームに分かれて共同で作曲していただきます。3秒ほどの「サウンド・ロゴ」です。プロジェクトや、チーム、あるいは会社の理念やゴールを音楽に反映していただく共同製作です。 ワークショップの詳細は以下です。 所要時間:2時間~4時間 対応人数:15人~25人ほど。それ以上の場合はアシスタントを起用させていただきます。 スペース:参加者全員がそれぞれ両腕を広げて動き回れる空間が取れるだけのオープンスペース。 対象年齢:高校生以上 対象例: アメリカに進出を目指す日本のプロジェクトチーム:言葉や文化の壁を越えた表現力! 国際化を目指す企業の人事部。 よりスムーズなコミュニケーションや充実したチームワークを求めるグループ。 必要器具・機材: パワーポイントをご紹介できるスクリーン。 録音した音がご紹介できるサウンドシステム。 作曲の際に各チームが使うサウンドサンプル付きの電子ピアノ(4~5人に一台)と、電子ピアノにつないでサウンドプロセスができるコンピューター(4~5人に一台)。(ご相談承ります。) 人数分の椅子と机。 ワークショップにご興味がおありの方はmusicalmakiko@gmail.comまでご連絡ください。