私はどちらかと言うと頭でっかちの耳年間として、生意気な子供だったと思います。そんな私の周りに今度は「失恋をしろ」「尼寺に行け」「苦労をしろ」という大人が多数現れました。そうすればより良い音楽家になれるというのです。私は13歳で英語も分からず渡米をし、右も左も分からないまま月曜から金曜日までアメリカで英語の高校生活、そして土曜日は朝9時から夜6時までお昼休みもないスケジュールでジュリアードで大学レヴェルのクラス、と今から思えば尼寺なみの苦労はしていたと思うのですが…この人たちに言わせると、音楽家というのは死ぬほどつらい体験をしなくてはいけない、狂うほどの苦しみを味わわなくてはいけない、というのです。そして実際に自殺した作曲家や精神病院に入った音楽家の話を英雄の様にするのです。
「こういう異変と言うのは色々見直すきっかけなんだよ。自分にとってかけがえのない物はなんなのか。こんな時金持ちはやっと気が付くんだ。お金なんて持っていてもいざって時には何の役にも立たないってね。」黒人のおじさんの体中から共鳴して私に届く、その朗らかな声を聞きながら、この人はどういう人生を送ってきて、どうして退役軍人の寄付金を募る役回りになって、そしてどうして今私にこういうメッセージを届ける巡り合わせになったんだろう…とぼんやりと考える。この人も戦争経験のある退役軍人さんなんだろうか?この人はどんな苦労をしたんだろう?でも今は、なんだか私にとっての天使みたい。