• ヒューストンに戻る日まであと二週間無い。 先週末録音を終えたゴールドベルグのアルバムの編集作業、 そしてCDの表や裏のデザイン、中の文章を書くなどの作業をする傍ら、 残り少ない夏休みを今だから出来ること、学校が始まったら出来ないことをやろうとしている。 今日は、とても美しい気候だった。 秋晴れ、と言いたい様な気もち良いカラリと晴れ上がった日。 どんなに忙しくても絶対散歩に行く!と決めていた。 そして明日はいよいよ録音編集のセッションのためにNYCに行く。 その後、昼食を録音技師とイタリア街でイタリア料理を、 そして夕飯をピアノ仲間と私の世界で一番好きなおすし屋さんで食べる。 今年は本当に楽しい夏休みを過ごすことが出来た。

  • ロサンジェルスの日本語テレビ放送チャンネルNTB(Newfield Television Broadcasting)で 私が担当させて頂いている隔週放送のミニシリーズ、「ピアノの時間」エピソード#14が 先週末に放送されました。 今回のテーマは「歴史的に正確な演奏」。 作曲家が意図した物を尊重し、それを復元することに集中するのか、 それとも作曲家が曲を通じて伝えたかったメッセージを重要視し、 歴史と共に変化する美的感覚を念頭に現代の聴衆のために現代風の演奏をするべきなのか、 と言うクラシック演奏家のジレンマについてお話しました。 曲はバッハのゴールドベルグ変奏曲から変奏曲7番を弾きました。 下のURLの10分58秒のところから15分25秒のところまでが「ピアノの時間」です。 ご覧になってみてください。 http://www.soto-ntb.com/program/2011-8-7/

  • 昨日のブログには、あのあと録音するはずだったし、自分にハッパをかけるつもりで前向きな書き方をしたが、実は録音セッションその一は中々困難な物だった。慣れ親しんだはずのスタジオ、スタインウェイのフルコン、そして長年の今では友達の録音技師なのだが、ピアノは最後の録音からずいぶん音色もタッチも変わっており、マイクのポジションも新しい ―スピーカーから聞こえてくるプレイバックの音も予想よりもずいぶん、はっきりとしており、それが硬くも聞こえる。正直、戸惑った。一瞬プロジェクト全体への疑惑に頭がいっぱいになってしまった。 でも、深呼吸をして対応策を練る。 ピアノは最後の録音(「ハンマークラヴィア」のCD)以来、ずいぶん弾きこまれているようだ。鍵盤が軽くなった感じがする。ハンマーが薄く、硬くなっている感じがする。それなら軽いタッチで、優しく、可愛系の着眼から弾いて見よう。「ドイツ」を意識してしっかり弾くのではなく、ゴールドベルグはフランス舞曲に多くの変奏曲が着想を得ていることにより注目し、「おろす」「つかまえる」「重み」と言うのを「浮かせる」「遊ばせる」「軽さ」と変えて見よう。ピアノと格闘するのではなく、ピアノと遊ぼう。 そして昨日のセッションは自分で言うのも何だが、とても上手く行ったと思う。これからプレイバックを聞く作業をするので、まだはっきりとはなんとも言えないが、少なくとも手ごたえははっきりと在った。セッションが終わってホッとした開放感で、世界中の今までお世話になった人みんなにお礼を言いたいような高揚感!道ですれ違う人に全てにこやかに挨拶した。(そしたらなんと珍しいことにナンパされてしまった。そしてそれも嬉しかった―蛇足) とりあえず、ご報告。ありがとうございます!

  • 金曜日に約2時間ゴールドベルグを録音した。 土曜日(昨日)は4時間かけて、その録音した物を聞き返し、 今日のセッションに向けての反省、さらに取り直したい部分のリストアップをした。 今日は3時間のセッション。ペース配分が重要である。 栄養補給を朝のうちにしっかり行い、軽食をスタジオに持っていく。 常に十二分な水分補給を行う。 録音している時と言うのは、生演奏の時の意識とかけ離れやすい。 効率良いセッションにするために、間違えた音、やり直したい部分をメンタル・チェックしながら弾いてしまい、 音楽に入り込みづらくなってしまう。 しかし幸い、金曜のセッションで一応のバックアップはほとんど出来ているはず。 カヴァーしなければいけない最低限は一応リストアップしたので、 そこの所は一番最初にこなしてしまい、 後は自由に、自分の音楽に専念して見よう。 「私がゴールドベルグの何をなぜこんなに好きなのか聞いてください!」と言う気持ちを大切に 楽しい、と言う気持ちを重視してリラックスして弾こう。 何度も録音しているスタジオの、もう10数年来の友達の録音技師との仕事だけれど、 スタジオのスタインウェイは最後にハンマークラヴィアを録音してからずいぶん変わった。 鍵盤が軽くなり、高音、特にアリアの最初のメロディー部分の音域が薄くなっている。 あまりがちがち弾くと、きつい音になってしまうので、 優しく、優しく、子供に言い含める様に、 軽いタッチで愛らしさ、軽快さ、ホンワカさ、陰り、そういったメルヘンチックな音色を大半に使おう。 この前はあまりに鍵盤のそこまでがちがち弾きすぎてしまった。 がんばって正確に弾こうという意識が鍵盤の底にこだわらせたのだと思うが、 疲労が早く出てしまった。 この頃は睡眠もばっちりとっているし、栄養も十分だし、健康管理にも気を配っている。 今日は、楽しくがんばるぞ!

  • 明日初日を迎えるゴールドベルグの録音を前に、今週の月曜日、友達の家で最後の通し稽古をした。 「月曜日の夜に友達のピアニストがゴールドベルグの通し稽古をするけれど、聞きたい人!」 と夜の11時にメールを打ったところ、次の朝の8時までに13人から出席の希望があったとの事 さらに、出席希望者の数はどんどん増えて、最終的に月曜日には25人ほどの人が集まってくれた。 私の友達でこの会を快く開いてくれた歌手のマルチェラは、華やかな軽食と飲み物を用意してくれていて、 会はさらに盛り上がった。 熱気溢れる会場で、ハドソン川に落ちる夕日を背景に始まったゴールドベルグは 終わるころには外は夜景で、その間1時間10分、会場はピーンと緊張した注目が続き、 弾き終わったら、長い、長い、私が照れてどうしていいか分からなくなってしまうほどの拍手が続いた。 演奏後の質問討議もこれまた充実した熱気を帯びた物で、私はそれだけで天国に上る気持ちだったのだが、 ボーナスは次の日の朝。 演奏後、片付けと積もる話のためにマルチェラの家に一晩と待った私は 翌朝、近くの公園までマルチェラと散歩に行った。 そしたらたまたま出勤途中の、昨晩の会に出席してくれたマルチェラのお友達と出くわした。 「ああ、今もあなたの演奏の事を考えていたのだけれど」 と、そのお友達はせきを切ったように、質問の数々を口にし始めたのだ! お世辞じゃなく、本当にゴールドベルグの事で今の今まで頭が一杯だったんだなあ、と言う勢いだった。 私は本当に嬉しくなってしまった。 私の演奏がどうの、というよりこれはやはりゴールドベルグパワーだと思う。 これからこの曲をCD録音する私がこんなことを言うのも変だけれども、 この曲は録音を聞くのと、生で聞くのとでは雲泥の差が出る曲なんだと思う。 録音で聞くのは、それはそれで価値があると思う。 聞き手が個人的に曲に入り込みやすくなるし、色々な音量で聞くのも醍醐味だと思う。 でも、生で、鍵盤奏者が汗しながら、息を曲に合わせてするのを感じながら聞くと、 この曲は本当に聞き手と弾き手の一体感を促す曲なのだと思う。 この曲は、CDを録音してからも、一年に一回ぐらいライブで一生弾いていきたい。 この曲は本当に人間賛歌、音楽賛歌、そして「生きてて、ピアノ弾いてて良かった」賛歌なのだ。