音楽人生

来夏の演目、ご希望はありますか?

2020年の夏の来日は、私の日本での演奏活動20周年目になります。本当に沢山の方々に支えられて、ここまで来れました。 来年はまたベートーヴェン生誕250周年でもあります。それからアメリカに於ける女性参政権が執行された100周年記念でもあるんです。 演目の案は色々あるのです。 案その①「ベートーヴェン:『運命』に惑わされるな!」 ベートーヴェンと言うと難聴で何年も苦しんだ後晩年失聴した悲劇と戦いながら作曲を続けたヒーローと言うイメージが強いと思います。イメージの通りベートーヴェンの有名な曲には短調で悲しい・苦しいイメージの曲が多いです。例えば『運命』『エリーゼのために』『悲壮』『月光』『熱情』... 肖像画もいつもこんな感じです。 でも、実はベートーヴェンの作曲の多くは明るい美しさやユーモアにあふれているんです。単純計算でも例えば32あるベートーヴェンのピアノソナタの内23曲は長調なんです。 このユーモアに溢れたベートーヴェンに注目したプログラムはどうかしら?そしてベートーヴェンは啓蒙主義的な考え方で、当時の女性蔑視に抗うように女性の演奏家の意見を重視したりもしています。ユーモアに溢れた作品の中でも特に女性に献呈されたソナタを弾いて、歴史的な女性問題やベートーヴェンの啓蒙主義も検討する演目なんて、どうでしょう? 今、バ~っとベートーヴェンのソナタを読み通しています。楽しい! このプログラムにこだわらずとも、お客様たちは私に弾いてほしい曲ってあるのかしら?お伺いしてみたいところです。コメント・ご連絡、お待ちしています。

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ピアニストの朝

目覚めてから起き上がる前にまず色々考える。今日練習する曲の事。今日楽しみな事。昨日あったこと・交わした会話・美味しかったもの・感謝すること。そしていつもいつも、執筆の事は考えている。 起き上がる前にベッドの中でストレッチをする。上体を右に捻り、右ひざを曲げた状態で上体の左側に持ってくる。反対もやる。それから膝を回したり、自分の膝を赤ちゃんの様に抱えておでこに近づけたり、くねくねくねくね、布団の中でストレッチする。最近気温が低いので、布団の中がぬくくて、気持ちよい。 ベッドを去ったら、まず歯を磨いて、それからレモン水を作る。一個のレモンで1リットルほど作ってごくごく飲む。家の庭にはレモンがたわわになっていて、友人に配ってもまだ余って、どうしてよいか悩む。毎日一個は朝のレモン水で消費する。無農薬だし、皮の方が汁よりも栄養価が高い。と言うことで、レモン水を飲みながら、皮を刻んでお湯を注いでおく。 レモン水を飲んだら、運動着に着替えてジョギングに出かける。家から自分で何となく決めた2マイル(約3.21キロ)のコースは遠くにずっと山脈が見えていて、途中で公園やドッグパーク(犬と犬の飼い主専用。首輪を外して自由に走り回らせて良い砂場)があり、毎日変化に富んで面白い。山の色が毎日違う。くっきり青い山脈が見える時も、山頂が雲の帽子をかぶっている時も、なんだか木や草で緑色に見える時もある。公園もホームレスの人がジャングルジムのてっぺんで寝ていたり、ドッグパークの人が大げさに私に手を振ってくれたり、色々な事が在る。 帰ってきたら、体操をする。ストレッチやラジオ体操や、YouTubeと一緒にサーキットトレーニングなどをやる。その頃には汗だくになっている。どんなに寒い日でもちょっと動くだけで熱くなるなんて、身体ってすごい! 運動が終わったらシャワーを浴びずにはおられないくらい汗をかいている。シャワーを浴びたら、コーヒーを作って、ヨーグルト(フルーツと黒ゴマ黄な粉にそば粉やカカオやナッツを入れたもの)を食べる。最近洋梨が感動する美味しさ。汁が滴り、むさぼり食わないと汁がこぼれて勿体ない。熟した柿も脳を刺激する甘さ。どんなにグルメな食事も、熟れ熟れの果物には叶わないと思う。あまりの香りの高さ・美味さに、脳みそがぶっとんんで、我を忘れてしまう。食事が終わったらさっきお湯を注いでおいたレモンの皮のエキスを一日中お茶の様に飲む。レモンにはそれぞれ個性があって、レモン皮茶は爽やかでほとんど甘い時もあれば、苦い時もある。そういうのが一々、面白くて愉快。 レモン皮茶をすすり飲む頃には練習したくてうずうずしている。ゆっくりとウォームアップから始める。呼吸と姿勢が自然と整ってくる。全ての感覚に意識が澄み渡る。色々な事が自明となってくるような気がする。 最近、練習中に毎日思い出していることが在る。もう20年近く前の事だけれど、鮮明に思い出される。私はカウンセリングをかじったことがあって、その勉強会合宿での出来事だった。先生が生徒のカウンセリングを例として行うのを観察する、と言うフォーマットの時の事だ。生徒は少女の様に体が小さくてかわいらしい20代のソーシャルワーカーだった。彼女は、社会にも家族にも見捨てられた孤独な一人暮らしの老人の多さに困惑し、怒っていた。でも自分一人ではどうすることもできない。どんなに頑張っても追いつかないほどこういう老人が多い。彼女は泣き始めてしまった。カウンセラーはずっと聞いていたのだけれど、彼女がひとしきり泣き終わったところで、二人共立ち上がらせた。そして「それじゃあ、あなたはこれから私の体を思いっきり押してください」と言った。少女ソーシャルワーカーが「へ?」と言う顔になると「私を無関心な社会の体現だと思って、怒りを込めて私の体を腕で思いっきり押してみてください。」と言ったのだ。ソーシャルワーカーは「そうですか、それでは」と言う感じで、始めはしょうがなく、照れた感じで先生の肩を両腕で押し始めた。先生は体格の良い50代くらいの女性で、少女ソーシャルワーカーの2倍くらいの体重が在ったと思う。10秒くらい経った頃からソーシャルワーカーはだんだん気持ちが入って来て、顔を真っ赤にして「わ~~~~!!!」声を上げながら先生の体をぐいぐい押し始めた。先生がどんなに足を踏ん張っても踏ん張り切れない強さだった。先生が後ろに転がってしまうくらいソーシャルワーカーが押しまくるので、先生が「よし、よし、ちょっと方法を変えましょう。」と途中で止めた。「両腕で押すのはやめて、今度は右手の人差し指に怒りを全て込めて、私の左肩を指一本で押してください。」皆、ちょっと失笑と言うか(それで本当に発散できるかな~?)と言う雰囲気が漂った。でも少女ソーシャルワーカーはすぐさま人差し指で先生の左肩をグイ~と押し始めた。先生が「気持ちの全てを指に込めて!」と言ったら、ソーシャルワーカーは汗を一杯おでこに浮かべてと口を大きく『へ』の字にして、静かに涙をだらだら流し始めたのだ。今書いていて、私も涙が出てくる。 私も、最近毎日練習しながら、気持ちの全てをそれぞれの指先から鍵盤に伝えようと思って弾いている。言ってもどうしようも無いこと、他の人に分かってもらえない事、変えられない事が沢山ある。過去の傷。世界の不公平・不平等。皆、それぞれの立場で、やるせないことを沢山抱えて、生きている。何がどうやるせないかと言う物語の詳細ではなく、そのやるせなさにお互い共感することで、お互いを勇気づけ慰める—それが、音楽であり、文学だと思う。それが、人間性だ、と思う。

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タイムマシーンと世の移ろい。

2010年の秋から2017年の秋まで暮らしたヒューストンに帰って来ると、タイムマシーンに乗って時間を2017年まで逆流した様な気持ちがする。でも、確実に時間は経っている。 30分かけて私のヒューストン時代のお気に入りのレストランに行ってみた。(このお店のこれが食べたい)と言うのはいくつかあるのだけれど、地元の農家から材料を買い付けるLocal Foodsの蕎麦サラダはリストのトップに近い位置づけ。いつも長蛇の列ができるお店なので、お昼の時間を外して少し遅めに空腹を抱えて行ってみたら…が~ん…なんと、蕎麦サラダがメニューから消えている。そして2番目に好きだったキヌアのパティの菜食バーガーも無くなっている… 私は、私が居た時のままのヒューストンが在ると、どこかで思って帰って来る。でも勿論、私がいない間もヒューストンの時間は進行し、都市は発展し、レストランのメニューは変わる。ハリケーンHarveyの洪水の直後に引っ越していった私だけれど、帰ってきたら新しい建築物がにょきにょきと建って、古いお店が新しいお店に乗り替わっている。学校に行けば、建物は同じだけれど、学友は皆卒業していない。私自身が成長し、色々な発見を経て、音楽人生を歩んでいるように、皆それぞれの人生の物語の章から章へと歩み進んでいる。 その中で変わらないものもある。「Makiko!」と叫んで、ハグをしに走ってきてくれる友人がいる。座り込んで私に近況報告をしてくれる人がいる。私のピアノを聞きに、30分、1時間と、運転して来てくれる人達が居る。そして見た目が変わっても、ハグをすると、その人のにおいと声と気持ちと共有する思い出は同じ。 大事なものが明確になってくる。感謝。

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ワークショップの日。

10代・20代と犬養毅の孫、犬養道子の著書を愛読していた。戦後直後から欧米で暮らし、文化研究や執筆・出版、さらに難民救援などの国際的貢献などに精力的携わった彼女の生きざまに、在米日本人としての自分の望郷や野心と垣間見た。 特に「お嬢様放浪記」は薄い文庫本で携帯しやすかったこともあり、何度も読み返した。 特に印象に残っているエピソードの一つに、話し込んでいて夜が更けて泊まる事になった友人が「寝床は作らないでくれ」と犬養道子に頼んだエピソードがある。自分は国際的な人道活動を夢見ているので「いつでもどこでも、どんな劣悪な環境でも寝られる訓練」をしているので、と言ってさっさと床に寝転んで寝付いてしまった友人のエピソード。(かっこいい!自分もこういう風になろう)と思った。お蔭でどこでも良く眠れる。 昨日の宿はシアトル郊外のAirbnb。居間と洗面所とベッドルームが、家主の住む家の半地下にある。独立したユニットになって贅沢な間取りなのだが、天上が低く、窓が少なく、薄暗い。インテリアはそれなりにこだわりが見られ、ベッドの脇にはチョコレート、コーヒー、ナッツとドライフルーツなどサービス精神も旺盛なのだが、(何となく元気の出にくいスペースだな)と思ってしまうのは、6週間ぶっ続けの旅疲れ?犬養道子の友人を目指す自分としては恥ずかしいのだが、疲労にも関わらず何となくグダグダ夜更かししてしまい、その割に予定より早く、6時半に目が覚めてしまう。 朝日を浴びて体を動かし元気を出すべく、ジョギングに出かける。シアトルは起伏が激しいのだがその分、坂を上ると遠くの湖や山が一望でき、気持ちが良い。すがすがしい快晴。涼風が気持ち良い。 7時半にAirbnbに戻り、シャワーと朝食と荷造りを済ませて8時15分に出発。9時からは、私のワークショップにご参加くださる8人の後ろで、マーケティングのセミナーを聴講する。参加者の積極性や雰囲気などを予習させて頂くのが第一目的だけれど、アメリカのマーケティングのルーツが聖書を売るセールスマンであり、アメリカに於ける宗教観とマーケティングの根強い関係や、選挙に於けるマーケティングの移り変わりなど、セミナーその物も興味深い。 午後は私担当の「音楽でチームビルディングとリーダーシップ」ワークショップ。講義ではなく参加型ワークショップだし、内容も音楽なので、皆さんどんどん打ち解けてくださって笑い声が絶えない。一生懸命聞いてくださるので、私もどんどん一生懸命になる。好循環の相乗効果。気が付いたらあっという間に担当時間が終わっていました。最後に「一滴の水について」を演奏したら、皆さんシーンとなって聞いてくださいました。 4時にワークショップ終わってその足で空港に。ぎりぎりで7時の飛行機の最終コールに間に合う。帰宅は11時半過ぎ。荷物もそのままで、取り合えず寝支度だけして、それでも就寝は深夜過ぎ。バタンキュー。

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移動日

朝5時半起き。昨日の夜Hollywood Bowlで第九を聞いて就寝が深夜を過ぎたので、ちょっぴり辛い。第九の生演奏は初めてで、野外コンサートと言うこともあり観客が思い思いの楽しみ方をしており、演奏後にはあちこちで「喜びの歌」の無意識の鼻歌が聞こえて、そのすべてが感慨深く、良い経験だったのだけれど… 7時までにシャワ―と荷造りと家事とメールをざっと片付けて、7時から8時まで一時間練習。朝ちょっとでも練習をすると、一日中何となく頭が無意識に復習している感じなので、お得感が在る。8時半までに朝食と身支度。 飛行機は予定通り11:45分に離陸、2時半にシアトル着陸。そこから今夜の宿までは公共交通機関を使って移動。去年の夏シアトルでUS-Japan Leadershipの一週間を過ごした思い出がありありと蘇ってくる。あれからまだ一年なんだなあ。シアトルは水(海と湖)と山に恵まれた美しい都市。 4時半に宿に着き、昼寝。もうすぐ友達が迎えに来てくれて一緒に夕食をする。

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