書評

洒脱日記158:書評「Little Fires Everywhere(リトルファイアー:彼女たちの秘密)」

このブログではセレステ・イングの2017年のベストセラー、まだ邦訳が出版されていない「Little Fires Everywhere」を書評します。私はこの原本を基にしたテレビシリーズは観ていませんが、テレビシリーズの批評、さらに最近話題になった韓国映画「パラサイト」との比較検討などもします。

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書評:7つの習慣

「7つの習慣(The 7 Habits of Highly Effective People: Powerful Lessons in Personal Change (1989)」 私は原文をオーディオブックで運転しながら一週間にわたって聞きました。 諸事情から、読破後一週間以上経ってからこの書評を書いています。この書評を書くにあたって、復習のために本のページをパラパラとめくっていてびっくり。内容が鮮明に、そして簡単に記憶に蘇ってくるのです。この秘密をまず解き明かそう!そこからこの書評を始めます。 この本の要点は簡潔で普遍的。しかも適切な逸話や例えや説明や類似情報で印象深くなっている。 この本の論点は非常にうまく整理されている。一つの論点が次の論点になぜ発展するのかが自明。本の構築もその自然の結果。 それぞれの論点が主張その物と、それをより深く説明する逸話・たとえ話などとキレイに読み分けることができる。そのため、斜め読みが簡単で、必要情報が見つけやすい。 この本の要点は色々な記事やブログ、ヴィデオなどにまとめられてオンライン公開されている。例えばウィキの記事も上手くまとめていると思う。 ハウツー本を書こうとしている筆者としては、この著者の書き方は凄いお手本。この本を読んで色々教訓を得ました。 文章の美しさではなく、明確なメッセージが大事。 主体は書き手ではなく、読者。 読者がすでに持っている知識や慣れている視点に、新しい情報を繋げて提供する。 要点は色々言い方を変えて何度も繰り返す。 事実としての提言 たとえ話・寓話 感情に訴える個人的、あるいは歴史的逸話 格言 学術的見解・データ この要点と読者個人への関係性と有益性を明確にする。 要点をまとめた覚えやすいキャッチフレーズを何度も繰り返す。 著者の飾らない正直さ。読者と向き合おうとする偽りのない真摯さ。 上の段落で私が最後に挙げた著者の正直さと真摯さについて。「7つの習慣」の著者、コヴィーはこの本を自分の家族の逸話で始めています。出来の悪い息子を著者と妻は叱咤激励します。その過程で夫婦仲は険悪になり、息子は委縮してますます業績が悪くなります。行き詰った著者は、執筆中の本へのリサーチと照らし合わせて気が付きます。両親とも息子に対して社会的常識と自分たちのエゴを押し付け、息子自身ときちんと向き合うことを避けていたのではないか…なぜ息子が他の子たちと成績や成長が違うのか。息子にどう対応すれば息子自身の本領を発揮できるのか。社会のバロメーターから独立した息子個人の良い部分はどういう所なのか…?読んでいて胸が詰まりました。 私は今、乱読をしています。読者は色々な人生の場面で様々なものを求めて読書をする。私もできるだけ色々な形で本を読もう、そして読者が本に何を求めて、何を本からゲットするのかもっとよく分かろうと思っているからです。運転中にオーディオブックを聞き、運動しながらもイヤフォンで聞き、トイレでも、練習の合間にも、就寝前にも、待ち時間にも、雑誌や本や小説や…本当に乱読しています。それで分かってきたことの一つに、「嘘はバレる」と言うのがあります。証拠はないけれど、でもCoveyの息子の話し、そして著者の感情は本物だと思います。訴えかけてくる感動がある。もちろん、本当の話し・気持ちでも、文章力の欠如や言葉の足りなさで読者に伝わらないというケースもあるでしょう。でも逆にどんなに文章力があっても、虚栄心や自己中心的なモチベーションから来る偽りは、本のページから臭う。私はそう思います。 息子への対応を改めるために反省を重ねる過程で、著者は「個性主義」と「人格主義の違いについて考え始めます。 「個性主義」では個人と社会の関係「個性主義」では個人と社会の関係やポジティブ思考と言ったコミュニケーション・スキルを重視します。私が最近書評した「人を動かす(1936)」はそれを形作ったものではないでしょうか?こういうテクニックは目前の問題解決にはなっても根本的には何も解決しない、いわばバンドエイドのような応急処置だと、著者は主張します。 「人格主義」では逆に成功と言うのは人間としてあるべき姿ーすなわち誠意、謙虚、勇気、正義、忍耐、勤勉、節制、黄金律 の自然の結果であるとします。人格の結果ではない成功は普遍的な幸せには結び付かないからです。面白いのは、著者が第一次世界大戦以前の啓発本は「人格主義」が主だった、と言っていることです。例えばベンジャミンフランクリンの自伝をあげています。アルフレッドアドラーの「嫌われる勇気」もここに加えて良いと思います。 さらに著者は人格主義や7つの習慣のゴールは個人としての普遍的な幸福だけではなく、「公的成功」だと主張します。人は依存した状態で生まれてきて、成長の過程に於いてまず独立を目指します。しかし、独立が最終ゴールではない。独立の先に関係者全員に有利な関係を築き上げる関係性を築き上げる能力=「公的成功」が最終ゴール。お互いに有益な関係。それぞれが別々に全力を尽くした結果を重ね合わすよりも、協力して1+1が3以上の結果を生み出す相乗効果のある関係性を築き上げる。これが本当の社会性であり、人間としてのゴールだ、と言うことです。 最後に著者が説明するタイトルの由縁について。 習慣とは何をどうするかと言う①知識と②技術であり、それを③執行する意志力ーこの3つを長期的に掛け合わせることの結果生まれる。いくつもの習慣の掛け合わせが人格を創り上げる。新しい習慣を作るのは根気だけではなく、しばし苦痛を伴う。それは、視点の変換を必要とするからで、視点の変換はそれまでの視点の足りない部分を正直に受け止めることでしかできないからだ。しかし、究極的な目的(公的成功・普遍的な幸福)にいずれ辿り着くために、短絡的な楽を犠牲にすることは、向上には必要なのです。 また原題は”7 Habits of Highly Successful People(成功者の7つの習慣)” ではなく “Effective People(効果的な人間の7つの習慣)”。では「効果性}とは? 効果性 = PとPCのバランス P =

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書評:「人を動かす」(1936)

デール・カーネギー著「人を動かす」 「How to Win Friends and Influence People(1936)」 by Dale Carnegie 私はこの本を原文(英語)のオーディオブックで聞きました。 この本の存在は多分高校生くらいの時から何となく聞き知っていました。が、今読もうと思った理由はいくつかあります。 自分が「ハウツー本を書こう」と思い今その手の本を読み漁っている。 ニューヨーク公共図書館が創立125周年記念の一環として、創立以来一番貸し出しが多かった本トップ10を発表した際、この本が8位に入っていた。 2011年にタイム誌が発表した影響力のある本トップ100の19位に入っていた。 1936年に書かれたハウツー本が今でも影響力がある、と言うのは凄い。私はハウツー本と言うのは小説や哲学書に比べて普遍性が薄いと思っていました。それが今でも買われ続け、読み続けられているというのは、ちょっと空恐ろしい。 書かれている教訓と言うのは実に基本的な事です。「相手の立場を思いやる」「負けるが勝ち」「聞き上手になる」など万国共通の常識も、「常に笑顔」「相手の名前を連呼する」「どんなに小さな上達でも毎回手放しに誉める」などアメリカに特有な文化的なものもあります。このページで非常に読みやすい形に上手にまとめられています。 そしてこういう教訓を印象付けるために(教訓の一つは「論点を劇的に演出しろ」)ベンジャミン・フランクリンやリンカーンの武勇伝や外交手腕、さらに著者の受講生や友人、家族の逸話などが織り交ざります。 この本は私にとっては好ましいものではありませんでした。「胸糞が悪い」と言ってしまっても良いかも知れません。要するに、どうやって人に対応すれば最終的に自分の目的を達成できるか、と言う本だからです。 しかし、これも最近始めたことなのですが、読書後にその本の背景に関する情報や他の方の書評を読むことで、また新たな視点を得ることが出来ました。 この本は1929年の世界大恐慌の7年後に出版されています。不景気の余波で、この年のアメリカの失業率は16.9%。この本に「危うく首になるところだったがこのテクニックを使ってボスに気に入られた」とか、「このテクニックを使った何々さんは売上高が急上昇した」と言う逸話が多いのは、要するに出版当初の読者は背水の陣でこの本で学んだ教訓を実践していたのです。更にこの本がそういう不景気の中で爆発的に売れた理由、そして今でも売れている理由は、この本が時勢問題に全く触れず、「どんな状況下でもすべては自分次第」と言う視点から論点を展開し続ける、と言う点です。自分が変われば周りも変わる。自分が努力をすれば自分の人生は変わる、と言う論点です。それは他の方の書評を読んで、初めて気が付きました。 ただ懸念されるのは、その後もこの本が読まれ続けたことです。16の時からの私のホームステー先で、今では私の「アメリカの両親」の老夫婦はお父さんが1924年生まれ、お母さんが1935年生まれでした。この二人がこの本を読んだことが在るかどうかは知りませんが、この二人の人への接し方には、明らかにこの本の影響が感じられます。要するにこの本はアメリカの社交文化に多大なる影響を与えていると言って過言ではないと思います。そしてそれが、アメリカ人の愛想よさ、不必要なまでの友好性、表面的な会話などの根源にあるのでは、と思います。 この本はアメリカ文化背景や、アメリカ特有の会話術などを学ぶためには、非常に有効な本だと思います。が、個人的には、次に書評を書く「7つの習慣」の方がより好ましく、素直に読め、学ぶポイントも多かったです。

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