書評:The Library Book(邦題:炎の中の図書館)

The Library Book (2018) by Susan Orlean (炎の中の図書館:110万冊を焼いた大火)

1986年4月、ロサンジェルスの中心街でも特別な存在だった図書館本部が燃えあがった。消火に7時間38分かかり、摂氏1100度を超える灼熱にまで燃え上がった歴史的にも稀な大火事。ベテラン消防士でも目撃者は少ないとされる極限の高温時の透明な炎は、この日消火活動に当たった多くの消防士の一生の語り草となった。チェルノブイリと同日の出来事で比較的報道が少なかったこの大事件の全容がこの本で明らかにされる。

火事の原因は何だったのか?一時は放火と断定されたこの火事—放火犯は誰だったのか?動機は?犯罪ミステリーとも読めるこの本はしかし、そこでは終わらない。炎の科学。火災被害を受けた書物の再生の工夫と成功例・失敗例。歴史書の保管法。焚書の歴史。著者個人の幼少時代の図書館の思い出。図書館という文化施設の発祥と発展の歴史。建築物としての図書館。都市計画の中での図書館の位置づけ。運営と予算。図書館を拠り所にする貧困者・住所不定者・様々な家庭状況の子供たち。発展途上国の図書館。図書館員たちの生きざま。ボランティア活動。そして図書館のこれからの在り方。

(本文より:翻訳は私です。)アメリカ合衆国の公共図書館の数はマクドナルドの店数よりも多く、本屋の数の二倍になる。多くの町に於いて、図書館は実際に陳列される本に触れられる唯一の場所だ。(Public libraries in the United States outnumber McDonald’s; they outnumber retail bookstores two to one. In many towns, the library is the only place you can browse through physical books.)

歴史の深い図書館ーでも30歳以下の利用者たちへの人気が上昇中だ。高齢者たちも図書館の利用が多く、ストリーミングやデジタルの世界で育ってきた彼らの6割以上がインターネットでは得られない重要なものが図書館にはあると信じている。(Libraries are old-fashioned, but they are growing more popular with people under thirty. This younger generation uses libraries in greater numbers than older Americans do, and even though they grew up in a streaming, digital world, almost two thirds of them believe there is important material in libraries that is not available on the Internet…)

1949年に発表されたユネスコ公共図書館宣言では国連の重要な課題の一つとして公共図書館の役割が記されている。宣言は「図書館は、市民が情報への権利と表現の自由を駆使するためにはなくてはならない。情報への自由なアクセスは民主主義社会の自由討論と世論形成のために必要である」としている。

“The Library Book” (2018) by Susan Orlean(『炎の中の図書館:110万冊を焼いた大火』スーザン・オーリアン著、羽田詩津子翻訳(2019))

これほど多様な主題を扱いながら、一貫性を欠かさずに最後まで一気に読ませる文章力と構成力。そして全てをヒューマンストーリに仕上げる人間性。見習いたい。

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