書評:The Ministry for the Future (邦題:未来省ーネタバレなし)

The Ministry for the Future: A Novel (2020) by Kim Stanley Robinson

この本はSci-Fi(サイエンス・フィクションの略)ならぬCli-fi(クライメイト・フィクション:日本語では環境フィクション)という新しい文学ジャンルに属す長編小説です。それぞれの章は平均的に短いのですが、106章もあるかなり分厚い本です。幕開けは近未来2025年。インドで猛暑の中2000万人が亡くなる大惨事を経て、将来の生きとし生けるものの権利のために設立された未来省が大胆な行動へと踏み出していきます。

2023年に参加した環境関係の学会で沢山の方々に強く勧められました。特に暮れに参加したAGU(アメリカ地球物理学連合)では、著者のインタビューがあり、参加者の多くがこの本について興奮して語り合っていたのが印象的でした。彼らが言うには、この本で出てくる環境科学や解決法が信憑性がある、とのこと。そしてインタビューでわかったのは、著者の結婚相手が化学者で著者は彼女にくっついて学会や実地調査に出かけたり、彼女の同僚にいろいろ教えてもらったりしている、ということでした。

始めはフィクションだと思ってストーリーラインを追って読み進めていたのです。でも途中から(え?)と思いなおし、言及のある過去の試みや実験データについてググったところ、全て事実に基づいていたことにびっくり。この本は物語の形をとって著者が環境危機のために我々が知るべき事実や試みや概念を紹介し、解決法の可能性を提示している!

この本の良いところは、知らず知らずのうちに楽しくいろいろ学べていることです。科学もですが、経済学や国際政治・国際協力に関する考察が非常に多い。逆に悪いところは、どこまでが著者の意見・想像か、どこまでが事実かが分かりにくいところ。勿論、著者のバイアスも浮彫になります。例えば欧米中心の視点から全てが描かれています。

でも、学術論文の読者がせいぜい3ケタ台なのに対して、この本はアマゾンレビューだけでも8,759ついている。本当に世論を動かすのはこういう媒体なのか。

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