音楽療法

元政治家と共著した記事が発表になりました。

今週火曜日、音楽の治癒効果と芸術への投資の必要性についてのOp-Ed記事(Op-Edって何と言う方はこちら)”In the Age of Covid, Music will Help us Grieve, Heal and Come Together”が出版されました。US-Japan Leadership Programで出会った友人の元カリフォルニア州政治家、Jeff Leと共著をした記事です。この記事の和訳は隔週で「日刊サン」に掲載中の私のコラム「ピアノの道」で「コロナの時代の音楽」と題して出版させて頂きました。お読み頂ければ幸いです。 「政治家がよく読むので」という理由でCalmattersと言うカリフォルニアの政策や政治を主に扱う新聞に発表したこの記事ですが、この4日間で実に5つの地方紙に取り上げられています。「音楽の治癒効果」という響きが良いということもあるのでしょうが、もう一つ芸術分野の失業率が著しく、芸術団体やNPOが今風前の灯の危機にさらされている、という現実が背景にある事も無視できません。 記事の中でも言及していることですが、音楽は呼吸器を付けたICU患者さんの呼吸を正常化し、鎮痛剤や鎮静剤の必要性を減少し、患者一人当たりにつき$2322のコスト削減がある、という様々な研究結果が在ります。それなのに、コロナ禍で音楽療法士の多くが一時解雇処分や失業になっています。これにはやはり音楽や芸術一般に対する健康促進効果に対する偏見がある事を否めません。こんなにたくさんのデータが揃っている医療現場に於ける音楽の治癒効果ですらそうなのですから、芸術一般の世界貢献となると更に一般認識は低くなります。 バイデン・ハリス新政権は、問題を多く抱えた状態でスタートを切っています。パンデミックや国内での政治的分離、更に貧富の格差問題・人種差別問題、その上気候変動と、本当に胸が息苦しくなるくらい緊急な問題が山積みです。しかし、人間としての尊厳というものを持って始めて、どんな問題にも凛として挑めるのではないでしょうか?そしてその尊厳というのを思い出させてくれ、私たちにお互いを思いやる人間性を発揮する勇気を与えてくれるのが、音楽であり、芸術であり、文化ではないでしょうか? 私は私で、一人の音楽家として何ができるのか、真剣に探求を続けていくつもりです。

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コロナ日記⑪:

飲食店の儲けが少しでも上がるようにと、ロサンゼルス市長ガーセッティは外出禁止令中、飲食店がアルコールの配達をする事を許可すると発表。また外出禁止令中家賃を払えなくなった人の強制立ち退きを違法にしたり、ホームレスのために300以上の手洗い場が設けられたり、ホテルやモーテルなどをホームレスの一時居住に充てるなど、行政も今回の非常時を受け色々な対応を試みている。

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書評:The Unforgiving Minute: A Soldier’s Education by Craig M. Mullaney

自分の回顧録を書くにあたり、他の人の回顧録を沢山読んでいます。これはその一つ。(和訳は出ていません。) 本の虫の高校生がアイヴィーリーグではなくWest Pointの陸軍士官学校を選びます。肉体的にも精神的にも限界を超えることを要求されるスパルタ教育中にも勉学を怠らず、オックスフォードへ名誉あるRhodes Scholarとして留学。その最中に9.11が起こり、自分の訓練が実戦に使われる運命を自覚。その後アフガニスタンで10か月戦い、何人かの部下を亡くします。 詩や小説・戯曲から歴史、哲学、宗教と読書家の著者は「生徒」「軍人」「退役軍人」の3部に分けられた全41章を色々な引用で始めています。聖書・ダンテの戯曲・軍の規律・小説...出典は実に多様ですが、その一つに私は特に共鳴しました。 「The nation that will insist on drawing a broad line of demarcation between the fighting man and the thinking man is liable to find its fighting done by fools and its thinking done by cowards.(戦う者と考える者の間に線を引いて隔てる国は、愚か者が戦い臆病者が考えると言う結果を導く。)―Sir William Francis Butler」 『戦うもの』=『実践するもの』。私も考える音楽家になりたい。 本の著者は使命感と正義感に満ち溢れる知性的な青年です。若い士官として責任を全うしようと懸命になり、その結果部下の死に対する罪悪感に傷つきます。私がこの本を読んでいる間、この本の著者Craigは傷痍軍人のための寄付金を募る活動をしながら、亡くなった自分の部下を追悼してアルプスを横断していました。Facebookやインスタグラムにアルプスの美しい写真をアップロードをするのと同時に、亡くなったかつての自分の部下の写真も上げています。亡くなった方々それぞれへの言及を本の中で読んだばかりだったので、Facebookに挙がった顔写真を改めて拝見して感無量になってしまいました。 私がこの本を読んだのは実は著者にこの夏会っていたからです。US-Japan Leadership Programの参加者だったのですが、本人は主に「Facebookで働く人」と言う立場で参加し、発言しており、私はうかつにも彼の過去やニューヨークタイムズのベストセラーリストにも乗った著書の事は、会が終わってから知りました。今、たまたま回顧録を手当たり次第読んでいると言うことと、知り合いの本と言うことで、ほとんど義務感から図書館で借りましたが、面白くて一気に読み切りました。 回顧録を読むのは、自分の回顧録を書くに当たり参考にすると言うのが第一目的ですが、もう一つ「世界観を広げて、もっと社会のニーズに寄り添う音楽活動がしたい」と言う気持ちが在るからでもあります。この本は私には全く未知の世界だった軍隊の世界を垣間見させてくれました。 この本を読みながら、今までの自分の軍隊に対する偏見を認めざるを得ませんでした。私の偏見は反戦を謳う戦後の日本教育のせいでしょうか?それとも反体制になりがちな芸術タイプに囲まれて育ってきたせいでしょうか? Craigは一途としか言いようのない正義感と責任感とチャレンジ精神を持って、訓練と実戦の中の肉体的・精神的・倫理的困難に立ち向かっていきます。エリートとして士官学校に合格した後「正義のために人を殺す事は本当に正しいのか?」と何週間も悩んだ後に神父に相談したり、友達への闘争心や劣等感に悩んだり、アフガニスタンで現地人のコミュニティーに溶け込もうと色々滑稽な努力をしたり、本当に共感をそそります。(私とCraigは似ている!?)と思ってしまうほどです。同時に複雑な親子関係や恋愛の箇所は、むしろ知人だからこそかも知れませんが(ここまで知っちゃって本当に良いんですか!?)とちょっとオタオタしてしまうようなところもありました。読者を信頼しているから正直にシェアできたんだと思いますが、自分が回顧録を書く上でどこまでシェアするのか悩むうえでの参考にもなりました。 みんな、それぞれの立場でそれぞれのチャレンジと悩みを抱え、一生懸命生きているんだと思います。一つの世界―それが軍隊であれクラシック音楽業界であれ―にどっぷり浸かってしまうことの欠点は「私たち(俺たち)が一番苦労している・頑張っている。」と思ってしまうことだと思います。クラシックの文化では、19世紀ロマン派の影響もあり、そのナルシシズムはかなり病的に存在している。音楽以外の事を知ることは時間や労力の無駄だ、と言う風潮が在るのです。私はそれに甘んじてかなりの時間を音楽だけに集中してしまった。それはそれで良かったこともあるけれど、これからはできるだけ視野を広げ、今まで培ってきた私の音楽をこれからはできるだけ世のため・人のために役立てられたら、と思っています。Craigの本で何より私が共感し、感動したのは、Craig自身もCraigの友達もみんな必死になって自分の限界を超えようと毎日頑張っていることです。私も学生時代そういう時が在ったし、これからも常にそういう風に頑張って居る自分でありたい。本を読んで非常に刺激され、野心がむくむく湧いてきました。取り合えず、縄跳びを買いました。 音楽療法と言うのは第一次世界大戦と第二次世界大戦の従軍看護婦が、野戦病院で音楽隊が来ると傷痍軍人が少し苦痛が和らいでいるようだと気が付いたことことから始まったと言われています。(音楽を治癒に使うと言うことはメソポタミア文明、古代ギリシャ文明。世界各地の原住民など古来から様々言い伝えられていますが、ここでは、現在の西洋医療で実際に研究・実地されている音楽療法の起源の事を言っています。)私も退役軍人を対象にしたNPOでもお役に立てれば良いな~、と夢見ています。 私に人間性善説への信念を強めてくれるような本でした。 最後に。タイトルの「The

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障がい者とご家族のための演奏会

昨日は千葉女子専門学校と障碍福祉サーヴィス「まあるい広場」、そして千葉の「平田真希子応援団」の皆さんのご協力により、障碍者とその家族のための音楽会が実現しました。音楽が特に自閉症などをお持ちの方々に効用を発揮することは証明されていますが、でも実情ではこの様な方々が普通の演奏会にご出席なさりにくいのです。通常のクラシックの演奏会では聴衆は儀式のルールにのっとった行動を期待されます。静粛不動で、決められた場所で拍手をする。それは、正直なところ大方の人に窮屈なのではないでしょうか?特に、色々な事情をお抱えの方々はこのルールに徹するのは無理がある場合が多いのですが、そうすると他のお客様のご迷惑になる場合があり、ご家族も恐縮されてしまいます。だから障がい者とそのご家族が、何の心配も気兼ねも無く、堂々とおおらかな気持ちで音楽を楽しめる会が出来れば良いな~、といつも機会を探しています。 昨日は思いがけず多くの方々にお越しいただけました。主に自閉症、ダウン症と言った知的障碍をお持ちの小さなお子様から大人まで、そしてそのご兄弟や保護者の方々、そして施設や団体関係者の方々など雲行きのあやしい土曜日の午後でしたが、120名位の方々がお集まりくださいました。中には車いすの方もいらっしゃいます。(音楽会の会場に居る!)と言うだけで興奮と緊張のあまり車いすの中で跳躍の様な動きが何分も止まらない男の子も居ました。開場前の私が少し練習の手を止めると、その度に一生懸命一々拍手をして下さる方も居ました。 時間が来て会が始まった時、私はまず音と言う物がいかに空気の振動で耳の鼓膜だけじゃなくて、聞いてくださる方を囲んでいる空気の全てを振動しているか、と言う事、だから私はピアノを弾くとき、聴衆の皆さまを一人ひとり優しく触れるつもりで弾いています、と言うお話しをしました。そしたら最前列の女の子が自分の頬っぺたを優しく触れているのです!うれしい…。そしてみんなの興奮を沈め、音に集中してもらうために、まず一音だけぽ~んと弾きました。そして皆には手を挙げてもらって「音が段々小さくなって、もう聞こえないと思ったら手を下げてください」とお願いしました。そしたら会場の空気が本当に集中して来るのが手に取るように分かったのです。不思議な感じでした。 その次にバッハの平均律集一巻から前奏曲一番を弾きました。 「この曲はいつも同じフレーズが二回繰り返されます。皆で一回目に息を大きくゆっくり吸い、二回目で大きくゆっくり吐いてみましょう」と言ってまずデモンストレーションをした後に曲を弾き始めました。そしたらみんな本当に一生懸命私と一緒に息を吸ったり吐いたりしてくれました。 その後にショパンのエオリアン・ハープを弾きました。 次は同じショパンの「英雄」ポローネズ!主題の勇ましいテーマが聞こえたら敬礼をしてください、とお願いしたら、みんな一生懸命聞いて、敬礼してくれました。ちょっとダイジェスト版にして、中間部はカットしましたが、全部弾いても皆一生懸命に聞いてくれたのかも知れません。 皆が元気づいて、にぎやかになってきたので、次は鎮静効果のあるドビュッシーの「月の光」を情景の説明をしてから弾きました。 そして「月の光」比べで、次はベートーヴェンの「月光」の一楽章。 そしてベートーヴェンが難聴・失聴に打ち勝った英雄だったと言う事をお話しした後、ソナタ一番の終楽章を弾きました。 人間と言うのはいかなる困難にも打ち勝つ事の出来る強い生き物だ、と言う事で、スクリャービンの左手のためのノクターンを弾きました。右手を故障してしまったピアニスト、戦場で右手を亡くしてしまったピアニストでも、生きている限り音楽を続けようとする意志のある人達が左手のための曲を沢山委嘱しました。その事だけでも、人間賛歌、そして困難を直面している人への応援歌となる、と私は思い、私自身がいつも勇気づけられます。 終演の時間が近づいてきたので、みんなで楽しい気持ちになってもらおうと思い、係りの方に鈴や太鼓やカスタネットなどを配っていただいて、みんなからリクエストを頂き、「サザエさん」「キャンディ―キャンディー」「ドラえもん」「水戸黄門」などのテーマソングを弾いていっしょに歌ってもらいました。みんな一生懸命歌って手拍子や打楽器で参加してくれました。エリーゼのためにも弾きましたし、最後のアンコールではトルコ行進曲でみんなに足踏みをしてもらいました。昔はこういうみんなが喜んでくれるポピュラークラシックや、アニメ・ソングなどを弾くのは、本当に心外だったりした時期もありました。自信が無かったのだと思います。でも今は私は音楽は楽しくなければいけない、と思います。そして本当にシェアするためには歩み寄りもしたい、と思います。 楽しい会でした。皆に喜んでもらえて、私も本当に嬉しかった。 音楽と言うのは本当に治癒能力があると私は信じています。でも本当にその効果を必要としている、闘病生活を送られていたり、人生に困難を抱えていられたり、自分で移動が難しかったりする方々に生演奏を聴く機会と言うのは少ないと思います。こういう活動をもっと沢山やりたい、そしてこういう活動を広めていきたい、と思います。 今夜は千葉のジャズスポット「Candy」で「『天上の音楽』vs.地上の英雄」を弾きます!Candyももう10年以上毎年お邪魔しています。通の常連さんが沢山集まる、熱気あふれる音楽会場です。楽しみです。

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