自分の回顧録を書くにあたり、他の人の回顧録を沢山読んでいます。これはその一つ。(和訳は出ていません。)
本の虫の高校生がアイヴィーリーグではなくWest Pointの陸軍士官学校を選びます。肉体的にも精神的にも限界を超えることを要求されるスパルタ教育中にも勉学を怠らず、オックスフォードへ名誉あるRhodes Scholarとして留学。その最中に9.11が起こり、自分の訓練が実戦に使われる運命を自覚。その後アフガニスタンで10か月戦い、何人かの部下を亡くします。
詩や小説・戯曲から歴史、哲学、宗教と読書家の著者は「生徒」「軍人」「退役軍人」の3部に分けられた全41章を色々な引用で始めています。聖書・ダンテの戯曲・軍の規律・小説...出典は実に多様ですが、その一つに私は特に共鳴しました。
「The nation that will insist on drawing a broad line of demarcation between the fighting man and the thinking man is liable to find its fighting done by fools and its thinking done by cowards.(戦う者と考える者の間に線を引いて隔てる国は、愚か者が戦い臆病者が考えると言う結果を導く。)―Sir William Francis Butler」
『戦うもの』=『実践するもの』。私も考える音楽家になりたい。
本の著者は使命感と正義感に満ち溢れる知性的な青年です。若い士官として責任を全うしようと懸命になり、その結果部下の死に対する罪悪感に傷つきます。私がこの本を読んでいる間、この本の著者Craigは傷痍軍人のための寄付金を募る活動をしながら、亡くなった自分の部下を追悼してアルプスを横断していました。Facebookやインスタグラムにアルプスの美しい写真をアップロードをするのと同時に、亡くなったかつての自分の部下の写真も上げています。亡くなった方々それぞれへの言及を本の中で読んだばかりだったので、Facebookに挙がった顔写真を改めて拝見して感無量になってしまいました。
私がこの本を読んだのは実は著者にこの夏会っていたからです。US-Japan Leadership Programの参加者だったのですが、本人は主に「Facebookで働く人」と言う立場で参加し、発言しており、私はうかつにも彼の過去やニューヨークタイムズのベストセラーリストにも乗った著書の事は、会が終わってから知りました。今、たまたま回顧録を手当たり次第読んでいると言うことと、知り合いの本と言うことで、ほとんど義務感から図書館で借りましたが、面白くて一気に読み切りました。
回顧録を読むのは、自分の回顧録を書くに当たり参考にすると言うのが第一目的ですが、もう一つ「世界観を広げて、もっと社会のニーズに寄り添う音楽活動がしたい」と言う気持ちが在るからでもあります。この本は私には全く未知の世界だった軍隊の世界を垣間見させてくれました。
この本を読みながら、今までの自分の軍隊に対する偏見を認めざるを得ませんでした。私の偏見は反戦を謳う戦後の日本教育のせいでしょうか?それとも反体制になりがちな芸術タイプに囲まれて育ってきたせいでしょうか?
Craigは一途としか言いようのない正義感と責任感とチャレンジ精神を持って、訓練と実戦の中の肉体的・精神的・倫理的困難に立ち向かっていきます。エリートとして士官学校に合格した後「正義のために人を殺す事は本当に正しいのか?」と何週間も悩んだ後に神父に相談したり、友達への闘争心や劣等感に悩んだり、アフガニスタンで現地人のコミュニティーに溶け込もうと色々滑稽な努力をしたり、本当に共感をそそります。(私とCraigは似ている!?)と思ってしまうほどです。同時に複雑な親子関係や恋愛の箇所は、むしろ知人だからこそかも知れませんが(ここまで知っちゃって本当に良いんですか!?)とちょっとオタオタしてしまうようなところもありました。読者を信頼しているから正直にシェアできたんだと思いますが、自分が回顧録を書く上でどこまでシェアするのか悩むうえでの参考にもなりました。
みんな、それぞれの立場でそれぞれのチャレンジと悩みを抱え、一生懸命生きているんだと思います。一つの世界―それが軍隊であれクラシック音楽業界であれ―にどっぷり浸かってしまうことの欠点は「私たち(俺たち)が一番苦労している・頑張っている。」と思ってしまうことだと思います。クラシックの文化では、19世紀ロマン派の影響もあり、そのナルシシズムはかなり病的に存在している。音楽以外の事を知ることは時間や労力の無駄だ、と言う風潮が在るのです。私はそれに甘んじてかなりの時間を音楽だけに集中してしまった。それはそれで良かったこともあるけれど、これからはできるだけ視野を広げ、今まで培ってきた私の音楽をこれからはできるだけ世のため・人のために役立てられたら、と思っています。Craigの本で何より私が共感し、感動したのは、Craig自身もCraigの友達もみんな必死になって自分の限界を超えようと毎日頑張っていることです。私も学生時代そういう時が在ったし、これからも常にそういう風に頑張って居る自分でありたい。本を読んで非常に刺激され、野心がむくむく湧いてきました。取り合えず、縄跳びを買いました。
音楽療法と言うのは第一次世界大戦と第二次世界大戦の従軍看護婦が、野戦病院で音楽隊が来ると傷痍軍人が少し苦痛が和らいでいるようだと気が付いたことことから始まったと言われています。(音楽を治癒に使うと言うことはメソポタミア文明、古代ギリシャ文明。世界各地の原住民など古来から様々言い伝えられていますが、ここでは、現在の西洋医療で実際に研究・実地されている音楽療法の起源の事を言っています。)私も退役軍人を対象にしたNPOでもお役に立てれば良いな~、と夢見ています。
私に人間性善説への信念を強めてくれるような本でした。
最後に。タイトルの「The Unforgiving Minute」と言うのはKipplingと言う人の書いた詩の引用です。身につまされる詩です。アメブロで全文訳された方がいらっしゃるので、ここに参照させていただきます。