ヒューストン

明鏡日記10.15:ヒューストン日本人会主催の会で演奏

異国での生活は様々な挑戦や困難に直面します。そんな中コロナ禍で里帰りが難しくなった在米日本人は、いつもにも増して持ちつ持たれつして、結束を深めました。ヒューストン日本人会(Japanese Association of Greater Houston:JAGH)も日本飲食店の経営サポートの為に、会員がズーム越しに一緒に発注したお弁当を食べる会などを企画して積極的にサポートをしていました。私もまだ生演奏や演奏旅行が不可能な時、JAGH主催のオンライン・コンサートをさせて頂きました。 題して「現場医師のコロナ最前線情報と日本人芸術家の復活公演」 今回の会は日本政府の助成金で可能になりました。外務省が海外在留邦人・日系人の生活・ビジネス基盤強化事業の助成金を発表したのを受け、JAGH会長の武智さんがすぐに行動を起こしてくださいました。外務省の方針とヒューストンに在住の感染症専門の日本人のお医者様が3人もいらっしゃるという事で、コロナに対する正しい知識をプレゼンでご教授頂き、同時にヒューストンの日本人経営飲食店4軒に当日参加者全員分のお弁当を発注してサポートし、更に日本人舞台芸術家の出演でヒューストンバレーに在籍する日本人8人や、クラリネットの佐々木麻衣子さんと私、ヒューストン・オペラでもご活躍なさるオペラ専門のピアニストの戸田さんや戸田さんがリードする日本人合唱団も出演する盛沢山の会となりました。チケットはすぐに完売し、満員御礼状態となりました。日曜日の午後と言う事もあり、子供連れの家族が沢山登録して下さったことに一同喜びました。 会場となったAsia Society of Texas Center 今までも多数演奏会をさせて頂いた思い出深い場所です。モダンな建築の会場に入るといつも背筋が伸びる気がします。当日は素敵なお花がいたるところに飾られ季節感と「和」を演出してくれました。 シゲルカワイのフルコンを提供してくださったKawai America Corporation 日本人ピアニストとして、美しい音色の日本のフルコンを弾くことには誇りを感じます。ですから2018年にシゲルカワイ・アーティストに任命されて嬉しかったです。しかしコロナ禍で音楽産業の様々な分野が沢山の困難を抱えている中、ご協力をお願いするのは恐縮致しました。でもカワイ・アメリカ・コーポレーションの皆さまは、このJAGHの会に最高級のシゲル・カワイのフルコンをご提供くださいました。その気持ちと、素晴らしい楽器に込められた日本人の誇りと歴史が、この会を盛り上げてくれました。 何十人ものボランティアスタッフが企画運営から携わって実現したこの会のリーダーたち いつも笑顔のリーダー・日本人会会長武智さん (写真:堀田幸司さん) ヒューストンバレー在籍中の日本人が華やかな踊りを披露してくださいました。 現在ヒューストンバレーに在籍する日本人は8人。皆さん国際的な評価を受ける素晴らしいダンサーたちです。この中の6人が今回踊ってくださいました。会場が一気に華やかになり、別世界へと連れて行っていただきました。私は何よりも公演が不可能だったコロナ禍でもダンサーたちがトレーニングを怠る事が無かったという事実に、同志を得たような勇気と元気を頂きました。 日本人の感染病専門家たちが日本語でコロナの現状や予防法などについてクイズ形式のプレゼン ヒューストンで感染病を専門に研究していらっしゃるお医者様は3人。研究だけでなく臨床も行われていたり、それぞれお子様がおありだったりと、コロナ禍での挑戦は想像もできません。そんなにご多忙なお医者さまたちが、時間をかけ心を込めて、クイズ形式のコロナ情報のプレゼンをやってくださいました。打ち合わせの時もクイズの音響効果などのチェックへの熱心さから、奉仕とか貢献と言った姿勢の背景に深い愛情が感じられ、ジンとしました。(写真:堀田幸司さん) 「一滴の水について」の独奏と、クラリネットの佐々木麻衣子さんとラプソディーインブルー! ヒューストンオペラでご活躍の戸田さんとオペラ歌手と日本人合唱団 コミュニティーが一体となった会でした。 翌日の打ち上げでは演奏を聞き逃したボランティアの為にピアノを囲んだお夕食会がありました。 打ち上げにはボランティアスタッフを中心に30名ほどの方々が集まってくださいました。皆さん、本当に素晴らしい笑顔で美味しいワインとご馳走を囲んで歓談が盛り上がりました。ヒューストンのメディカルセンターはこの都市の一大産業の一つで、日本人の研究医も多くいらしています。前日コロナに関するプレゼンをして下さった感染症専門家のお医者さんや脳神経科のお医者さんなどと、音楽と医療と言う事について沢山お話しさせて頂きました。駐在でいらしている方々も意外と熱心な音楽ファンやピアノファンの方が多く、「シャイン」や「グリーン・ブック」と言ったピアニストを主人公とした映画の話題で盛り上がったりしました。ヒューストンのNASAで宇宙飛行士として活躍されていらっしゃる日本人も多いのです。その中で野口さんが本番と打ち上げと両方お見えになってくださいました。私は少しお酒も入っていたのでおこがましくも「宇宙も音楽も浮世離れしているという意味で、一般とは違った視点から気候変動や社会問題に関して語れるのではないのか」という発言に、お優しく協調してくださり、同志を得た気持ちになったりもしてしまいました。 左からヒューストンバレーの吉山シャルル君、宇宙飛行士の野口聡一さん、私、JAGHの武智会長、そして伊藤嘉則さん。 今回の会はライブ配信も行われました。いつもJAGHのIT関連で大活躍してくださる錦城さんのお陰でこの会の録画はこちらでご覧いただけます。 感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。

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私たちのアルバムのプロデューサーがグラミー賞受賞です!

“Visions Take Flight” はヒューストンでは「ROCO」の愛称で親しまれている River Oaks Chamber Orchestraのデビューアルバムです。 私は2014年以来ROCOのメンバーとして、鍵盤楽器を担当しています。このアルバムはROCOらしい。ROCOはモーツァルトやメンデルスゾーンなどのいわゆる定番クラシックも演奏しますが、何よりも沢山の委嘱作品の世界初演で有名です。このアルバムを制作するにあたって、創始者で総監督の首席オーボエ奏者、Alecia Lawyerが 団員に「今まで演奏した中で一番思い出に残る曲」とアンケートを取ったところ、5曲全てが委嘱作品!その5曲をそのままアルバムの演目にした、本当に民主的なROCOの風潮を反映したアルバムなのです。 英語ですが、アルバム制作中のヴィデオを下でご覧ください。 このアルバムのプロデューサーが「2020年のプロデューサー・オブ・ジ・イヤー、クラシック」カテゴリーのグラミー賞を勝ち取りました。私たちのプロデューサーはエネルギッシュで音楽に情熱的なBlanton Alspaugh。下のヴィデオでこのアルバムについて語っています。ヴィデオの後半で喋っているのはコンサートマスターのScott St. Johnです。 この受賞が格別嬉しいのは、録音の予定が一度無期延期になってしまったいきさつがあるかも知れません。元々このアルバムはテキサス州のラウンドトップにあるFestival Hill演奏会場で録音されるはずだったのです。予定日は2017年の9月。丁度、ハリケーンハーヴィーがヒューストン一体を洪水にしてしまったときの事です。 当初の録音予定日の前日。私の心の友にして、ROCOのクラリネット奏者である佐々木麻衣子さんはすでに洪水の心配のために、アパートの4階にある私の部屋に避難して来ていました。それでも私たちは、何とか運転して録音会場に行くつもりでいたのです。でもメールで録音の無期延期を知らされ、本当に気落ちしました。 その時の事情、そしてそれでも録音の日程を組みなおして「Harveyなんかに負けない!」と頑張ったROCOの奮闘記は下のヴィデオでご覧いただけます。 振り返ってみると、このアルバムがここまで深く音楽的に仕上がったのは、ハリケーンや無期延期を乗り越えて、録音に携わった全員が心を一つにして頑張ったからなのかも知れません。そして今回、そのプロデューサーがグラミー賞を受賞…本当に感無量です。この録音の一部となれたこと、ROCOの一員であること、そして人生のさまざまなチャレンジにも負けず、創造性豊かに生き続ける決意を曲げない人類の一員であることを、今日は特に祝いたいと思います。

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走り始めて今日で6日目。

「外からの力が加わらない限り、静止状態の物は静止を続け、動いている物は動き続ける」…慣性の法則を学校で学ぶのは何年生なのでしょうか? 私は日本の教科書で日本語でこの概念を学び、妙に感心した記憶があるので、渡米した中二の一学期の前なのは確かです。 子供時代から本の虫だった私は、静止状態がデフォルト。引っ込み思案や病弱だったり、子供の一人遊びにはいささか治安が不安な香港で幼少時代を過ごしたり、更には日本に帰国した6歳半の時にはすでに一日2時間くらいピアノを練習していたり...様々な要素が私の静止状態に輪をかけたと思います。 ヒューストンで博士論文執筆とストーカーの刑事責任追及を同時進行でこなそうと悶々としていた時に、ジョギングを勧めてくれたのは野の君です。渋る私を「気分が晴れるから」と、海岸や公園に誘い出てくれました。ヒューストン時代の最後の一年半は毎朝2マイル(約3.22km)走るのが日課になっていました。家の近くのバイユー(ゆっくり流れる小川)に沿って、毎朝同じコースを走っていました。週末は3マイルとか5マイルとか走ったりもしてました。 最近の旅行続きが一段落した今、また朝の運動で一日に勢いをつけるべく、走り始めて今日で6日目。敢えて同じコースを2マイル走ります。同じ木が日に日に赤く色づいていきます。朝もやがかかった日もあります。息が上がり、足の筋が伸び、体幹や姿勢に意識が行きます。体中の血のめぐりがリズムに乗り、汗ばんできます。遠くの山に朝日が映えて、その日一日が楽しみになってきます。

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最近のまとめ。

私の友達には、文字通り世界を世界を股にかけて活躍する人が多い。ヨーロッパから月に数回アジアに出張がある人。日本からほぼ毎週東南アジア・ヨーロッパへと出張する人。出張先から出張先へとアメリカ大陸を所せましと飛び回る人。(すごいな~、かっこいいな~、私もいつかは…)といつも思っていたら、春先にそんな尊敬する友達の一人に「マキコもこれからだよ。そうやって発展がどんどん加速して行くときのチャレンジは、出会う様々な人や出来事や情報を、どれだけ素早く効果的に肥やしとして消化して自分の成長と発展の糧にするかだよ。反芻・復習する時間を忘れないで。」と釘を刺された。 確かに移動が多いと目先の色々に一々気を取られる。その日の宿とか、新しい出会いとか、郷土料理や観光地とか、移動手段とか…いつもは当たり前にこなしていることが、集中力を要するチャレンジとなる。その中で、何気なく耳に挟んだ大きなヒントや、爪を隠す奥ゆかしい「能ある鷹」を、見過ごしてしまうことが在り得ると思う。いかに、表面的なディテールに気を取られずに、自分の大きな目標に一番有効な情報・人脈・機会に敏感でいられるか…グローバル化一年生の大きな課題である。 ヒューストンではいくつか進展が在った。 まず、私のストーカー刑事責任追及に多いに協力してくれたライス大学から、音楽学校を対象にしたプレゼンテーションをデザインしてみないか、と相談された。私は自分の博士論文のためのリサーチで、クラシック音楽の演奏様式の背景に、白人男性優勢主義が在る事、そしてその陰に女性蔑視と人種差別が存在することを初めてはっきり史実として知り、愕然とした。そしてその背景を直視せずに伝統を継承することで、無意識に女性蔑視や人種差別のメッセージが受け継がれているために音楽業界に於ける女性に対するセクハラが67.1%と言う現状があるのでは、と思い至った。一時は「東洋人女性として私はピアニストである事を辞めるべきではないか」とまで思い悩んだ私だが、その後脳神経科学や考古学で、音楽一般が人間の生態や脳神経にどれだけ効果的かと言うことに関しての探求も進め、思いとどまった。そして今では、セクハラや人種差別や性暴力を経験した私がこうしてまだ楽観的に誇りをもって音楽活動を続けていけているのは、音楽の治癒効果と音楽コミュニティーの支援と協力を得ることが出来たからだ、と感謝している。これをプレゼンテーションにまとめてみたらどうだろう、と相談されたのである。かなり個人的な話しになるので、正直ビビっても居るのだけれど、でもやりがいのあるプロジェクトに発展すると思う。考察中。 次に、私がコンサルを務めさせて頂いているHouston Methodist HospitalのPerforming Arts Medicineで取締役を務めるTodd Frazierと、新しく研究者として入ったMei Ruiととても有意義な話し合いの時間を持つことが出来た。 Todd はNational Institute of HealthやNational Organization of Arts in Healthなどの大きな機関でもいくつもの重役をこなす業界の有名人。でも本人はいたっておっとりと、どんなに忙しくてものんびりしゃべる、絶えず微笑んでいる癒しキャラである。 US-Japan Leadership Programに私を推薦してくれた人でもある。 Meiは生化学と分子生物物理学で学部を修めた後、ピアノ演奏で修士と博士を取ったツワモノ。彼女は、楽器演奏に於いて最高レヴェルの技術を取得した奏者たちは脳の構造が変わるため、こういう人たちは脳に脳溢血などのトラウマを受けた後、特殊なリハビリで効果的に回復できるのではないか、と言う研究をしている。 Molly Gebrianは私と同じくライス大学で博士号を取ったヴィオラ奏者。学部時代は音楽と脳神経科学のダブル専攻で、現在は「音楽と脳」と言うコースを教えたり、脳神経科学を使った効果的な練習法についてのワークショップなどを行っている。彼女とは現在アリゾナの大学で教えているのだが、たまたま同じ時期にヒューストンに居て、一緒にお茶をした。Meiもそうだけれど、同志と共感する時間を持てるのは、元気と勇気が湧いてくる。 今回は音楽と関係無い会合にも顔を出した。World Affairs Council of Greater Houston(全米国際問題評議会ヒューストン支部)でイラン政府の代表として核交渉に携わったSeyed Hossein Mousavian元ドイツ大使の講義に出席した。中東の政治や、イランとアメリカの関係などに関して、歴史的背景も踏まえながらイラン側の見解を2時間にわたって語る会だった。歯に衣を着せない毒舌で、特にトランプ大統領については容赦なく「でたらめばかり言う無知」などと言って会場を沸かせた。ヒューストンは2016年の選挙ではヒラリークリントンに投票した人が多かったけれど、テキサス全体的は共和党寄りで、ヒューストンにもいまだにトランプ支持者は居る。それでもこういう発言に会場が湧く、と言うことが興味深かった。私は世捨て人の様にピアノの練習ばかりして最初の数十年を過ごしてしまったと思っているので、遅ればせながらこれから世界の事についてもっとお勉強をさせてもらって、自分の音楽をどういう形で提供すれば一番世のため人のためになる事ができるのか、参考にさせてもらいたいと思う。

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タイムマシーンと世の移ろい。

2010年の秋から2017年の秋まで暮らしたヒューストンに帰って来ると、タイムマシーンに乗って時間を2017年まで逆流した様な気持ちがする。でも、確実に時間は経っている。 30分かけて私のヒューストン時代のお気に入りのレストランに行ってみた。(このお店のこれが食べたい)と言うのはいくつかあるのだけれど、地元の農家から材料を買い付けるLocal Foodsの蕎麦サラダはリストのトップに近い位置づけ。いつも長蛇の列ができるお店なので、お昼の時間を外して少し遅めに空腹を抱えて行ってみたら…が~ん…なんと、蕎麦サラダがメニューから消えている。そして2番目に好きだったキヌアのパティの菜食バーガーも無くなっている… 私は、私が居た時のままのヒューストンが在ると、どこかで思って帰って来る。でも勿論、私がいない間もヒューストンの時間は進行し、都市は発展し、レストランのメニューは変わる。ハリケーンHarveyの洪水の直後に引っ越していった私だけれど、帰ってきたら新しい建築物がにょきにょきと建って、古いお店が新しいお店に乗り替わっている。学校に行けば、建物は同じだけれど、学友は皆卒業していない。私自身が成長し、色々な発見を経て、音楽人生を歩んでいるように、皆それぞれの人生の物語の章から章へと歩み進んでいる。 その中で変わらないものもある。「Makiko!」と叫んで、ハグをしに走ってきてくれる友人がいる。座り込んで私に近況報告をしてくれる人がいる。私のピアノを聞きに、30分、1時間と、運転して来てくれる人達が居る。そして見た目が変わっても、ハグをすると、その人のにおいと声と気持ちと共有する思い出は同じ。 大事なものが明確になってくる。感謝。

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