演目解説

シューベルトの「ます」は19世紀ドイツ語版「泳げ!たいやきくん」??

シューベルトの「ます」は19世紀ドイツ語版「泳げ!たいやきくん」??

これからツアーで演奏する「ピアノで聴く水」のプログラムにリストが編曲シューベルトの歌曲「ます」を入れたのは、実は「ます」を童謡教材にしている保育園の園児たちにせがまれたからです。しかし、譜読みを始めた当初は(いったいなんでこの曲が流行したんだろう?)と首を傾げ、中々入り込めませんでした。メロディーは単調だし、歌詞もなんだか腑に落ちないストーリーです。 歌詞はこちらでお読みいただけますが、かいつまんで内容を話すと「私」が元気よく小川を泳ぐマスを快く眺めていると、釣り人が釣り竿を持ってきます。(水がこんなに澄んでいるからからマスには釣り人や釣り竿が丸見えさ。ますは絶対釣られない)と「私」は安心してみています。が、しびれを切らした釣り人が水をかき回し、濁流の中でマスは釣られてしまう!...こういうお話しです。 毎日の譜読みと練習を義務的にこなしていた私に最初のインスピレーションをくれたのは漫画「昭和元禄落語心中」(これ、傑作!)。ここでまず、筋があまり面白くなくても、語り口調と間の取り方でお客を悶絶大爆笑させることができる、と学び、がぜんチャレンジ精神に燃えた私! そして次のインスピレーションは昨日、突然練習中の閃きとして、私に訪れました。私はずっと「ます」がどうして当時流行したのか、ずっと不思議に思っていたのです。この曲は、当時比較的無名だったシューベルトのヒット曲の一つです。2年後にはこの曲を基に室内楽を書くように委嘱を受け、シューベルトはピアノ五重奏「ます」を書いています。なんで流行した!? 当時のウィーンの人たちはこの曲に何を見出した!? その時、急に思いついたのです。 (この歌詞の筋って「泳げ!たいやきくん」と同じじゃない...?) 「泳げ!たいやきくん」がなぜ流行ったかはすぐ分かる。1970年代後半に出てきた歌です。大学紛争や反戦運動など、反体制主義の思想を経験しながら成長した団塊の世代が企業戦士としてまだ30代で死に物狂いで働いている時代です。「♪まいにちまいにち」「♪鉄板の上で焼かれて嫌になっちゃう」「♪店のおじさんとけんかして海に飛び込ん」で、「♪時々さめに追いかけられるけど、そんなときゃそうさ逃げるのさ」と歌うたいやきくんに、聴き手はさぞかし自己投影したことでしょう。そして最後にお腹が空いたあまりついつい釣られてしまい、「♪やっぱり僕はたい焼きさ...」と釣り手に食べられてしまうたいやきくん... 「ます」は「たいやきくん」ほどストーリーが発展していません。が、水をわざとかき回されて濁流の中で釣られてしまうマスに、世の中の不正に怒りを感じている人たちは、みんな「たいやきくん」にしたのと同じような自己投影するのでは? う~ん、世は変われど、人は変わらず...マスもタイも、意味深し...

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「天上の音楽 v.s. 地上の英雄」演目解説!

家族の来訪、リサイタル、卒業式、母の日…イベント続きの日時を満喫した。家族がそれぞれの家へ帰って行ったあと、思いがけずヒューストンのお友達から博士課程取得を祝ってもらったりもした。 週末には野の君とLake Livingston州立公園と言う湖沿いの広大な自然公園を散策したり、サイクリングをしたり、日本語のテレビを見たり、兎に角ひたすら楽しんで、夢の様なときを過ごした。 しかし...「はっ‼‼!」と気がつけば、もう一つ演奏会が一週間半後、日本への出発は2週間後、6月17日の品川きゅりあんは3週間半後、そして千葉美浜文化ホールはきっかり一か月後!が~~~ん。 演奏にはいつも、常に、反省点が付きまとう。5月11日と15日に弾かせて頂いた際も例外ではありません。これからの課題を忘れないうちに、練習再開!にわかに焦って来て、昨日の夜は演目解説を一気に書き上げた。お気づきの点がおありでしたら、お手数ですが、ご一報いただければありがたいです。 第一部「天上の音楽」=『ゴールドベルグ』変奏曲 古代ギリシャにて数学者のピタゴラスは鍛冶屋の金を打つ音がハモる時、ハモっている金づちの重さが整数比になっている事に気が付きました。「天上の根源は数である」=>「音楽は数を体現している」=>「音楽は天上を体現している」…『天上の音楽』と言う概念の誕生です。「動きあるもの全てに音がある」と考えた古代ギリシャ人は、惑星の動きも音を奏でている、と考えました。この事も「天上の音楽」、そして「音楽=天上-すなわち数字-の体現」と言う考え方を強めたのです。この考え方は、後にガリレオやコペルニクスが実際には天上の音楽は在り得ないと証明した後でも、西洋音楽を大きく影響し続けました。バッハもその影響を受けた一人。彼が数字学や、黄金律などと言った数学的概念を自分の作曲に応用したことは良く知られていますが、ゴールドベルグ変奏曲はその最たる例と言えるのではないでしょうか。 30の変奏曲のリストをご覧ください。ルター教の熱心な信者だったバッハは三位一体(父と子と精霊の三者、全てが一人の神だと言う考え方)から、特に3と言う数字に重点を置いてこの曲を構築しています。3つの変奏曲を一つの単位として進行するのですが、この3つの変奏曲は常に「作曲技法(音楽様式)」「鍵盤技術(手の交差)」「カノン(輪唱)」と繰り返しています。この3つはいわば、知性(父)、肉体(子)、感性(精霊)を象徴していると言っても良いでしょう。さらに主にト長調のこの曲で3つの変奏曲だけがト短調…紙面の都合上、これ以上例を挙げるのは辞めますが、掘り下げれば掘り下げるほど、バッハの数字へのこだわりがこの曲に実に緻密に、そして至る所に織り込まれているのが明らかになります。人間の創造とは思えないこの完璧な音の世界を、よろしければ宇宙を想像しながら、お楽しみください。 J.S. Bach (1685-1750) 『ゴールドベルグ』変奏曲(1741)  (正式名:2段鍵盤付きクラヴィチェンバロのためのアリアと種々の変奏」 (ドイツ語: Clavier Ubung bestehend in einer ARIA mit verschiedenen Veraenderungen vors Clavicimbal mit 2 Manualen)、BWV988   主題アリア3/4拍子 第1変奏3/4拍子、1鍵盤。 第2変奏2/4拍子、1鍵盤。 第3変奏12/8拍子、同度のカノン、1鍵盤。 第4変奏3/8拍子、1鍵盤。 第5変奏3/4拍子、1あるいは2鍵盤。(手の交差) 第6変奏3/8拍子、2度のカノン、1鍵盤。 第7変奏 6/8拍子、1あるいは2鍵盤。(ジーグのテンポで) 第8変奏3/4拍子、2鍵盤。(手の交差) 第9変奏4/4拍子 3度のカノン、1鍵盤。 第10変奏2/2拍子、1鍵盤。(フゲッタ) 第11変奏12/16拍子、2鍵盤。(手の交差) 第12変奏3/4拍子、4度の反行カノン(鍵盤指示なし)。 第13変奏3/4拍子、2鍵盤。 第14変奏3/4拍子、2鍵盤。(手の交差) 第15変奏2/4拍子、ト短調、5度の反行カノン、1鍵盤。 第16変奏2/2拍子 – 3/8拍子、1鍵盤。(フランス風序曲) 第17変奏3/4拍子、2鍵盤。(手の交差) 第18変奏2/2拍子、6度のカノン、1鍵盤。 第19変奏3/8拍子、1鍵盤。 第20変奏3/4拍子、2鍵盤。(手の交差) 第21変奏4/4拍子、ト短調、7度のカノン(鍵盤指示なし)。 第22変奏2/2拍子、1鍵盤。

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