「忙しい」と感じてしまう。
まず、十日後にあるルネッサンス音楽の試験。
来年の9月に迎える博士課程の筆記と口頭試験の下準備でもあるこのクラス。
中世の沢山の王朝、そしてそのパトロンの影響によって変わる、音楽の流行。
そしてもちろん、王朝の影響について勉強し始めたら、政治についても勉強しなければいけない。
政略結婚、色々な王朝メンバーの病気、死。
さらに印刷機の発明による音楽市場の変化。
それまで音楽家から音楽家へと口伝えで伝承されてきた音楽が、
印刷機の発明によって一挙に一般市場へと広がる。
そしてそれによって変わる音楽のスタイル、楽器、アンサンブル、社会需要。
学べば学ぶほど、自分の知識の浅はかを思い知らされる。
そして、例えばこの時代の色々な王様の名前一つとっても、兎に角大変。
チャールズ、と言う名前を例にとって見よう。
チャールズ8世(1470-1479)と言うのが、フランスに居る。
音楽史に置ける彼の重要性と言うのは
ハプスブルグ家の皇女、Margare of Ausutria(1480-1530)と言う
後の重要な音楽のパトロンと、
彼が12歳、彼女が2歳(!)の時に政略結婚させられることだけなのだが、
ややこしいのはこの後結婚が色々な政治的理由で消滅し、
スペイン皇太子との結婚もこの皇太子が結婚6ヵ月後に死亡してしまい、
その後サヴォイ公とも結婚するが彼も3年後に死亡。
結婚はもう生涯ごめん、と決めたマーガレットは
この後6歳でブルターニュ公に即位した甥っ子のチャールズ5世の養育係、そして政治代行係になる。
さらにこのチャールズ5世は後に16歳(1517年)でチャールズ一世としてスペイン王に即位。
なぜ皆「チャールズ」なのか。ややこしいではないか!
ルネッサンスの試験のほかに天正遣欧少年使節のリサーチもある。
今、私の学校のロッカーは気をつけて空けないと本のなだれに襲われる。
日本から送ってもらった資料、さらに図書館で取り寄せてもらった資料。
合わせるとスーツケース一個分。
さらに12月中旬から1月にかけて企画進行中の様々な独奏会。
ドビュッシーとショパンの関係を中心にしたプログラムを企画しているのだが、
ショパンのほうは新しいレパートリーが多く、
ドビュッシーの方も今年の夏のプログラムを拡張して
「金魚」や「パゴーダ」など特に日本、あるいは東洋の影響の大きい物をいくつか譜読み中。
そして「非音楽専攻のための音楽理論」のクラス。
準備と宿題の採点で毎週どうしても10時間くらい使ってしまう。
19人居る生徒は大半とても熱心で本当に可愛い、と感じるが、
段々追いついてこれない生徒も出てきてしまった。
宿題が半分以上未提出の生徒―来年の卒業を見越して、ビジネス・プランの企画で忙しかったらしいが
試験で41点を取ってしまい、私が警告を発したところ、全くクラスに来なくなってしまった。
私は彼を落第するしかない。
でもそうしたら、彼は今年卒業できないのである。
他にも、生徒の個人情報が色々耳に入ってくる。
生徒は青春の真っ只中。
金八先生の用に色々ドラマが在る。
どこまで立ち入れば良いのか、立ち入っても良いのか。
そしてどこまで客観的に彼らを評価するべきなのか。
でも。
アパートは住み心地が良くなって来た。
ルームメートは落ち着き、洗濯機も回るようになり、勉強机もベッドも入り、
日当たりは良く、冷蔵庫には果物が詰まり、
家に帰るのが楽しみ。
車の運転も段々身に付いて来た。
やはり車移動は楽。
登校時間が半減以下。
どうして「忙しい」と感じてしまうのか。
私よりもずっと大変な人生状況でも、
頼まれごとにはいつも快諾し、いつもニコニコしている人気者も居る。
もっとニコニコしてみよう。
もっと深呼吸してみよう。
大丈夫、大丈夫。
自分が好きな音楽についての勉強でしょ。
生涯やってきた、音楽についての勉強でしょ。
「好きこそものの上手なれ」ですよ。
外は天気。
今日も元気。
行って来ます。
チャールズで困ったら、それぞれの国の名前で憶えては?フランス・しゃるる/スペイン・かるろす/ドイツ・かーる/イタリア・かるろ、とすれば違う感じで憶えやすいかもしれないですね。
>kawashimaさん
確かにそれも考えました。でも、私が一番最初に混乱したきっかけは教科書の表記が全部Charlesだったからなんです。このCharlesを整理するのに、実に数十分かけてしまいました。一瞬マーガレットが甥っ子と結婚させられたのかと勘違いして、パニックしてしまいました。
マキコ