9 練習開始
12;30 昼食、休憩
1;30 練習続行
3;30 キャンパスに移動、ムソルグスキー歌曲のコーチング
5;30 寮に戻って夕食、散歩、友達とおしゃべり
8 練習
10 おしゃべり
タングルウッドは、数多くある夏の音楽祭の一つだが、特長がいくつかある。
一つは、参加する研修生の平均年齢が高く、プロとして扱われることだ。
だから、研修生の多くが、婚約していたり、新婚だったり、
あるいはもう長いこと付き合っているパートナーがいたりする。
4歳の子供を置いて来ている母親もいる。
妊娠している妻と離れて来ている、バリトン歌手もいる。
そして、タングルウッドは2か月と、普通の音楽祭よりかなり長い。
それに、合格発表の後の参加受諾と共に、
「自分は6月21日から8月16日までは、
タングルウッドの許可無しに、現地を離れることはしません」、
と言う契約書にサインさせられる。
家族や恋人が訪ねて来れる状況の人はまだいいが、海外から参加してる人も沢山いる。
お母さんにおいて行かれた4歳の子は、スカイプで毎日お話をしているにも拘らず、
機嫌の悪い日は「もうお母さんなんか嫌い、帰ってこなくていい」とダダをこねるそうである。
お父さんもいるし、この2か月の為におばあちゃんも引っ越してきているのだが。
そしてある日、ジャングルジムから落ちて、腕を骨折してしまい、手術が必要になった。
お母さんは、もう何にも手に付かず、一日うつろに、何となくぶらぶらと過ごしている。
他人事ながら、本当に胸が痛む。
自分だったら子供を置いてまで、タングルウッドに来る根性・信念があるだろうか。
音楽家に長距離恋愛、長距離家族関係は、かなり頻繁にある。
例えば、オケの奏者になるチャンスはとても少なく、競争率はとても高い。
オーボエとトランペットの夫婦が、同じオケで弾ける可能性は非常に低く、
例えば一人はオハイオ州、もう一人はニューヨークとか、そういうことは多々あるのだ。
タングルウッドでホームシックの友達を慰めていると、
私が豪華客船で「ゲスト・アーティスト」として働いていた時の事を思い出す。、
私は毎回一ヶ月の契約で、一週間に一、二回リサイタルをすれば
あとは乗客と同じ身分の気楽な仕事だったが、
ロシアや、ルーマニアなどから来ているバンドの人達は
昼食から深夜までほぼ毎時間なんらかの義務が在るきつい仕事で、
一年単位で家族と離れて暮らしていた。
この出稼ぎ中に子供が生まれ、まだ自分の子供の顔を実際に見たことの無い
サクスフォーン奏者のお父さんもいた。
どの職業にも困難はあると思うけど、音楽の道も中々チャレンジが多い。
でも、音楽が在るから、自分は今の自分になった訳だし、
今の自分だから今ある人間関係が培えて来た。
私はやっぱりここにいて幸せだ。
それに、タングルウッドは出会いの場でもある。
束の間の出会いもあるが、ここで婚約者に出会った、とかそういう人も沢山いる。
皆、たくましく生きている。