移動日について

演奏活動で、特にソリストとして生活の糧を得ようと思うと、物凄い量の旅をすることになる。
本当のスーパースターになると、ほぼ一年中ホテル住まいで、家なんて持つほうがばからしくなるらしい。
私の友達や教授の何人かは、素晴らしい才能と経歴でそう言うソリストになる機会はあったけど、
移動とホテル住まいで参ってしまい、演奏活動をギブアップした人達が何人もいる。
飛行機の中で眠れない、ホテルで眠れない、飛行機でアレルギー反応を起こしてしまう、
あるいはホテル住まいで、いつも新しい知人に囲まれている生活で鬱になってしまう、
など、色々な理由を今まで聞いてきた。
ところが、私は移動日は大好きなのである。
飛行機、バス、電車、どんな移動手段も大好きで、眠ければ全然問題なく眠れるし、
プログラム・ノートを書くとか、ある曲の勉強をする、ペーパーを書く、本を読むなど目的があれば
かけられる時間は始めから分かっているし、飲み物とか持ってきてくれるし、凄く集中できる。
飛行場も、バス・ターミナルも、電車の駅もいつも興味を持って歩きまわる。
それぞれのローカルな工夫が面白いし、人間観察も面白い。
景色を眺めるのも大好きだ。
飛行機で初めて行くところに向かって下降していく時は、私は本当に窓にへばりついている。
農場なのか、工場地帯なのか、自然が多いのか、都市か、都市近郊住宅街なのか、
観察しながら、次の演奏会での私の聴衆の生活を想像してみる。
この人たちは、どれくらい演奏会に行く機会があるのか、どう言う教育を受けてきているのか、
どう言う価値観で、どう言う人種で、どう言う生活を送っているのか?
目的地について、乗物から一歩新天地に踏み出す瞬間の空気、においも好きだ。
(ああ、ここはこういう所なんだあ)、と思って嬉しくなる。
ホテルも大好きだ。
ホテルのお風呂は不潔のような気持ちがして入れない、と云った友達が居たが、
私はホテルのお風呂は後で自分できれいにしなくて良いので、大好きだ。
夜も大抵のホテルのベッドは私のおうちのベッドよりずっと大きくてほわほわで、
楽しいので、ぐっすり眠れる。
昨日のこの時間は摂氏12度のロサンジェルスで荷物造りをしていた。
今日は、零下7度のNYで、冬景色を見ながらブログを書いている。
愉快、愉快。

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