今日は午後、小さな演奏が在る。生涯学習の聴衆のための1時間のリサイタル。今回はヴァイオリン奏者と共演する。
チャレンジはこの会場のピアノ。
寄付された古いピアノ。鍵盤の重さにばらつきがあり、鍵盤によっては弾いた後上がってくるまでの時間が非常に遅いものが在る。もちろん調律もきちんとされてはいないし、椅子の高さもいい加減。こういうピアノでも、ベストを尽くすというのはとても大変。著作権などそっちのけで巨匠が最高条件で収録・編集した録音が様々な形で無料か安値で聴ける時代、聴衆は奏者を知ったつもりで容赦なく審査する。そういう中で気を張って、与えられた状況の中で自分に恥じない演奏をする、と言うのは中々大変なのである。
対処法① ベースラインや、メロディーなど、細かい音以外の大きな音楽の構築に集中する。鍵盤が思い通りに反応してくれないと、細かい音を正確に弾くことに気を取られがちになったりするが、細かい音は割愛しても、大きな音楽に心を込める。
対処法② 『間」を大事にする。どんなにピアノがまずくてもいつでもコントロールできるのは間と呼吸。心を込めて、音楽的な間と呼吸。
対処法③ 手を抜かない。一度アンコール用の映画音楽の音合わせが終わった時に共演者に「美しく弾いてくれてありがとう。でも、最後の和音を弾き終わった時にあなたがペダルで音を引っ張りながら手を外してしまったので、やはりこういう曲を弾くのは不本意なのか、失礼だったかと心配になりました。」と言われたことが在る。自分の本心はどこに反映されるか分からない。どんな状況であれ、ピアノであれ、曲であれ、演奏するからにはプロ精神と音楽家の誠心誠意を込めて自分が誇れるものを発信する。
対処法④音楽家としてやっていくということの現実を受け止める。バッハもモーツァルトもベートーヴェンもシューベルトもシューマン夫妻もリストもショパンも、演奏するピアノや会場に状況(支払いも含めて)に恵まれていない事が多かった。
本心を言えば、良いホールで良いピアノで良いお客様の前で精一杯の演奏を年に何十回もしたい。フルコンで、音響に細心の工夫と最新の技術が駆使されたホールを自分の音で響かせたい。でも、現実には本番が在る事に感謝して、リミテーションの中で自分の音楽性をいかにどこまで発揮できるかと言うチャレンジを受けて立たなければ音楽と言う生業はやっていけない。
ベストを尽くします。
お疲れ様です。
今回の一文は、クラッシック音楽の素人には、わかりやすく、ありがたいものでした。
ペダルによる音一つ聴き逃さないプロの耳には驚かされました。
俗諺に、「九仞の功を一簣に虧く」があります。
指が鍵盤から離れるまで集中ですね。
対処法に一つ加えるなら素人は曲目の聴かせどころと演奏者の聴かせどころを教えてほしいと思います。
これらを知ることで演奏者と一体となって聴かせどころに集中できます。
成功すれば、万雷の拍手につながります。
生業は、新鮮でなければならない、ですね。
今回も刺激的な一文を朝から読ませていただきました。
感謝です。
有難うございました。
小川久男
私はいつも聴きどころや聴き方の提案を含めた解説を行っています。8Kサロンでもしましたよね。
時々お客様に「解説入りのCDはありますか?」と聞かれます。解説はやはり好評な様です。嬉しいです。
それから、「プロの耳」ではなく、この場合奏者は私が鍵盤から手を放すのを見える位置にいたんです。
コメント、いつもありがとうございます。
平田真希子