演奏道中記5.10:ホールでゲネプロ

このブログは日刊サンに隔週で連載中のコラム「ピアノの道」#81(5月15日発表)を基にしています。

今日は明後日の演奏会の会場で2時間リハーサルをしました。

フルコン(フル・コンサートグランドピアノの略)は鍵盤からお尻まで275cmあります。お値段も上限は1500万円くらい。日常的な大きさや値段ではありませんよね。でも、最高の状態のフルコンでしか出せない音色、創り出せない音世界、歌い上げられない曲想があるんです。

一番小さなアップライトですら200キロ以上あるピアノですから、運送も高く付きます。だからピアニストは会場付きのピアノで演奏します。アップライトで弾くこともベビーグランドで弾くこともあります。時には「電子ピアノでもよろしいですか…?」と聞かれる事もあります。フルコンでも、きちんとメンテが出来ていない楽器は鍵盤と鍵盤の重さが違ったり、調律が狂っていて綺麗に響かなかったり、悪戦苦闘を強いられることもあります。だから余計、音響もフルコンの状態も整った状態で演奏できる機会は物凄く嬉しいのです。

それはお料理に例えると出張シェフの様なものなのだと思います。普通の家庭のキッチンで冷蔵庫にあり合わせの具剤を使ってもそれなりの料理を作る事は出来る。でも、最新の調理器具や研ぎ澄まされた様々な包丁が揃った本格的な台所で、最高級の材料を使って初めて創れる料理があり、醸し出せる味わいがあり、そしてそういう環境で湧き出てくる創造性や発揮できる本領がある。

最高級の楽器を音響が完璧に整えられた演奏会場で弾くとき、私が弾く一音一音は、私だけが発信しているのではありません。楽器の製造者も調律師さんも音響設計士も会場の建築家も皆の一生懸命なこだわりと職人魂が、音楽となって解き放たれるのです。そういう時、私は本当に身に余る光栄を感じます。そして、そういう会場やピアノで創り出す音楽時空を集まってくださった聴衆と共にする事を可能にしてくれる平和という物への感謝が身に沁みます。

今日のゲネプロからトッホの作品31

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