この頃会った有名人その1.ジョン・アダムズ

ジョン・アダムズは最も頻繁に演奏されるアメリカの存命作曲家と1996年に正式に認められた、
アメリカ西海岸在住の60代の男性である。
冷戦中のニクソン大統領の中国訪問を題材にした「中国のニクソン」、
1985年のパレスティニアのテロリスト・グループの豪華客船ハイジャックと
その犠牲となったユダヤ系アメリカ男性、クリングホファー氏を題材とした「クリングホファーの死」、
日本に投下された原爆の開発実験の責任者、オッペンハイマーの
実際の書類や書簡を歌詞に書かれた「ドクターアトミック」など、
政治的な題材なオペラが多くあるほか、
9・11犠牲者鎮魂のため、ニューヨーク・フィルから委嘱されて
"On the Transmaigration of Souls"を書いたのも、彼だった。
私は音楽を政治的なメッセージを伝達する手段として使うことを好まない。
音楽には感情を左右する大きな力があると信じているから、
それを、特に近代政治に直接関わりあいのある題材に使うことはかなり危険だと思う。
それでも、彼のインタビューや、講義を聴講する機会を持って
彼が天真爛漫に、本当に無邪気にこういう活動を続けていることは心から信じているし、
そういう人間性善説を信じ切っているような彼の態度を可愛いとも思う。
実際に見た感じも子供をそのまま大人にしたような人だ。
ひょろひょろと背が高くて、目の奥がいつも笑っている。
人の目をまっすぐと見て気持ちがいい声でいつもしゃべる。
コルバーンでの学友が子供のころから彼の指針を仰いでいて、
そんな関係でジョン・アダムズの指揮する演奏会や、初演にはよく券をもらって聴きに行った。
この5月下旬にもロサンジェルス・フィルが彼の最新オペラ「フラワリング・トリー」の演奏会バージョンを取り上げ、
作曲家自身の指揮、と言うことで先ほどの友達と一緒にコンサート前の夕食を近くの路上でかきこんでいたら、
なんと向こうから歩いてくるのは、ジョン・アダムズ!!
これから3時間近く指揮をする人間とは思えない気楽さで、にこにこ・ぶらぶら歩いてくる!
そして一緒にパスタをかきこんでいる私の友達を見つけ、こちらにトコトコ歩いてきて、
手を差し出してきて「Hi, Ryan! Who is your friend?」と握手している。
私はちゃんと「Hi, I am Makiko」と言ったのに、ミスター・アダムスは自信を持ってなぜか
Hello, Wendy! It’s very nice to meet you!!
そして私と握手して、すたすたと実にさわやかに会場に向かって歩いて行ってしまった。

どうやったら真希子がウェンディーに聞こえるのか。
もしかしたら、私は自分が誤解していただけで、私は生まれた時からウェンディーではなかったのか。
そうだ、きっと私は今、真希子と言ったつもりできっとウェンディーと言っていたのだ。
。。。と、思わず思いたくなるような、晴れやかな笑顔だった。
このあと彼は、演奏会前のインタビューで
「ここまで有名になってしまうと、大事な式典の為の委嘱が沢山来る。
断るのも嫌だし、前にやったのと同じことをやるのも嫌だし、失敗するのも嫌だ。
凄いプレッシャーだ。
そして、何よりも前にやってのと同じことをやるのは絶対に嫌なので、
新しいことを試みて、時には失敗することもある。
失敗したときは申し訳なくてどうしていいか分からない」
と話した。
私は心から彼の正直さに感動してしまった。
そして、「フラワリング・トリー」は、私の意見ですが、お世辞にも彼の代表作とは言えない。
ははは。
私が彼の作品で一番好きなのは、オラトリオ「エル・ニーニョ」です。
それから、9・11鎮魂の"On the Transmigration of Souls"も感動的です。

2 thoughts on “この頃会った有名人その1.ジョン・アダムズ”

  1. J.アダムズのオペラ作品は誤解も多いですが、音楽の堅牢な性質や、クリングホファーの死の下敷きにあったマタイの形式の採用などみるべきものがありました。それにしてもアメリカの状況、とても興味深く読ませていただきました。

  2. コメントとぺた、ありがとうございます。
    「誤解が多い」と仰るのは、アダムズ自信が
    題材を誤解していることがある、と言うことですか?それとも、誤解されやすいオペラ、と言うことでしょうか?マタイ形式の採用は、知りませんでした。と言うことは、アダムズの中では
    クリングホファー氏=キリスト
    だったのでしょうか。
    なんだかそれも大げさな気がしますが。

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