書評:習慣の力(2012)

私は原語で読みました。The Power of Habit: Why We Do What We Do in Life and Business by Charles Duhigg (2012), Random House Trade.

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最近の読書は、内容もさることながら、ベストセラーの書き方に共通する事は何か、どういう書き方が本やメッセージに力を与えるのか、研究するつもりで読んでいます。この本はニューヨークタイムズやアマゾンのベストセラーに選ばれただけでなく、2012年の Financial Times and McKinsey Business Book of the Year Award にも選ばれています。

この本の主張は簡単に要約する事が出来ます。それはこの本の構築と論点が良くも悪くも簡潔だ、と言うことです。以下にまとめてみましょう。

  • 習慣は無意識。例えば脳の破損により、新しい出来事を記憶する事が全くできなくなった人(側頭葉の内側-Medial Temporal Lobe新しい記憶を時間に基づいて整理するという機能をも持つーを破損すると短期記憶が出来なくなる)にも、繰り返しによって新しい習慣を確立する事は可能です。習慣は全く違う、もっと本能に近い脳の箇所(Basal Ganglia、大脳基底核)に記憶されるからです。2006年に発表された研究によると、私たちが日常的に行う行為の約40%は、習慣に基づいているということです。「研究者によると、脳は常に効率を上げる方法を模索しており、習慣と言うのはその結果である。脳まかせにすると、脳は我々の行動のできるだけ多くを習慣化しようとするだろう。(原文より “Habits, scientists say, emerge because the brain is constantly looking for ways to save effort. Left to its own devices, the brain will try to make almost any routine into a habit, because habits allow our minds to ramp down more often.” (P. 17-18) 」
  • 習慣はきっかけ→ルーチン→報酬のループ。報酬への欲求によって突き動かされている。
歯磨き粉のヒリヒリは歯の衛生とは全く無関係。歯磨きを習慣づけるための報酬です。
  • 「習慣のループを意識することの重要性には、習慣は私たちの決断力をも上回る執行力が在る事による。(原文より”But the reason the discovery of the habit loop is so important is that it reveals a basic truth: When a habit emerges, the brain stops fully participating in decision making.” (P. 20)」人生を意識的に良心的に生きるためには、私たちは自分たちの習慣が私たちの日常や人生や思考や決断に与えるインパクトをを定期的に 再考しなければいけない。習慣のループを始動するきっかけは?私たちが無意識に欲求する報酬とは?
  • 習慣を変えるための黄金のルール:きっかけと報酬はそのままで、ルチーンを変える。
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例えば飲酒の習慣は「きっかけ→いらいら、報酬→安堵感」と自覚し、お酒を会話と置き換え、断酒。
  • 「キーストーンハビット」と言うものが在る。この習慣さえ変えれば、波及効果で色々な習慣が連鎖的に変わっていく習慣の事。

この本の良い点。実際の個人や団体の逸話を前提に、それを説明する形で脳神経科学。社会学、心理学、マーケティングなどの研究やデータを紹介する。 ヒューマンストーリーが、学説を身近で感情移入しやすいものとしている。

この本の惜しい点。この本ではストーリーも研究も、上に挙げた概念を説明するという意図のために、簡略化された一面的な視点で紹介されている。更に、筆者が紹介する概念をどのように読者の状況に応用できるか、と言うことがあまり明確に提示されていない。

個人的感想: 習慣付けることが効率性につながる、と言うのは理解できる。歯磨き・通勤など、日常的な事を一々意識していたら大変だ。でもバランスと程度が重要だと思う。恐怖政治や、軍事主義、ステレオタイプや固定観念は習慣に支えられていると思う。教育は習慣の形付け、と言う風にも見れる。文化的偏見やその結果の例えば差別行為と言うのも習慣の結果、と言える。私たちの自由意志はどこまで有効なのか?私たちはどこまで独立した思考をつらぬけるのか?

音楽的な観点:面白い逸話が在った。「この曲をかけると視聴者がチャンネルを変えない曲」 と言うのが在るそうだ。有名な曲もあるが、全く無名な曲もある。こう言う曲を業界では「Sticky(粘着性がある)」と言うそうだ。研究の結果、粘着性のある曲と言うのは、そのジャンルの公式にのっとって、視聴者の期待と完全に一致する、(どこかで聴いた事が在るような)曲だったそうだ。脳神経科学的に言って、音楽をプロセスする脳はパターンを探している。だからパターンが簡単に見つかる曲が心地よいと感じるのだそうだ。それでは、奇抜な新曲と言うのはどういう風に紹介するのか?今までに無かったような曲。専門家が一押しの曲。業界責任者が「売れる」と踏んで大きな投資をした曲。こういう曲は粘着性が在る曲の間に入れるのだそうだ。そして、何度も何度も繰り返してそこら中で流す。視聴者の深層心理に届くまで、その奇抜さがなじみ深くなって、それ独自の粘着性が出るまで。

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粘着性のある曲2曲の間に新曲を入れて、繰り返し流す。

結論:不必要に長い感もあったし、複雑な主題を簡潔化しすぎてる感も否めないが、この本は読みやすい。逸話は面白いし、まとめ方が簡潔なのでよく理解できる。

2 thoughts on “書評:習慣の力(2012)”

  1. 新春おめでとうございます。

    ピアノの道は、子年に代わった途端、文章のリズムが躍動して本当に凄い人なんだと改めて思いました。
    無知を恥じつつもぴったりの一文を発見しました。

    孔子の言葉です。

    子曰く、「これを知るをこれを知ると為(な)し、
    知らざるを知らずと為せ。
    是(こ)れ知るなり」(為政)
    知っていることを知っているときちんと自覚して、
    知っていないことは知っていないとはっきりと知りなさい(無知の知)。
    それこそが真に知るということです。
    この世に生きている人間には、よく理解出来ることと理解出来ないこととが存在します。
    孔子は知らないことを知っているように思い込むことを戒めたのです。
    ある時、弟子の一人に人間の死について問われたことがありました。
    その時の孔子は「いまだに生についてさえよく知らないのに、どうして死について知っていよう」の様に答えています。

    小川 久男

    1. 本当にそうですね。
      勉強すればするほど、自分の無知に感じ入ります。
      いつもコメント、ありがとうございます。

      平田真希子

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