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私の思い描く理想郷では、芸術家は、宗教家や教育者や医者や料理人とセラピストやソーシャルワーカーと同じように、社会的に重要な役割を果たす人々として受容されています。そして、例えば相談事があったらセラピストやソーシャルワーカーや宗教家に教育家に行くように、音楽家やアーティストに相談してみよう、と思ってもらえるような、日常生活に組み込まれた尊敬される、でも身近な存在です。どうやって音楽を日常生活に活用すれば、より健康、より幸せ、より生活の質向上ができますよ、というような相談に乗ったり、もっと日常的に音楽で時空を共体験するコミュニティーの場を一緒に作っていくのです。
芸術家が、プロとしての経験と専門性を身に着けるためには、長年の教育と訓練と経験を積む場が必要です。プロになるまで訓練を積んだ芸術家の多くが、国際経験豊かで、最高学歴を持ち、専門を極める上で色々な考察や内省を重ねる機会を得ています。こういう自己鍛錬は、普通の社会人には中々与えられない時間と機会です。長年の鍛錬を要する芸術家を、社会は多数養うことはできません。本当はそういう鍛錬の賜物である精神性や観点というのは社会に活用されたら良いのですが、実際には現在、芸術家の多くは非常に限られた技術を披露するだけで、社会からは隔離された存在として生きています。多くの芸術家はぎりぎりの報酬で、社会の接点も少なく、飼い殺し状態です。これは芸術家にとっても社会にとってももったいない話です。
古代文明の多くで、ヒーラーや祈祷師は芸術をも営みました。そして今脳神経科学が、音楽や創造性がいかに我々の心身の健康に必須かということの研究とデータをどんどん発表しています。でもそれをじゃあ実際どうやって日常生活に応用したらよいのか、という具体例はまだ少ないです。
例えばイギリスでは、お医者さんが「毎週一度美術館に行ってください」とか「この演奏会に行ってください」といった処方をし、その経費を保険で一部カヴァーするといった試みが試験的に開始しています。芸術家も刑務所やホームレスシェルターで定期的に演奏会をするというNPOを立ち上げたり、貧困層の子供たちの無料のレッスンをすると言った慈善事業を行ったりしています。でもこれらは全てニュースになる事柄です。ニュースになる、ということは特例だということです。
私は音楽が実際に人をより健康、より幸せ、より人間的で友好的にできると信じています。そういう逸話を沢山見て来ていますし、そういう研究にも携わったり、読んだりしています。でも、私がピアノを弾く合間に壇上からドレスを着て「音楽は心身に良いんです。データが沢山あります。脳神経科学がうんちゃら・・・」といくら言っても、中々世の中の意識を変えるには至りません。
一つには私の知名度が残念ながらまだ低いことにあります。もう一つには、古代ギリシャから肉体と知性を分けて考える伝統があり、スポーツ選手や楽器奏者のように体を使うものには、精神性や知識がない、という偏見があります。私がピアノを弾く医者であったのならもう少し良かったかも知れませんが、私は脳神経科学をかじったピアニストです。でも、ピアノを極め、音楽学を勉強した私の様な奏者が説ける音楽の効果というのもあるんです。それをどうやったらうまく伝えられるのか、どうやったら広められるのか...
人は必要とされることが必要です。世の中の役に立っている、人の幸福感や生活を向上しているという実感が本人の幸せだと、私は思います。そして私はこの社会に貢献する技術と観点数十年の経験が在る。芸術は、ストレス軽減、苦痛解消、ホルモン分泌の正常化、など計測できる効果がある、と科学的に証明されています。もっと役に立ちたい。
今やっていることは、同業者の音楽家や他の芸術家に訴えかけて同志を増やそうということです。一人ではできないと思うからです。私は、大げさに言えば、意識改革を起こしたいのです。もっと芸術と芸術家を社会起用してください。そうすればもっと良い社会になります。パンデミックでこれから色々大変ですが、芸術家と芸術を上手く活用すれば、社会のハーモニーを保ち、困難な状況でも幸福感を高めるお手伝いができます。
革命家、Dr.ピアニストです。
お疲れ様です。
主張しましたね。まさに正論です。
音楽家は、パトロンあっての芸術活動だという考え方が今も人々に固着しています。
芸術とは人を幸せにする文化です。
シンプルな考え方を主張し続けましょう。
小川久男
勿論、芸術家が自活できるまでの社会システムが確立するまでは、資金援助は必須です。
私も時々、この状況下でいつまで続けていけるのか不安になります。
主張はもう何年もしていますし、出来る限りし続けます。
でも、共感を倍増させて行けなければ、やっていけません。
平田真希子