ヴァレンタインのアルバイト

ヴァレンタインの日の午後、学校から紹介された、と言って
結構大きな会社のVIPの秘書からメールが来た。
今日が奥さんの誕生日、しかもヴァレンタイン、と言うことで
急遽サプライズでピアニストを呼んで、夕食中のBGMをお願いしたい、との事。
今夜は特に予定が無かったし、受けてみた。
結婚37年目の夫婦。さすがに高級アパートだが、気さくな感じの二人。
二人が意外につましい夕飯を食べている間、ドビュッシーやショパンや
静かで癒し系の曲を5曲くらい弾いた。
一曲ごとに拍手をしてくれる。
むしろ無視してくれた方がお互い気楽かも、と言う気持ちもちょっと在ったが、
でもやはりちょっと嬉しい。いちいち褒めてくれる。
夕飯が終わって、夫が古いポップスのラブソングの楽譜を持ってきた。
簡単な編曲で、問題なく初見できる。
そしたら、最初はもじもじしていた夫が、ピアノの周りを去らないので、何かな~と思っていたら、
2番目から歌い始めたのである。
声が出ていない、息が続かない、そしてこちらまで恥ずかしくなるほど照れまくりながら、
でも、最後まで歌いきった。
「この曲は37年前、結婚式の時歌ってもらった歌なんだ」
聞いて、感動してしまった。
ラブのおすそ分けをもらった感じ。
約束の5割り増しをキャッシュでくれた。
いろんな意味で良いアルバイトだった。

4 thoughts on “ヴァレンタインのアルバイト”

  1. なかなか楽しいヴァレンタインの日でしたね。
    日本はなんだか歳暮中元みたいな年中行事化してしまい、わたしはつまらないです。おまけに3月14日が男子のお返しの日だなんてね。そもそも日本人は愛なんてもの、ほんとうのところ考えてないのでは?と思います。

  2. >kawashimaさん
    男女間の「愛」と言う言葉は日本語にもともと無かった、と言う話を『金八先生』で聞きました。ヨーロッパ文学を訳す時初めて「愛」と言う言葉に突き当たり、適当な日本語訳が無かったので「I love you」を「あなたのためなら死んでも良い」と訳したとか。
    どうでしょう、一般的に感情表現することをあまり良しとしない文化の中で、何十年も寄り添った夫婦と言うのはどうやって『愛』を認識するのでしょう? 私が垣間見た今回の夫婦の一こまは色々印象深かったです。
    マキコ

  3. >ピアニスト、makichaさん
    ちょっと調べました。古語における意義は、「かなし」という音に「愛」の文字を当て、「愛(かな)し」とも書き、 相手をいとおしい、かわいい、と思う気持ち、守りたい思いを抱くさま、を意味したそうです。また仏教では、慈しみを意味する「慈悲」と、愛欲・愛着を意味する「愛」という言葉があり、「愛」は、異性、お金、名声などへの「執着心」の意味。となると愛別離苦というのは愛するの者との別れの辛さというより、自己の断ち切れない執着心の苦しみということになりますね。やっぱり愛と日本人は縁遠いようです。

  4. >kawashimaさん
    なるほど、だから西洋の「I love you」が自己犠牲、自己否認の「あなたのためなら死んでも良い」なのですね。キリスト教文化の「愛」と言う概念は仏教の「慈愛」とは似て異なる物なのかも知れませんね。
    でも、私は日本人の夫婦にも昨晩の夫婦と同じくらいお互いを気遣いあって素敵な関係を築いているカップルを沢山知っています。愛は信じる物なのかも。あると思えばあるし、無いと思えば無いもの。今、思いつきました。

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