美笑日記6.12:ミスなんてないさ!

Do not fear mistakes. There are none. (ミスを怖がるな。そんなものは存在しない。)—Miles Davis

先週の土曜日「ハッハッハ長調」を演奏してきました。もう長期にわたって何度か弾かせて頂いて、少しだれ気味のプログラム。新曲にすでに興味が移っていて、うっかりすると練習がおろそかになりがち。演奏会前日の金曜日は集中して復習練習をみっちりするつもりが…オンラインで教えてる生徒さんのお世話に思いがけない量の時間がかかり、結局一日ほとんど練習せず。

(でもまあ、もう熟知の演目だし…)

ところが…なぜかその夜、全然、ぜんっぜん、眠れなかったのです。

(これは…いかん!)

私の頭の中は宮本武蔵です。状況は状況。あがいても悔やんでもいたしかたない。問題はこの状況を踏まえてどうやって悔いのない戦い…ではない演奏をこなすか!会場に向かう前の4時間をどう過ごせば一番良いか、頭の中でシミュレーションをしてみます。

15分ほど軽く走り息を上げた後、冷水のシャワー。そして練習。タンパク質と炭水化物の朝食。10分の瞑想。20分の朝寝。着替え。出発。

45分の運転中は、いつも聞くニュースやオーディオブックも全てオフにし、頭の中で演目の復習をします。可能な時は目を閉じて、できるだけ体も脳もリラックス。脳のキャパをセーブしなければ。

ほぼ満席。2か月に一回の演奏会を主催して下さる図書館員さんのMさんとその基金集めのボランティアを率先して下さっているPさんのお誕生日ということで、ハッピーバースデーの合唱で会を始めたあと、独奏会の始まりです。でも寝不足でむしろ意識が引き締まっていたのが良かったのです。音に対して敏感になっていて、余韻をいつまでも集中して追える自分を発見。全体的な構築をしっかりと創り上げられた、誇りを持って自分の音楽と言える演奏ができました。…とはいえ、普段なら絶対しないミスがあったのも事実です。下は全曲ではありませんが、ハイドンのソナタを中心に自分の反省のために撮った録画です。

常連のお客様も初回のお客様も手放しで喜んで下さり、主催のMさんは「ブラボー」を惜しみなく発して「最高の誕生日だ!」と満面の笑顔を輝かせて下さり、図書館のアップライトで50人ほどの小さな観客のための演奏ではあるけれど、これもピアニストの醍醐味ではないか、と思えるようなひと時でした。演奏後、私を囲んで愛好家の方々の熱心なおしゃべりが止まりません。特に自分を「通」と自負していらっしゃる男性は、私には他のピアニストにない「節度」があると大きな声で吹聴してくださいます。「アシュケナージなんて、叩きまくって音が割れている。聴けたもんじゃない。それに比べて君は(ここぞ)という時のために大音量を取っておいて、それ以外に於いて素晴らしいコントロールを発揮している。テンポに関しても同じだ。速ければいいってもんじゃないっていうことを理解していないピアニストが多い中で…実に感心だ。」他のお客様のご挨拶にも笑顔でお礼をしながら、こういう熱のこもった談義に相槌を打つのは結構大変。だから男性が最初に「そして君の演奏会は3回目だが、まだ一度も君が音を外すのを聞いたことがない。」と言った時は「ええ、ええ…」と適当に返してしまいました。ところが、一瞬脳みそがフリーズした後にえええええ~~~~~???となったのです。

私:「いやいや、私はミスしまくりですよ!」

お客さん:「私には一音もミスは聞こえなかった!」

…確かに、自分には真っ赤な烙印に思えるおでこのニキビに他人は全く気が付いていないというようなことはよくあります。

う~ん…そんな時に頭の中で聞こえてきたのが童謡「お化けなんてないさ」。子供の時、夜中トイレに行くのが怖い時に一生懸命自分で歌った曲です。(お化けを「ミス」に置き換えて)

♪おばけなんてないさ・おばけなんてうそさ・寝ぼけた人が・見間違えただけさ・だけどちょっとだけどちょっと僕だってこわいな・(最初に戻る)

ミスがある・ないではなく、ミスをどれだけ重要視するかしないか、ということなのでしょう。そして確かにミスに気を取られて音楽がおろそかになっては本末転倒!そしてなぜ今回の演奏が自分でも満足できたかというと、寝不足なのでミスをしてもかまっている余裕がなく、(兎に角前進あるのみ!)の姿勢で過ぎたことは全て流して前向きに弾いていたからなんです。

思いがけず大事な教訓を得た、土曜日のミニ・独奏会でした。

そうそう、3回シリーズのインタビューが3回分全てYouTube公開となりました!よろしければ英語ですが、御覧ください。

一回目:自己紹介と私のビジョン。

2回目:テンポ:音楽による環境運動、など

3回目:ピアノバン大冒険、など。

2 thoughts on “美笑日記6.12:ミスなんてないさ!”

  1. Yuko Yamaguchi

    これこそプロの演奏!一曲目から耳も心も持っていかれました。良い演奏はホールの大きさや響き、楽器の良し悪しなど軽く凌駕しますね。

    今回の演奏、ライブ録音のCDなら良いのに!と思いました。

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