美笑日記7.2:ピアノに聴く革命

「全ての人間は平等であり、生命・自由・幸福の追求を含む妥協できない人権を生まれつき授かっている。これらの人権を確保するために、人々の間に政府が樹立され、統治される市民の合意から正当な権力を得る。」

—米合衆国独立宣言より。

「西洋音楽の父」バッハが2歳だった1687年、ニュートンが「自然哲学の数学的原理」を出版。地動説で教会を揺るがした科学革命の集大成となると共に、信仰や伝統や王政などの従来の権威よりも理性を重視する啓蒙主義の時代が到来します。その結果がアメリカ独立戦争・フランス革命に始まった欧米各地の革命の時代。有名なショパンの「革命」 は、1830年ポーランドがロシアの圧政に反旗を翻し敗北した悲壮に触発された作曲とされています。

独立宣言が公布された1776年7月4日、モーツァルトは20歳。ザルツブルグ大司教の雇用音楽家でした。神童としてヨーロッパ中を旅行した過去から一転。オペラ劇場もない片田舎で、宮廷音楽や教会音楽の型にはまった作曲や演奏の業務を窮屈に感じていました。モーツァルトに並んで古典派を代表する「交響曲の父」ハイドンは44歳。ハイドンの師事を20代に仰ぎ、のちに理性の古典派から感情のロマン派への架け橋となるベートーヴェンは若干5歳です。

啓蒙主義と共に広まった個人主義。一人で音楽を完結できるピアノはその象徴となります。その上ピアノは産業革命の技術発展により音量・サイズ・精工度の急進化を遂げ、更に大量生産の恩恵を得て目覚ましい市場進出を叶えます。その結果、機械が人間社会に進出することへの危惧の象徴ともなったピアノ。そのピアノを制覇するリストなどのヴィルチュオーソは英雄ともてはやされます。ピアノの演奏様式や曲風は、これら全ての時代背景を反映して発展しているのです。

米国大統領選の今年、ピアニストとしてできることは何なのか。独立記念日前夜は演奏会。その翌日には民主主義発祥のアテネに向かい考察を続けます。今年はどういうご縁か、9.11にも演奏が入っているんです。

この記事の英訳はこちらでお読みいただけます。https://musicalmakiko.com/en/life-of-a-pianist/3265 

この記事は日刊サンに隔週で掲載中のコラム「ピアノの道」♯132(7月6日発表)を基にしています。

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