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イエールの「Science of Well-Being(幸せの脳神経科学)」のクラスで、今日は幸せへのキーとして「味わう」という概念について更に深堀り。そこで、今週の木曜日に予定している演奏ライブ配信についてさらに考察するきっかけをもらう。
今日学んだことは「味わう・愛でる(Savoring)」と言う行為をより楽しく手軽にするのは「シェアリング」であるということ。「美味しいね」「きれいだね」「凄いね」と言いあう。または後から誰にどのように言うかを楽しみにしながら経験する。
…だから私はお花の写真を撮らずには居られないのか!時々調子よく走っていて綺麗なお花を眼にするとき(でも他のお花も皆綺麗だし、タイムも気になるし…)と通り過ぎようと思う時もある。でもそうすると、お花に呼ばれているというか、お花が可哀想というか…(明日には今日のこのお花の美しさは違ったものになっている。この瞬間を撮ってあげないと勿体ない)と思ってしまうのだ。お花の記録を残したい、そしてシェアしたいという気持ち。これが人間性なのかな~。
だから、音楽を録音したいと思うのかな~?そして生演奏が不可能な今、ライブ配信でもYouTubeヴィデオでもいいから発信したい奏者がいて、そして聞きたい視聴者がいるのかな~?
つらつら考えていて、故クロード・フランク先生にレッスンを付けてもらった時の事を思い出しました。モーツァルトの協奏曲K.488でした。この時のブログからちょっと長いですが、抜粋します。
おやつを食べ終わって、「それでは始めましょう」と私が居間にあるピアノの前に移動しても、彼は食堂のいすに座ったままです。ヘルパーさんが「ピアノの方に行かないのですか」と促しても、「ここでいい」と堂々と座っておられます。私は「?」と思いながら弾き始めました。
すると、その日のレッスンは「大きなホールでどのように自分の音と音楽性を響かせるか」と言うことだったのです。ピアノから離れて座られていたわけが分かりました。先生は二部屋離れたところから、怒鳴るようにして私に指示を出してきます。
「はっきりと自分の音楽性を発音しなさい。こまごま小細工しても、遠くでは失われてしまう!」
「16分音符が続くパッセージでも一つ一つの音に大きな方向性を持たせて。」
「二音と同じに弾いてはいけない!」
「小さくまとめないで!Don’t be timid!(これはレッスン中繰り返し言われました)」
そしてオーケストラ・パートをたっぷりと歌って下さいます。
彼が歌っているオケ・パートに合わせてダイニングルームから叫ばれる指示に従いながら弾くと、不思議と黄金時代のピアニストの様式に似てきます。
あの頃は録音技術が発達しておらず、生演奏を聞くことが主流でした。しかも今の様に「音響設計」なるものが建築の一部になっておらず、演奏会場と一口に言っても音響も多様だったはずです。ラジオ放送にもLP再生にも雑音が混じる時代でした。そういう時に、空間、聴衆の数などに比例して、音楽やスピーチの抑揚を大きくすることは必要不可欠だったのでしょう。昔のラジオのアナウンサーのしゃべり方は今では大げさに聞こえますよね。
Mr. Frankが私に伝授して下さろうとしたことは、音楽を分かち合おうと言う姿勢にも繋がる物だと思うのです。自分のために弾かない、世界のために弾く、と言う姿勢。
...あの時のレッスンの事をこうして書いておいてよかった。そしてあのレッスンを受けられたことの光栄と幸運で、今涙が出る気持ちです。
すでに認知症がかなり進行しておられたMr. Frankは、ひどいリュウマチでよちよち歩きなのにも関わらず、あの日私を送っていくと言ってヘルパーさんを困らせました。そして外は8月の炎天下というのに、ジャケットを着ていくと言って聞かなかったのです。「失礼じゃないか」と。いつもおしゃれでダンディーな方でした。音楽の天使のような方でした。そして今、9年前にしたためた自分のブログと、Mr. Frankの付けてくださったレッスンの思い出のお陰で、私は木曜日にするライブ配信に新しい意欲を見出す事ができています。
戦争中にも、疫病の時も、楽器が悪くても、音響が悪くても、LPの針が跳ね続けても、ラジオの雑音がザーザー酷くても、人々はいつもいつも、なんとか音楽を聴こうと、すごいハードルをいくつもいくつも潜り抜けていたんだと思います。私も音楽家としては、どんな妥協を強いられても、音楽を共有するという姿勢を続けなければいけないんだ、と思いました。
お疲れ様です。
素直な感情がありのままに綴られて清清しく感じます。
小川久男
ありがとうございます。
忘れてはいけない思い出を、思い出せて、そしてシェアできて良かったです。
平田真希子